大栄環境グループ

JP / EN

土壌汚染対策法、特定有害物質を追加~1・2-ジクロロエチレンの規制強化へ

安達先生アイコン画像

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 2018年7月12日、土壌汚染対策法で新たな動きがありました。
 「土壌の汚染に係る環境基準の見直し案」(以下、環境基準見直し案と略)と「土壌汚染対策法施行令の一部を改正する政令案」(以下、施行令改正案と略)が公表されたのです。

 これらは、いずれも6月に中央環境審議会から環境大臣に行われた答申「土壌の汚染に係る環境基準及び土壌汚染対策法に基づく特定有害物質の見直しその他法の運用に関し必要な事項について(第3次答申)」を受けたものであり、1・2-ジクロロエチレンに関係した新たな措置となります。

 まず、環境基準見直し案について説明します。
 行政上の政策目標である「環境基準」の中に「土壌の汚染に係る環境基準」があります。この土壌環境基準には29項目が定められていますが、このうち、これまで「シス-1・2-ジクロロエチレン」として定められていた項目を改め、「1・2-ジクロロエチレン」としました。

 環境基準値(環境上の条件)は、「検液1Lにつき0.04mg以下」とし、その濃度を、シス体とトランス体の和としました(従来は、シス-1・2-ジクロロエチレンとして0.04mg以下)。また、トランス体の測定方法を定めました。施行日は、2019年4月1日となります。

 次に、施行令改正案を説明します。

 土壌汚染対策法の対象物質となる「特定有害物質」には現在26物質が定められています。このうち、従来「シス-1・2-ジクロロエチレン」として定められていた項目を改め、「1・2-ジクロロエチレン」としました。

 この施行日も環境基準見直し案と同様、2019年4月1日となります。
 なお、施行の際に改正前の汚染土壌処理業の施設について許可を受けている者については、改正後の物質により許可を受けたものとみなされます。

 また、1・2-ジクロロエチレンの具体的な規制内容については、第3次答申が次のように述べています。

「第一種特定有害物質」(揮発性有機化合物:VOC)に区分する

◆有害物質を含む土壌を直接摂取するリスクの観点から設定される「土壌含有量基準」を定めない(同基準は現在、重金属等の第二種特定有害物質のみに定めている)

◆有害物質を地下水経由で摂取するリスクの観点から設定される「土壌溶出量基準」については、土壌環境基準と同じ「0.04mg/L以下」に設定する(シス体とトランス体の和)

◆地下水の飲用による人の健康被害を防止するための地下水に含まれる特定有害物質の量に関する基準である「地下水基準」については、土壌溶出量基準と同じ値とする

◆基準不適合土壌の汚染の除去等の措置方法を選定する場合の基準である「第二溶出量基準」については、「0.4mg/L以下」と設定する(シス体とトランス体の和)

 1・2-ジクロロエチレンは、かつてシス体とトランス体の混合物として、他の塩素系溶剤の製造工程中に反応中間体として使用されていました。また、溶剤、染料抽出、香料、ラッカー等での使用もありました。

 化管法のPRTRデータによれば、1・2-ジクロロエチレンの届出事業所数については、下水道業や一般廃棄物処理業、産業廃棄物処分業からの報告が多くあるようですが、その他にも、パルプ・紙・紙加工品製造業、化学工業、非鉄金属製造業などからの報告も見られます。

今回、シス-1・2-ジクロロエチレンに、トランス体が追加され、「1・2-ジクロロエチレン」となったことにより、規制対象が広がったことになります。
土壌汚染調査義務の対象範囲の変化を適切に把握するとともに、日ごろの有害物質の管理を、改めてしっかり行う必要があります。

(2018年08月)

◎土壌の汚染に係る環境基準の見直し案に対する意見の募集(パブリック・コメント)について(環境省)
http://www.env.go.jp/press/105722.html

◎土壌汚染対策法施行令の一部を改正する政令案に対する意見の募集(パブリックコメント)について(環境省)
http://www.env.go.jp/press/105718.html

◎土壌の汚染に係る環境基準及び土壌汚染対策法に基づく特定有害物質の見直し等について(第3次答申)(環境省)
http://www.env.go.jp/press/105630.html

PAGE TOP