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温暖化対策の長期目標「実質ゼロ」へ!~熱くなってきた国の動きと自治体の動き

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 2020年10月26日、菅首相の所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という表明がなされ、大きな注目を浴びました。

 2016年に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2050年の温室効果ガス排出量の削減目標は、「80%削減」でした。
 また、2019年に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」においても、「脱炭素社会」という用語は掲げられたものの、その実現については、「今世紀後半のできるだけ早期の実現を目指す」と述べるにとどまり、 2050年の長期目標は「80%削減」のままでした。

 現在、長期目標に関する国際社会のトレンドは「実質ゼロ」です。つまり、「80%削減」ではなく、「100%削減」です。
 日本政府も、このトレンドに歩調を合わせた格好となります。

 政府が脱炭素に舵を切り、2050年の長期目標を変えたということは、現在の温暖化対策の柱となっている、2030年の中期目標である「2013年比26%削減」も変更を余儀なくされるでしょう。
 この中期目標には、国内様々な温暖化対策がリンクしていますので、 今後、既存の対策の強化が検討されることになります。

 11月5日には、環境省に「令和2年度地球温暖化対策の推進に関する制度検討会」が設置され、地球温暖化対策推進法の改正に向けた議論がスタートしました。
 今後、今回の実質ゼロ表明がもたらすインパクトがいかに大きいか、日を追って明らかになることでしょう。

 ところで、こうした「実質ゼロ」の動きは、国際社会の動きに連動しているわけですが、国内において、国際社会の動きに呼応したのは日本政府が最初ではありません。各地の地方自治体です。

 2050年までに二酸化炭素の排出量を「実質ゼロ」にすると表明している自治体は、すでに全国に169もあります。東京都をはじめとする都道府県は23、京都市や横浜市などの市は91、特別区43、町村53となっています(2020年11月3日時点)。
 環境省によれば、表明した自治体を合計すると人口は約8013万人となり、実に日本の総人口の半数を超えているのです。

 これまで温暖化対策を積極的に推進してきた自治体においても、2050年に「実質ゼロ」にすることは、並大抵にできるわけではありません。
 最近、これを克服するため、新たな条例を制定したり、既存の条例を改正したりする動きが活発化してきており、企業もしっかりとその動きを追っていくべきでしょう。

 2020年9月、長野県では、「長野県脱炭素社会づくり条例」が制定されました。
 通称「ゼロカーボン条例」と呼ぶそうです。県議会で議員提案され、全会一致で可決されました。

 条例は、2050年度までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げ、様々な施策を打ち出しています。
 事業者を含めて、県以外の関係者に行為を促す規定は、すべて努力義務であり、義務規定はありません。とはいえ、県としての脱炭素の施策の方向性が見えてくるので知っておくべきでしょう。

長野県条例における目標と事業者の努力義務規定の概要は、次の図表の通りです。

長野県ゼロカーボン条例における
目標と事業者の努力義務規定等

■長期目標(基本理念:第2条)
持続可能な脱炭素社会づくりは、持続可能な社会づくりのための協働に関する長野宣言を踏まえつつ、 令和32年度(2050年度)までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること(二酸化炭素の人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成することをいう。)を目標として行われなければならない。
■事業者の責務(第4条)
事業活動における、持続可能な脱炭素社会づくりのための自主的かつ積極的な取組及び県が実施する施策への協力
項目 事業者の努力義務
エネルギー自立地域の確立 エネルギーの効率的な使用、環境負荷の低い事業活動の推進に努める
プラスチックの資源循環の推進 プラスチックの使用量の削減、プラスチック代替素材の開発並びに代替素材を活用した製品の開発及び実用化に努める
エシカル消費等の推進 事業活動及び消費行動が人、社会、環境、地域等に与える影響を理解し、エシカル消費に資する事業活動の実践に努める

 事業者に対して、省エネを呼び掛けていることは当然でしょうが、それとともに、プラスチックの使用削減やエシカル消費の推進についても脱炭素の取組みとして位置付けていることは押さえておくべきでしょう。

 長野県条例では、この他に、県が脱炭素に向けた行動計画を策定することや、財政措置を講じること、他の主体との連携・支援を行うことなども定めています。

 折しも、11月の米国大統領選挙では、パリ協定から離脱し、地球温暖化対策に後ろ向きであった共和党・トランプ大統領が落選し、パリ協定復帰を公約に掲げ、温暖化対策を推進する立場の民主党・バイデン氏が当選しました(本稿執筆時点ではトランプ氏本人は選挙結果を受け入れていないようですが)。

 この4年間、世界第2位の二酸化炭素排出量の多い国であった米国は、温暖化対策に背を向けてきました。しかし、その間ですら、2020年にパリ協定がスタートし、世界はこのテーマに正面から取り組もうとしてきました。この動きに米国が復帰すれば、今後ますます脱炭素に向けた動きは加速化することでしょう。

 日本政府も、各地の自治体も、この動きに歩調を合わせています。
 企業も、もはや逃げることはできません。脱炭素社会で生き残り、発展する道を探るしかないのです。

◎「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況」(環境省)
 ⇒ https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html   

(2020年11月)

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