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「脱炭素社会」へ、温暖化対策計画等を閣議決定

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2021年10月22日、「地球温暖化対策計画」と「エネルギー基本計画」などが閣議決定により改定されました。

「地球温暖化対策計画」とは、主に「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)に基づいて、温暖化対策に関する基本的な計画を定めるものです。
一方、「エネルギー基本計画」とは、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づき策定するものです。

温暖化対策とエネルギー政策は言うまでもなく密接不可分の関係にあります。両者によって、国の温暖化対策の全体像が見えることになります。

両計画が同時に改定されたきっかけは、2020年10月に菅首相(当時)が表明した「2050年カーボンニュートラル」宣言、すなわち、「脱炭素社会」宣言です。

従来は、2050年「80%」削減という「低炭素社会」の実現を長期目標に掲げていた政府が大きく方針転換したのです。
この脱炭素社会の方向性は、2021年6月に成立した改正温対法の基本理念にも盛り込まれ、法律上の長期目標の数値としても確定しました。

また、長期目標の大幅強化を踏まえ、2021年4月、政府は2030年の目標となる中期目標を変更することを表明しました。

従来は、2030年度に2013年度から温室効果ガスを26%に削減する目標を掲げていましたが、これを見直し、46%削減を目指すとし、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていくと明示したのです。

従来の温暖化対策計画とエネルギー基本計画などは、「2030年26%削減」の中期目標を念頭に策定されていたので、中期目標が引き上げられたことにより、計画の内容も変える必要性に迫られ、今回改定されたというわけです。

閣議決定された両計画の概要は、次の図表の通りです。

地球温暖化対策計画、エネルギー基本計画の改訂概要

計画の名称 概要
地球温暖化対策計画 温暖化対策推進法(温対法)に基づく政府の総合計画。
対策の長期目標(2050年カーボンニュートラル)、中期目標(2030年度46%削減)の実現に向け、計画を改定

●主な部門別等の削減目標の強化
       従来  ⇒  今回
全 体  ▲26%  ▲46%(~▲50%)
産 業  ▲ 7%  ▲38%
業務等  ▲40%  ▲51%
家 庭  ▲39%  ▲66%
運 輸  ▲27%  ▲35%
フロン  ▲25%  ▲44%

●主な施策
①再エネ・省エネ
・改正温対法に基づき自治体が促進区域を設定 → 地域に貢献する再エネ拡大(太陽光等)
・住宅や建築物の省エネ基準への適合義務付け拡大

②産業・運輸
・2050年に向けたイノベーション支援
・データセンターの30%以上省エネに向けた研究開発・実証支援

③分野横断的取組
・2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出(地域脱炭素ロードマップ)
・優れた脱炭素技術等を活用した、途上国等での排出削減
エネルギー基本計画(第6次) ●新たな長期目標、中期目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示す
●計画の構成
①東電福島第一の事故後10年の歩み
②2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応
③2050年を見据えた2030年に向けた政策対応

●例:需要サイドにおける2030年に向けた政策対応のポイント
○産業部門:
エネルギー消費原単位の改善を促すベンチマーク指標や目標値の見直し、「省エネ技術戦略」の改定による省エネ技術開発・導入支援の強化などに取り組む

○業務・家庭部門:
2030年度以降に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能の確保を目指し、建築物省エネ法による省エネ基準適合義務化と基準引上げなどに取り組む

○需要サイドにおけるエネルギー転換を後押しするための省エネ法改正を視野に入れた制度的対応の検討:
化石エネルギーの使用の合理化を目的としている省エネ法を改正し、非化石エネルギーも含むエネルギー全体の使用の合理化や、非化石エネルギーの導入拡大等を促す規制体系への見直し

※再生可能エネルギー、原子力、火力、電力システム改革、水素・アンモニア、資源・燃料の政策も提示。

まず、改定された地球温暖化対策計画では、長期目標や中期目標を明記したうえで、部門別などのの削減目標についても、それぞれ強化しました。

例えば、産業部門では、従来は2030年度7%削減の目標を38%削減へ大幅に引き上げています。業務その他部門では、40%削減を51%削減へ、家庭部門では、39%削減から66%削減するなど、いずれも削減量を増やしました。

事業者として注意すべきなのは、こうした目標の見直しというものは、当然ながらそれを支える各種の施策も強化されるということです。その中には、規制強化につながるものもあるということです。

例えば、主な施策の中には、「住宅や建築物の省エネ基準への適合義務付け拡大」が含まれています。これは、建築物省エネ法の改正につながります。

改定されたエネルギー基本計画の内容を見ると、政策の方向性に規制強化が含まれていることがよりはっきりと見えてきます。

需要サイドにおける2030年に向けた政策では、産業部門に対して、エネルギー消費原単位の改善を促すべく、省エネ法のベンチマーク指標や目標値を見直すことが掲げられています。

業務・家庭部門では、2030年度以降に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能の確保を目指すとされています。
そのために、建築物省エネ法による省エネ基準適合義務化の拡大や、基準そのものの引上げ、さらには建材・機器トップランナーの引上げなどに取り組むことが提示されています。

さらに、需要サイドにおける化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換を後押しするため、省エネ法を改正して制度的に対応するという記述もあります。
化石エネルギーの使用の合理化を目的としている現在の省エネ法について、非化石エネルギーも含むエネルギー全体の使用の合理化にすることや、非化石エネルギーの導入拡大等を促す規制体系への見直しを検討すると指摘しています。

両計画を見た筆者の率直な感想としては、長期目標・中期目標を達成するための措置として、先行きが必ずしも明確ではない技術革新的な側面が強く、これで本当に目標を達成できるのだろうかというものです。
また、国際的な批判が強い原子力発電や石炭火力の利用継続を前提とした施策が並んでいることも、実現可能性の点で慎重に考えざるをえません。

仮に筆者の想定が当たった場合、過去の環境規制強化の動きがそうであったように、いずれここで掲げられている規制強化の事項だけでは不十分となり、更なる規制強化に動くことになります。

その意味では、企業としては、両計画に掲げられている規制強化の事項は、いわば「最低限の規制強化事項」であると認識し、今後も規制強化が続くことを前提に事業活動に営む姿勢が求められるのかもしれません。

◎「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定並びに「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/110060.html

◎第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005.html

(2021年11月)

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