大栄環境グループ

JP / EN

「脱炭素」へ、省エネ法・建築物省エネ法を改正へ~「省エネ」義務の範囲を拡大、「再エネ」も視野へ!

安達先生アイコン画像

環境コンサルタント
安達宏之 氏

2020年10月、菅首相が所信表明演説において「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と、「脱炭素」を宣言しました。
従来の我が国の2050年目標は「80%削減」でした。これを、「脱炭素」、すわなち「100%削減」に踏み込んだわけですから、大きな政策転換となります。

首相の「脱炭素」宣言を踏まえ、2021年6月には、温暖化対策推進法が改正されました。
この改正では、2050年までの脱炭素社会の実現が法の基本理念に盛り込まれました。
「脱炭素」が、国権の最高機関(憲法41条)である国会が定める法に明確に位置付けられたことにより、もはや1内閣の表明にとどまらず、今後、我が国が追求し続ける国家目標となったわけです。

■中期目標の引き上げと規制強化
気候変動の分野では、2050年目標を「長期目標」と呼ぶ一方、その途中経過の目標を「中期目標」と呼び、それは2030年と設定しています。

2021年4月、菅首相は、長期目標を引き上げたことに伴い、この中期目標も引き上げました。
具体的には、2030年度に、温室効果ガスの46%削減(2013年度比)を目指すとともに、50%の高みに向け、挑戦を続けていくというものです。
つまり、中期目標として「46%~50%」削減を設定したと言っていいでしょう。

従来の中期目標は「26%」削減でした。
これを20%以上引き上げようというのですから、いかに重大な政策変更であるかは、よくわかると思います。

読者の中には、省エネ法の特定事業者のように多量に温室効果ガスを排出する事業者もいるでしょう。そこまで排出していなくても、フロン排出抑制法に基づいてフロン対策を講じている事業者もたくさんいることでしょう。

実は、こうした様々な温暖化対策の法規制は、すべて従来の「26%」削減目標とつながっていました。
省エネ法やフロン排出抑制法などによって実現される温室効果ガスの削減量が積み重なって「26%」削減を達成させる仕組みだったのです。

この中期目標が引き上げられたということは、それにぶら下がっていた各種の法規制が強化されることになります。
現に、次の図表で示したような動きが出ています。

温暖化対策関連法令の規制強化の動き

省エネ法改正の動き
※経済産業省の審議会で審議中
①エネルギー評価方法の見直し
●法の目的を「①非化石エネルギーを含む全てのエネルギーの使用の合理化、②非化石エネルギーの導入拡大」へ
●系統電気の評価では、火力発電とみなして評価するのではなく、全てのエネルギーを適切に反映した係数で評価する
●購入電気の非化石化を促すため、小売事業者別の非化石電源比率を適切に反映した指標で評価する

②電気需要の「平準化」から「最適化」へ
●再エネ余剰電力が発生している時に需要をシフトし、需給逼迫時等に需要を抑制する(係数を変更する)
建築物省エネ法改正の動き
※国土交通省の検討会で審議中
①住宅・建築物における省エネ対策の強化
●省エネ基準の適合義務の対象について、現在は中規模以上の非住宅建築物の新築時等としているが、これを住宅にも拡大させる(2025年を予定)
●省エネ基準は現行の基準を基本とする。
●2030年新築平均でZEH・ZEBの目標を踏まえ、省エネ基準は段階的に引き上げる

②再生可能エネルギーの利用拡大
●2050年に設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し、太陽光発電設備設置の促進のための取組を進める

備考:上記の記載は、省エネ法が6月30日経済産業省提出資料、建築物省エネ法が7月20日国土交通省資料をもとにまとめた。今後、変更の可能性がある。

■省エネ法の規制強化
省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)の改正については、経済産業省の省エネルギー小委員会で審議中です(文末に掲げたURLを参照)。

改正に向けた注目すべきポイントは、大きく2点あります。

1点目は、エネルギー評価方法の変更です。
これまで本法の目的であった「化石エネルギー(石油、天然ガス、石炭等)の使用の合理化」を、「非化石エネルギーを含む全てのエネルギーの使用の合理化」と「非化石エネルギーの導入拡大」に変更することにしました。

