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「普通の女性の不法投棄」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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大栄環境メルマガでは、2016年~17年「基礎知識」、18年「へんてこ条文」、19年~19年「定説?妄説」と掲載させていただき、継続して読んでいただいている読者の皆さまは基礎知識から相当ハイレベルな規定、通知までご承知いただいたと思います。
今年度からは、その知識を実践で生かすために、新聞に掲載された、と言うことは、実際に起きた事件を見ていただき、誰がどんな違反をしたのか。
そして、その違反はどの程度の罰則が規定されていて、行政処分としてはどのようなことが想定されるのかについて一緒に考えていきたいと思います。
なお、今回からは基礎知識編でもお付き合いいただいた、企業で廃棄物処理を担当している経験年数5年目のリサちゃんに聞き手として参加していただくことになりました。(※リサちゃんは、BUNさんが頭の中で創造した架空の人物です。実在の人物ではありません。)
数年ぶりです。また、よろしくね。
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早速だけど、リサちゃんは廃棄物処理法違反で年間何人の人物が検挙されていると思いますか?
ん~、日本全国となると広いからなぁ。1日1人として年間365人。どうかな?
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残念。桁が違います。おそらく多くの皆さんが想像したよりはるかに大人数だと思います。
日本全国で毎年毎年、約5000人。図1は警察白書に掲載されている検挙者数をグラフにしたものです。
毎日、14人が廃棄物処理法で検挙されているという計算ですか。とても他人事とは思えないですよね。
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「普通の女性の不法投棄」画像1

出典:令和元年版警察白書
図1 廃棄物処理法事犯年次別検挙状況

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それではさっそく最初の事件を見ていただきましょう。(ケース1)
もう10年ほど前の事件になりますが、例示にするにはとても取り上げやすい内容なので、読売新聞の記事を提示してみました。
「普通の女性の不法投棄」画像2

出典:2012年9月22日 読売新聞
ケース1 読売新聞切り抜き

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さて、この事件では、誰が、どんな違反を犯し、その違反はどの程度の罰則が規定されていて、どのような行政処分が想定されるでしょうか?
とりあえず、事件の概要を確認してみましょう。
普通の女性が、近くのショッピングセンターの駐車場に、家庭のごみをわずか19kg捨てた。って内容ですね。
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さて、この女性、廃棄物処理法違反になるでしょうか?そして捕まるでしょうか?
リサちゃんはわかったかな。
一目瞭然。だって、法律違反じゃなければ新聞記事にはならないでしょうし、なんといっても見出しに「書類送検」って出てますもの。
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法律に詳しい方とサスペンスドラマのお好きな方はご存じのことと思いますが、「送検」には2種類あるようですね。
「送検」とは、警察が逮捕したり、任意で取り調べたりした被疑者を検察官に送致し、起訴か不起訴か刑事処分を委ねる手続きの通称で、逮捕して身柄、つまり、肉体、身体、人間そのものを送致するのを「身柄送検」、身柄を拘束せず書類だけ送るのを「書類送検」というようです。
まぁ、重大な犯罪や釈放しちゃうと被疑者が逃亡してしまうおそれがあるようなケースでは身柄送検、たいした犯罪じゃないし、逃げないだろうと思うケースでは書類送検になる時が多いようです。
と言うことは、この事件、書類送検だけど送検は送検だから、この女性、捕まっちゃった訳ですよね。
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そのとおり。さて、どのような違反ですか?これは聞くまでもないか。小見出しに書いていますものね(^O^)
「不法投棄」よね。
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では、不法投棄は廃棄物処理法では第何条違反になるか?です。
皆さんも時々、「それ違反だよ。警察に捕まるよ。」とか言いませんか?でも、日本は法治国家です。法律の規定にない行為では警察は捕まえません。と言うことは、「違反だ」と言うためには、どのような規定に抵触しているかを明確にしなければならないってことです。
これは知ってるわ。不法投棄は廃棄物処理法第16条違反よね。。
(投棄禁止)
第十六条  何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
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大正解。違反条文はわかりました。じゃ、次のステップです。では、この違反はどの程度悪い行為なのでしょう?
違反行為に、どの程度もへったくれもないんじゃないの?
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じゃ、リサちゃんは、「懲役10年の違反と罰金1万円の違反ではどちらが悪い違反ですか?」と聞かれれば、
そりゃ、牢屋に10年間入んなければいけない違反の方が悪いに決まっているじゃない。
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そうなんです。違反にもランクがあるんですね。それが「罰則」です。
じゃ、不法投棄の罰則は?

第二十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一  ~十三(省略)
十四  不法投棄(第十六条の規定に違反して、廃棄物を捨てた者)
十五  不法焼却
十六  指定有害廃棄物(硫酸ピッチ)保管、収集、運搬又は処分者
2  前項第十二号、第十四号及び第十五号の罪の未遂は、罰する。

