ここに注目!環境法

【第32回】「生物応答」の排水管理とは?
〜水質汚濁防止法の排水規制、変化の兆しか

環境コンサルタント 安達 宏之 氏
(洛思社 代表取締役/環境経営部門 チーフディレクター)

2015年11月20日、環境省から「生物応答を利用した排水管理手法の活用について」(検討会報告書)が公表され、注目を集めています。

「生物応答」という言葉を聞き慣れないと思う方も多いことでしょう。

これは、未知の化学物質や規制対象外の化学物質を含めて評価する取組として、排水の水生生物への影響を総合的に把握する手法を指します。
具体的には、採取した排水の中に所定のルールに従ってミジンコなどの生物を入れて、生物への影響を評価するという「バイオアッセイ(生物応答試験)」を実施するものです。排水規制の一手段であり、諸外国で導入が進んでいます。

我が国における排水における化学物質規制としては、化学物質審査規制法(化審法)や化学物質排出把握管理促進法(化管法)、水質汚濁防止法などがあります。

化審法では、化学物質の環境汚染を未然に防止するための審査制度や規制措置を定めています。化管法では、PRTR制度によって社会における化学物質の移動・排出量を可視化するとともに、SDS制度によって事業者間の化学物質の管理適正化を図っています。

さらに水質汚濁防止法では、健康保護と生活環境保全の観点から、公共用水域への特定事業場からの排水を規制しています。有害物質28物質と生活環境項目15項目について排水基準を設定し、基準値内の排水を義務付け、違反した場合は罰則が適用されます。

こうした排水規制がある一方、全国の一級河川において原因物質が特定できない魚の浮上死が139 件発生するなど(2014年)、未規制の化学物質等が水生生物に影響を及ぼし得ることが懸念されていました。
つまり、化審法や化管法で化学物質全体を管理するとともに、水質汚濁防止法などによって個々の物質を規制している現状の規制体系だけでは、水環境の保全を図るのは不十分ではないかということです。

そこで、環境省は、「生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会」を設置・検討し、今回の報告書がまとめられるに至りました。

報告書では、生物応答を利用した排水管理手法の意義を高く評価しつつも、知見の蓄積が不十分であることや事業者負担が大きいので、直ちに水質汚濁防止法の規制に取り込むことには慎重な立場を示しています。

ただし、まずは本法14 条の4の事業者の責務規定を踏まえた、事業者による自主的な取り組みを促し、「今後、知見が蓄積された段階」には、本法などの規制体系に取り入れることについて検討することが適当とも述べています。

さらに、現行の排水管理手法との関係、試験実施事業場、試験結果の活用方策、手法の普及促進、公共用水域での生物応答試験、水質事故時への活用についても考え方や課題を示しています。

今後、この報告書を受けて、環境省での検討を経て、事業者に自主的な取組として生物応答試験による排水管理を実施するよう要請されるかもしれません。
そこで事例と知見が集積し、ある段階で水質汚濁防止法の排水規制の仕組みに組み込まれることもありえます。引き続きウォッチしておきたいテーマです。

(2015年12月)

  • 「生物応答を利用した排水管理手法の活用について」(生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会報告書)に対する意見等の募集について(環境省)
    http://www.env.go.jp/press/101686.html