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新型コロナウィルス感染症と企業の環境部門 ~法改正の全体状況と廃棄物対策の確認を!

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 新型コロナウィルス感染症が世界的に流行する中、日本国内においても、2020年1月15日に国内で最初の感染者が確認されて以降、その感染が急激に拡大し、多くの企業が事業活動の縮小を余儀なくされています。

 そうした中、企業の環境部門にとって今回の感染症対策のどのような点に注意すべきか。現時点(2020年4月15日現在)で判明している法改正状況を踏まえて解説していきます。

新型コロナ対策で新法・改正法令が続々成立

 まず、関連する環境法のポイント解説に入る前に、新型コロナウィルス感染症対策に関する全体の法改正状況を確認していきましょう。直接、企業の環境部門と関係するわけではありませんが、今回の感染症対策の全体像を押さえておくことは有益だと思うからです(なお、本対策の一般的な経緯や概要は、内閣府ウェブサイトをご参照ください)。

 新型コロナ対策を考えるうえで重要な法律は、感染症法(正式名称「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)と、新型インフル特措法(正式名称「新型インフルエンザ等対策特別措置法」)の2本です。
 2020年2月から3月にかけての国会審議では、新型インフル特措法が改正されることになり大きな注目を集めましたが、感染症対策の基本となる法律は感染症法となります。

 1月28日、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」が公布されました。これにより、感染症法に基づく「指定感染症」として、都道府県知事に感染症の病原体に汚染された場所の消毒などの権限が与えられました。
 2月13日には同政令が改正され、無症状病原体保有者も新型コロナの患者とみなして同様の措置を講じることになりました。

 その後、3月13日、国会審議を経て、改正新型インフル特措法が成立・公布され、翌日には施行されます。法律の本文を改正せず、附則に1条を追加するという奇妙な(?)改正でした。
 2021年1月31日までの間、新型コロナを「新型インフルエンザ等」とみなし、本法に基づく措置を実施することにしたのです。


 これによって、新型インフル特措法に基づき、政府が「緊急事態宣言」を発令すれば、都道府県知事は、強い行政権限を持ち、私権の一部を制限することができます。

 具体的には、外出自粛の要請とともに、多数の者が利用する施設の使用制限の要請や指示などができます。
 また、医薬品や食品などの特定物資の保管命令に従わない場合に、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するなどの罰則もあります。

 3月26日、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」が再び改正され、新型コロナについて、さらに感染症法の規制を適用(正確には「準用」)できるようにしました。
 特に感染症法31条から33条を新型コロナに適用させる点が注目されます。それらの規定が、都道府県知事に対して建物への立入禁止や封鎖、交通の制限や遮断など強大な権限を与えているからです。

 前日には、東京都の小池百合子知事が記者会見の席上で、このまま感染拡大が進めば「ロックダウン(都市封鎖)」することになりかねないと発言しましたが、この改正はまさにロックダウンを事実上実施できるという意見も出ています(完全な都市封鎖にはなりませんが)。

 そして、4月7日、緊急事態宣言が発令されるに至りました。現時点では、新型インフル特措法や感染症法に基づく指示等は行われず、外出自粛等の「要請」にとどまっています。

環境分野では廃棄物処理に大きな影響

 今後、これら法令に基づく制限が行われれば、企業全体に対して極めて大きな影響を与えることになり、それは環境部門の様々な業務にも影響を及ぼすことになるでしょう。

 環境部門にとって年度の前半は、行政への報告等を行うことが法令で義務付けられている時期となります。
 例えば、省エネ法であれば、特定事業者等は7月までに定期報告等をしなければなりません。廃棄物処理法であれば、紙マニフェストを運用している場合、6月までに交付状況報告書を提出しなければなりません(現時点で新型コロナ関連での期限延長などの猶予措置は出ていないようです)。

 これらの法的義務に対応するために、過去のデータ収集・整理をしなければいけませんが、新型コロナの「自粛」の中で間に合わなくなる可能性があります。
 対応が厳しいことが予想される場合は、早めに所轄の行政に相談しておくことが望ましいでしょう。

 こうした全体的な影響とは別に、廃棄物分野において新型コロナの影響が出ています。
 廃棄物処理における新型コロナ対策として、環境省から次の通知などが発出されています。

「廃棄物処理における新型コロナウイルスに関連した感染症対策について」(2020年1月22日環循適2001225号・環循規2001223号)
「廃棄物処理における新型コロナウイルス対策の実施等について」(2020年1月30日環循適20013010号・環循規20013027号)
「新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物の適正処理等について」(2020年3月4日環循適2003044号・環循規2003043号)

 新型コロナ対策として、①の通知では、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に基づく対策を、②の通知では、「廃棄物処理における新型インフルエンザ対策ガイドライン」の内容に準じて対応するよう求めています。
 さらに、③の通知ではもう少し具体的に対応方法を提示しています。
 医療機関、廃棄物処理業者、一般の排出事業者に関連する主な箇所は、次の図表の通りです。

廃棄物分野における新型コロナ対策の主な対応方法
~医療機関、廃棄物処理業者、一般の排出事業者に関連するもの~

1 医療機関から排出される感染性廃棄物 ・上記マニュアルに基づき処理する。
・医療機関は、保管時の混入防止排出時の表示などをする。
・廃棄物処理業者は、新型コロナ関連の廃棄物と その他の感染性廃棄物の分別や特別な表示を求めることを慎む
2 医療機関以外から排出される、感染性廃棄物に該当しない廃棄物 ・上記ガイドラインに準拠して処理する。
・廃棄物処理業の作業員は、新型コロナウイルスに触れることなく処理すれば、感染することなく処理できる。
・廃棄物処理業者は、感染性廃棄物に準じた処理をしてもよいが、そのために必要な容器手配等で処理を遅滞させない
3 マスク等の廃棄方法 ・家庭等で新型コロナ感染者が使用したマスク等を廃棄する場合、ゴミ袋に入れ封をして排出するなどの方法で適正に処理されれば、新たな感染のおそれはない。

 医療機関や廃棄物処理業者が、改めて上記マニュアルや上記ガイドラインを読み込み、細心の注意を払いながら各種の手順を今一度再チェックすることが求められるのは言うまでもありません。

 では、一般の排出事業者は、どうすべきでしょうか。

 環境省が配布している一般家庭向けの下記パンフレットでは、使用済みのマスク等のごみを捨てる際にも、「ごみに直接触れない」、「ごみ袋はしっかりしばって封をする」、そして「ごみを捨てた後は手を洗う 」ことに注意することを促しています。

 いまだに新型コロナの感染リスクが十分に見通せない状況を踏まえると、事業所から排出される廃棄物によってむやみにそのリスクが大きくならないよう、上記3のマスク等の廃棄方法は参考になると思います。

 感染状況が悪化しないことを祈るばかりですが、今後も刻一刻と状況は変化していくことでしょう。
 環境部門の担当者も、下記の環境省ウェブサイトなどを頻繁にチェックし、対策を柔軟に見直していく姿勢が求められます。

◎「新型コロナウイルスに関連した感染症対策」(環境省)
⇒ http://www.env.go.jp/saigai/novel_coronavirus_2020.html

◎「新型コロナウイルスなどの感染症対策としてのご家庭でのマスク等の捨て方」(環境省)
http://www.env.go.jp/saigai/novel_coronavirus_2020/flyer_on_disposal_of_contaminated_household_waste.pdf

(2020年4月)

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