ここに注目!環境法

【第44回】パリ協定発効とトランプ大統領誕生
〜それでも温暖化対策は進む

安達 宏之
洛思社 代表取締役/ 環境経営部門チーフディレクター

 2020年からの国際的な温暖化対策の枠組みとなるパリ協定が11月4日、予想よりも早いスピードで発効しました。
 米国と中国という温室効果ガス二大排出国が早期発効に動き、EU(欧州連合)などがそれを追った結果です。日本は出遅れてしまったものの、協定締結について国会の承認を経て、11月8日には国連事務総長へ寄託しました。

 11月7日から18日にかけて開催されたCOP22(国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議)では、当初は祝賀ムードの中でパリ協定の詳細なルールが議論されていましたが、会議中に米国共和党のドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利するや否や、状況は大きく変わりました。
 トランプ氏はかつてより温暖化対策に後ろ向きな発言を繰り返し、パリ協定を脱退すると公言していたからです。

 2015年12月にパリ協定ができて以来、国内の温暖化対策も否応なく厳しくなると見られてきましたが、2017年1月のトランプ大統領の誕生によって大きく変わることになるのでしょうか。
 私は、それでも温暖化対策は強化されると考えています。

 まず、制度的な面を確認しておきましょう。パリ協定は簡単には脱退できない仕組みになっています。
 協定28条で1項及び2項は、協定が自国に効力を生じてから3年経たなければ脱退を通告できず、かつ通告後1年を経過しなければ脱退できないという規定があります。つまり、今から4年後にようやく脱退できるのです。大統領任期は4年なので、トランプ政権の1期目では法的には脱退が難しい仕組みになっています。

 もっとも、協定28条3項では、パリ協定の親条約となる国連気候変動枠組み条約から脱退する場合は、協定からも脱退したものとみなすという規定もあります。
 条約25条では、脱退を通告してから1年後に脱退できる旨が定めているので、かりにトランプ新政権が条約からも脱退すれば、1年後にはパリ協定からも離脱できるということになります。ただし、かつての共和党政権ですら認めていた条約から脱退する可能性が高いとは、現時点では言えないと思います。

 こうした制度的な制約の中でトランプ政権が何を選択するのかを注視していくべきでしょう。
 とはいえ、トランプ政権が何を選ぶにせよ、それによってパリ協定が無くなるわけではありません。

 パリ協定では、温暖化防止への世界共通目標として、地球の平均気温上昇を産業革命前の水準に比べて2度よりはるかに低い水準に抑え、1.5度に抑制する努力をすることを掲げました。
 そして、これを実現させるべく、主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出し、その実施状況のレビューを受けることにしています。


 しかし、現時点で既に提示されている各国の削減目標を積み上げても、この2度目標を達成できないことが明らかになっています。この目標を達成するには、日本を含めて各国が対策をさらに強化する必要があるのです。

 思えば、先進国に削減を義務付けた京都議定書からも米国は離脱しました。それでも、世界と国内の温暖化対策は強化されてきたことを想起すべきなのかもしれません。

 さらに、規制強化と深刻化する温暖化を踏まえて、温暖化問題を考慮しない事業活動は企業にとってマイナスとなってくるとともに、建築物省エネ法の本格施行(2017年4月)で建材メーカーにビジネスチャンスが訪れるなど温暖化問題がプラスに働く面もますます明らかになってきました。世界銀行など、温暖化対策への資金投資の流れもできつつあります。

 このように考えてみると、温暖化対策は今後も強化されると考えたほうが合理的です。企業関係者は、それを前提に、自社のリスクとチャンスを考えて経営戦略を練るべきでしょう。

(2016年12月)