多くの事業者は、使用する電気について、自家発電ではなく、系統電気から入手していることでしょう。
しかし、この系統電気の評価では、実際は、太陽光などの非化石エネルギーが一定割合含まれているにもかかわらず、これまでは、その全量を火力発電などの化石エネルギー由来とみなして評価されてきました。

改正点としては、こうした火力平均係数により火力発電とみなして評価するのではなく、非化石エネルギーなどを含めた全てのエネルギーを適切に反映した係数(全国一律の全電源平均係数)で評価することにしたのです。

また、従来は、非化石エネルギーの導入拡大が制度に盛り込まれていませんでした。
これを改め、購入電気の非化石化を促すため、小売事業者別の非化石電源比率を適切に反映した指標で評価することにしました。

以上の措置により、すべてのエネルギーの省エネを進めるとともに、非化石エネルギーの導入拡大が進むと想定されています。

次に、2点目は、電気需要の「平準化」から「最適化」策への切り替えです。

現在、省エネ法の目的の一つには、「電気需要の平準化」があります。これは、電気の需要量の季節又は時間帯による変動を縮小させることです。
夏場の日中のように、電力の使用が増える時間帯において、なるべく電気を使用しないように平準化させるための仕組みです。

この「平準化」の仕組みを、「最適化」の仕組みに変えようというのです。
これは、再生可能エネルギー余剰電力が発生している時には、需要をシフト(上げDR)させる一方、需給逼迫時等には、需要を抑制(下げDR)させようとするものです。

具体的には、供給側の状況を踏まえた電気換算係数を使用することとし、例えば、再エネ出力制御時には、再エネ係数を使用し、それ以外では火力平均係数を使用し、さらに需給逼迫時には、火力平均に重み付けした係数を使用することを想定しているようです。

■建築物省エネ法の規制強化
建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)の改正については、国土交通省の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」で審議中です(文末に掲げたURLを参照)。

本法の改正に向けた注目すべきポイントは、大きく2点あります。

1点目は、住宅・建築物における省エネ対策の強化です。

省エネ基準の適合義務の対象については、現在、中規模以上の「非住宅建築物」の新築時等としています。これを、「住宅」にも拡大させることにしました。
当初は現在の省エネ基準と同じにするものの、2030年に向けて基準を段階的に引き上げることも提示しています。

2点目は、再生可能エネルギーの利用拡大です。

2050 年に設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し、太陽光発電設備設置の促進のための取組を進めるとしています。

注目されるのは、1点目の改正です。

実は本法は、2021年4月から改正法が施行しています。
2021年3月までは、大規模な非住宅建築物(延べ床面積2000㎡以上)の新築時等に省エネ基準適合義務を課していました。基準を満たさない場合は、建築確認を受けることができないという厳しい規制です。
この規制対象について改正を行い、2021年4月からは、中規模な非住宅建築物(同300㎡以上)にも拡大されることになっていたのです。

つまり、新規制が導入された直後に、これを住宅にも拡大しようという、さらに厳しい規制に向けた議論がスタートしたわけです。

国土交通省の予定では、2025年には住宅の省エネ基準への適合義務化を導入するということです。なお、非住宅建築物のうち、現在未規制である小規模なものについても、同年には省エネ基準適合義務化を導入することも提示されています。

以上が、省エネ法と建築物省エネ法の改正動向です。

どちらの法律についても、まだ改正の詳細が決まったわけではありませんので、上記の改正事項も変更される可能性はあります。
とはいえ、冒頭で示したように、温室効果ガス削減の目標が厳しくなった以上、規制強化の方向に変更はないでしょう。

各企業としては、今後の改正動向に十分留意するとともに、こうした政策動向を踏まえた、更なる対策強化を先行していくことこそが合理的な経営判断となるのです。

◎省エネルギー小委員会【省エネ法関係】
⇒ https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/index.html

◎脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会【建築物省エネ法関係】
⇒ https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000188.html

(2021年8月)

PAGE TOP