2018年6月1日、森林経営管理法が成立・公布しました。
日本の林業を巡る経営環境が厳しい中で、本法は、市町村に対して、林業経営の集積・集約化への役割を持たせつつ、自ら林業の経営管理を担わせようというものです。施行日は、2019年4月1日です。
森林や林業の関係では、2017年5月にもクリーンウッド法という新法が施行されています。
この法律の正式名称は、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」。合法的に伐採された木材やその製品の流通・利用を促進することを目的として、対象となる木材等や木材関連事業者の範囲、登録方法等を定め、木材関連事業者や国が取り組むべき措置について定めています。
森林・林業分野で新法が相次いでいる背景には、森林や林業の持続性に大きな課題がある一方、政策的な誘導によってその成長性が期待されていることがあるのでしょう。
森林経営法の目的規定(第1条)では、市町村の取組みによって、林業経営の効率化や森林の管理の適正化の一体的な促進を図り、林業の持続的発展とともに、森林の有する多面的機能の発揮に資することを目的とすると定めています。
環境の視点から本条を読むと、「森林の有する多面的機能」の表現が気になります。これは、日本学術会議の答申によれば、①生物多様性保全、②地球環境保全、③土砂災害防止機能/土壌保全機能、④水源涵養機能、⑤快適環境形成機能、⑥保健・レクリエーション機能、⑦文化機能、⑧物質生産機能などを指すそうです。
上記①~④などが示すように、本法は、単なる「業」の維持に関する法律ではなく、環境法でもあることがよくわかります。
本法では、そのための方法として、新たな経営管理の枠組みを提示しています。
まず、森林所有者に森林の経営管理の責務があることを明確にして、森林所有者自らが経営管理を実行できない場合における仕組みを整備しました。
具体的には、市町村が経営管理の委託を受け、意欲と能力のある林業経営者に再委託できるようにしています。そのフローは、概ね次のようになります。
◇市町村が「経営管理権集積計画」を作成。森林所有者の委託を受けて立木の伐採、木材販売、造林・保育等を行うための権利(経営管理権)を森林所有者から取得できるようにする
◇都道府県知事が経営管理実施権の設定を希望する者を募集し、応募した林業を営む者に、市町村が経営管理実施権配分計画により経営管理実施権を設定できるようにする
なお、再委託できない森林及び再委託に至るまでの間の森林については、市町村が経営管理を行うことになります。
さらに、所有者が不明な森林も少なくありません。そこで、一定の手続を経ることによって、市町村に経営管理権を設定することを可能とする措置を講じています。
こうした本法の措置を実施するためには、それなりの財源が必要となりますが、すでに政府は、2024年度に森林環境税を新たに導入することを決めており、市町村の住民税に1人あたり年間1千円を上乗せ徴収することになっています。
本法に対しては、小規模林業者に対して不利な状況を生み出すのではないか、市町村に過大な負担が出るのではないかなど、根強い批判もあります。 とはいえ、成立した以上、今後、本法に基づく森林経営が推進されていくことになります。関係する事業者は、本法の施行へ向けた動向を注意深く見ていくべきでしょう。
(2018年07月)
◎第196回国会(平成30年 常会)提出法律案(林野庁)
⇒http://www.maff.go.jp/j/law/bill/196houritsu/index.html