廃棄物処理法は第25条から罰則の規定が並んでいます。
ちなみに、たいていの法律は手前に出てくる罰則の方が重いので、廃棄物処理法ではこの第25条が最も重い罪ってことですね。
じゃ、この事案の新庄市の女性は、最高で懲役5年、すなわち牢屋に5年も入らなければならなくなる可能性があるってことよね。
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実際には、「5年以下の懲役」ですから、裁判官が犯罪性の軽重を考慮して、これ以下の懲役刑にしたり、場合によっては執行猶予を付けたり、また、それ以前に検察官が起訴猶予、不起訴ってケースも出てきます。
あくまでも「最高で懲役5年」ってことではありますが、・・・。
さて、次のステップに行きましょう。
この不法投棄をした女性に対する行政処分としてはどのようなことが考えられるでしょうか。
普通の国民にとって、「行政処分」ってあまり馴染みがないですよね。もうちょっと具体的に教えて下さい。
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BUNさんは廃棄物処理法に関しては、次の二通りと考えていいのではないかと思っています。
1.「許可」に関する処分。許可取消とか事業停止とか。
2.「環境」に関する処分。措置命令とか改善命令とか。
では、この新庄市の女性は許可取消を受けるでしょうか?
許可取消にはならないでしょう。
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なぜでしょう?
それはこの女性はおそらく廃棄物処理業の許可は取っていないからよ。
許可の無い人の許可を取り消したり、業の停止を命ずることはできないですよ。
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では、改善命令や措置命令はあるでしょうか?
これはわからないわ。改善命令の重いのが措置命令なの?
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じゃ、ちょっと改善命令と措置命令について解説するね。
改善命令は、「無い」でしょうね。
と、言うのは改善命令というのは「基準を遵守してやりなさい」というのが改善命令なんです。
「基準」、「処理基準」ですね。
飛散、流失、地下浸透、ネズミや害虫を出さないといった基本的なことから、「規定の保管量を守りなさい」「掲示板をつけなさい」「車両表示をしなさい」といったいろんな基準がありますね。
それを守っていない時にかけられるのが改善命令なんです。
たとえば、50トンしか保管していけない場所に300トン保管していたとしたら、「保管量は50トンまでにしなさい」とかけるのが改善命令です。
不法投棄に改善命令をかけるということは、「基準を遵守して不法投棄をやりなさい」という、なんとも矛盾したことになっちゃうんですね。
したがって、一旦「不法投棄」とした限りは、今更改善命令は無いってことになります。
一方、措置命令は「支障の除去」。まぁ、一般的な表現では「原状回復命令」ですかね。
改善命令と措置命令の大きく違うところの一つは、対象者なんです。改善命令は基準が適用になる人しか対象にできません。
「基準を守れ」というなら、基準が適用になる人物しか対象にできないのは当然だわね。
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措置命令は、「生活環境保全上の支障(「おそれ」も含め)」が発生している場合は、その行為者はもちろん、広く関係者(排出者、運搬者、要求・依頼・唆し・助けた者等)も対象にできるんです。
だから、不法投棄などでは実行行為者はもちろんながら、その人物に処理を委託した排出者なども対象にできるんです。
じゃ、なんでもかんでも措置命令にすればいいんじゃないの?
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ところが、これが大きな弱点がある。
それは?
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「支障」があるからこそ措置命令ができる。
と言うことは、命令を受けた人物が命令に従わないと「支障」は継続する。
「支障」が残っているのに放置する訳にはいかない。しょうがないので、命令をかけた方、すなわち行政が代わって、その支障を除去しなければならなくなる。これが行政代執行となる訳です。
ちょっとわかりにくいわ。具体的な例で説明してみて。
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では、不法投棄を例に取り説明しましょう。
たとえば、水道水源地の近くにドラム缶に入った廃油が不法投棄されたとします。
「普通の女性の不法投棄」画像3

図2

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図3

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これが転がってきて水源地に入れば、水道が飲めなくなりますよね。こういった状況を「生活環境保全上の支障」と言う訳です。
そこで、「片付けろ。元の通りに戻せ。」と命じる。これが措置命令。ところが、不法投棄した人物は金が無くてドラム缶を片付けられない。命令違反として警察に捕まり牢屋に入るかもしれない。しかし、ドラム缶は片付かない。
いつ、ドラム缶が水源地に入るかもしれない。それを放置しておくことはできないので、行政がドラム缶を片付ける。これが代執行。
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図4

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「代執行」は読んで字のごとく「代わりに執行する」ことなので、かかった経費は本来やるべきだった人物に請求します。でも、支払うと思いますか?
支払える金があるんだったら自分で片付けているわよね。
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と言うことで、現実は、大抵の場合、代執行でかかった金は税金の使いっぱなしになる。
だからこそ、行政はできるならば代執行をやりたくない。と言うことは、代執行に結びつく措置命令はやりたくないって理屈になる。
はっはぁ。なるほど。別の言い方をすれば、税金を使ってやったとしても国民、市民が納得してもらえるような事案でなければ措置命令の対象にできないってことなんですね。
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そのとおり。だから、なんでもかんでも措置命令を発出すればいいってもんじゃないんです。
今回の事案に戻りますが、措置命令は生活環境保全上の支障があれば発出することは可能ですが、この事案で行政が代執行までやるレベルかって考えると、現実的には「措置命令はない」となるでしょうね。
じゃ、今回の事案について整理してみましょう。
違反は廃棄物処理法第16条。不法投棄。
罰則は第25条第14号。最高刑懲役5年。
想定される行政処分は、許可取消、改善命令、措置命令ともに「無し」。
と、まぁ、このように事案を取り上げ、違反条文、罰則、行政処分について考えていく、というシリーズです。
いつまで続くかは読者の皆さまの反響しだい・・・かな。
質問、クレーム、リクエスト、でもかまいませんので、感想メールをお待ちしています。
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(2021年05月)

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