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改正温暖化対策推進法、2050年「ゼロ」へ制度充実~長期目標の明記と報告制度の強化

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2021年1月から始まった通常国会に、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温暖化対策推進法、温対法)の改正法案が提出されようとしています。

周知のように、地球温暖化を巡る動きが激しくなっています。

2020年10月には、菅首相が所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という表明がなされました。

1月には、米国にバイデン新政権が発足し、早々に温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定に復帰する大統領令に署名しました。新型コロナ感染症対策とともに、この気候変動対策を最重要の政治課題の一つとして位置づけています。

こうした中、1月26日には、環境省の審議会である中央環境審議会地球環境部会に「地球温暖化対策の更なる推進に向けた今後の制度的対応の方向性について」という報告書が提出されました(2020年12月・地球温暖化対策の推進に関する制度検討会)。
これは、事実上、温暖化対策推進法の改正法案の骨格を提示するものです。

2016年に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2050年の温室効果ガス排出量の削減目標は、「80%削減」でした。

また、2019年に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」においても、「脱炭素社会」という用語は掲げられたものの、その実現については、「今世紀後半のできるだけ早期の実現を目指す」と述べるにとどまり、 2050年の長期目標は「80%削減」のままでした。

それが、今回の法改正により大きく変わることになります。同報告における改正法案の全体像は、次の図表の通りです。

改正温暖化対策推進法の方向性(報告書の提言)

1 長期目標「ゼロ」の明記 パリ協定の目標(2℃目標・1.5℃努力目標)や脱炭素社会の実現など、温暖化対策の長期的方向性を法に位置付けるべき。
2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)も、法に位置付けるべき。
2 地方公共団体実行計画制度の見直し □ 都道府県等の実行計画に、施策の実施に関する目標を設定すべき。
□ 環境配慮に適合する事業を市町村が認定する事業への関係許認可手続等のワンストップ化等を支援すべき。
□ 電力・ガス使用量を自治体が把握できるよう、域内の排出量をより精緻に推計できるようにすべき。
3 温室効果ガス報告制度の見直し □ 電子システムによる報告を原則とし、事業所等の情報を、開示請求の手続なく公表すべき。
□ 任意報告を充実させるべき。

改正のポイントは、大きく3つあります。

■改正法最大のポイント、長期目標明記
1つ目のポイントは、長期目標「ゼロ」を法に明記することです。

現在の温暖化対策推進法では、法の目的として、「地球温暖化対策に関し、地球温暖化対策計画を策定するとともに、社会経済活動その他の活動による温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置を講ずる」ことを示しています(1条)。

また、国に対しては、「国は、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するとともに、温室効果ガスの排出の抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする」と述べるにとどめ(3条2項)、目指すべき具体的な目標については何も書かれていません。

目標値などの具体的施策は、上記の地球温暖化対策計画に盛り込むことになっています(8条)。

この法の現状に対して報告書では、パリ協定の「2度目標」や「1.5度努力目標」、さらにはそれに向けた脱炭素社会の実現など、地球温暖化対策の長期的方向性を法に位置付けるべきであるとしています。
また、2050年のカーボンニュートラル(実質ゼロ)についても、法に位置付けることを求めています。

法案の中に具体的な目標値が位置づけられ、それが国会で成立すれば、民意を受けたことになります。簡単に改正もできないでしょう。政府策定の計画とは重みが全く異なります。

法への国全体の目標値の設定が、直ちに個別企業への規制強化につながるわけではありません。
しかし、今後は、法に明示されたこの目標から逆算し、いま行われるべき温暖化対策が検討・実施されることになるでしょう。

■報告制度充実、個別事業所等の情報開示が進む
2つ目のポイントは、地方自治体が策定する公共団体実行計画制度の見直しです。

都道府県や市町村は、温暖化対策を実施するための実行計画の策定が求められています。
報告書では、実行計画の実効性向上の観点から、都道府県等の実行計画に、施策の実施に関する目標を設定することなどを求めました。

東京都のような大規模自治体による事業所のCO2総量排出規制や、長野県飯田市のような地域づくり・再エネとリンクさせたユニークな温暖化対策など、自治体の温暖化対策はそもそも活発です。
今回の法改正により、一層の対策強化につながることでしょう。

3つ目のポイントは、「温室効果ガス算定・報告・公表制度」の見直しです。
本法に基づき、全国で1万2000社以上が毎年、自らの温室効果ガス排出量を報告していますが、この制度が変わることになります。

法改正により自社の対応方法が変わることになるので、この改正に関心のある企業担当者は多いことでしょう。

報告書では、電子システムによる報告を原則とするよう求めています。
本法では、紙媒体による報告と電子報告のいずれかで報告することができます。電子報告率は本法の報告書と省エネ法の報告書を合わせて、現在約36%にとどまっているそうです(2020年度)。
そこで、改正法により、一気に電子システムによる報告制度に切り替えようというのです。

近年、ESG投資等の活発化により、各企業や各事業所の排出量データを求める声が高まっています。
電子化することにより、報告から公表までの期間が短縮され、情報の活用がより活発になることでしょう。

さらに、報告書が事業所ごとの開示請求無しの公表を求めたことも注目されます。
本法では、報告データは事業者単位で集計して公表されるものの、事業所別の情報については、個々の開示請求に基づき開示されます。つまり、事業所の排出量データは簡単に公開されない仕組みなのです。

これに対して、報告書では、関係者による活用可能性や利便性向上のため、開示請求の手続なく公表することとすべきであるとしています。

これが実現すれば、誰もが気軽に近隣の対象事業所の排出量を把握することができます。
区域内の排出量把握のために活用する地方自治体も増えることでしょう。
今まで以上に排出量の抑制努力とステークホルダーとのコミュニケーションが重要となってきます。

以上の報告書の内容がどこまで改正法案に反映させるかははっきりしませんが、いずれにしても、温暖化対策強化につながることは必至です。

温暖化対策は特に激しく動く分野です。個々の企業は、国の対策(特に法規制)を後追いしているだけでは、結局自社にとって不利な状況に陥りやすくなります。
世界と国の進む方向性をしっかりと踏まえ、先手を打った温暖化対策が望まれます。

◎「地球環境部会(第146回)議事次第・配付資料」(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/council/06earth/post_103.html

(2021年2月)

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