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「総復習・総合 六価クロム事件」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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「違反事例で考える」シリーズも今回で最後。総復習と言えるほど特段に複雑で難しい事件を取り上げてみたいと思います。これまでいろんな違反事例を見て、勉強してきた訳ですが、どうですか。
この一年間、いろんな事件を見てきたので、たいていの違反条項、罰則、想定される行政処分について、答えられると思いますよ。
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すごい自信ですね。それじゃ、早速この記事を見ていただきましょう。今回は同じ事件なのですが、3紙同時に見ていただき、誰がどんな違反をしているか考えていただきましょう。
「総復習・総合 六価クロム事件」画像1

出典:2018年11月10日 毎日新聞東京都版
毎日新聞切り抜き

「総復習・総合 六価クロム事件」画像2

出典:2018年11月10日 朝日新聞
朝日新聞切り抜き

「総復習・総合 六価クロム事件」画像3

出典:2018年11月10日 読売新聞
読売新聞切り抜き

有害物である六価クロムに汚染された産業廃棄物が不法投棄されたってことと、S社という会社が悪さをしたんだってことは判りますが、複雑すぎて頭がこんがらがってしまうわ。
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それでは、一つ一つ記事を分解して調べてみようか。私が見る限りでは、毎日新聞の記事が一番、廃棄物処理法上正確に書いていると思われるので、毎日新聞の記事で見ていこう。
「総復習・総合 六価クロム事件」画像4
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まず、最初1/3の部分。長いけど、これで読点「゜」は一つの文章だ。その最後に「工場の元社長」が書類送検されたと書かれている。
このシリーズの1回目で取り上げたけど、「送検」されたってことは、違反行為をやったってことですよね。となると、元社長が立場上なるのは、おそらく「排出者」よね。
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そうだね。よって、記事の冒頭に記載している「メッキ工場からの六価クロムを含む廃棄物」の排出者は、この元社長と考えてよさそうだね。
次に、「S社」の社員のK氏という人物は逮捕されているから、この人物も違反行為をやっている。その違反は「無許可で受託」し「投棄」したと書いてあるから、このK氏は「無許可」と「不法投棄」も間違いないところね。
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そうだね。じゃ、次の部分に移ろうか。
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新たな登場人物が出てきましたね。「足立区の不動産会社」と「千葉県の解体工事会社」ね。文章から読み解くと、さっきのメッキ工場の元社長から頼まれた不動産会社が、・・・・
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はい、ちょっとここで。「何を」頼まれたんだろうか?
普通に考えれば、不動産屋さんなんだから、土地や建物の売買だと思うけど、それじゃ、廃棄物処理法で逮捕、送検はされないわよね。やはり、記事の文章のとおり、通常はあまり考えられないことだけど、「廃棄物の処理」を委託したんでしょうね。不動産屋は廃棄物を処理する機材も人も居ないでしょうから、当然、別の人物に頼むしかない。それが千葉の解体屋さんか。
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そうだね。おそらく、これはあくまで想像なんだけど、メッキ工場は数年前に閉鎖した。この土地建物をなんとかしたいと元社長は考えていた。
そんな折に、不動産屋が、「お客さん、うちが全部面倒見てあげますよ。」「そうか、それはよかった。おたくに全部任せるよ。」という状況なんじゃないかなぁ。
なるほど。「頼むよ。任せるよ。」「承知しました。任せて下さい。」これが「委託」と「受託」って取られたわけかぁ。えーと、でも、この不動産屋さんも千葉の解体屋さんも、結局は自分じゃやらず、さっきの「S社」に任せた。いわゆる「丸投げ」したってことね。
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さて、最後の1/3の部分。
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「解体で出た廃棄物」って書いてあるわね。建設工事から出てくる廃棄物の排出事業者はたしか、工事の「元請」だったわよね。この事件では、誰が「工事の元請」に該当するんだろうか?実際に解体したのは「S社」よね。そこは後々整理することとして、これを「工場敷地」、つまり工事現場、解体現場よね。そこの地下水槽に投棄した。さらに、わざわざ持ち出して笠間まで運んでいって投棄したって書いてるわ。その結果が、現場で高濃度の六価クロムによる汚染ってことね。
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これも想像だけど、おそらく解体する時点で、工場の水槽にはメッキ廃液がまだ残っていたんだろうね。それをそのまま解体しちゃった。だから、解体したコンクリートや木くず、金属くず、廃プラスチック類なんかに付着しちゃったんじゃないかな。
本来なら、メッキ工場を廃業するときに、それまでメッキに使用していたメッキ溶液はきちんと処理しなければいけなかったのに、そのままになっていたんかなぁ。
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さて、改めて記事を分解して読み直した訳だけど、事件の全体像は掴めたかな。
文字だけじゃわかりにくいので、イラストにしてみたけど、どうかしら。
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おぉー、リサちゃん。廃棄物処理法はイマイチだけど、絵は上手なんだね。
センセ。パワハラで訴えられますよ。
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ごめんごめん。あまりに絵が上手だったんで、思わず口走っちゃったよ。廃棄物処理法も、それなりに勉強してきているよね。
こういうように、複雑な事件は図にしてみると理解が深まるね。
じゃ、改めて登場人物と違反行為を確認していこうか
まず、簡単なところから。
「S社」とその社員、K氏という人物は「無許可」と不法投棄。無許可はどこまで問うかだけど、収集運搬は確実なので、第14条第1項。不法投棄は第16条違反かな。
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正解。だけど、70点位かな。
どうして?100点満点でしょ?
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解体工事からのがれき類、木くずだけだったら、これでいいけど、メッキ工場の六価クロム廃液の処理は?
あっ、そうかぁ。メッキ工場の六価クロム廃液は特管物。特別管理産業廃棄物に該当するかぁ。
だと、特別管理産業廃棄物処理業の無許可も該当するとなると、第14条の4第1項。これね。
(特別管理産業廃棄物処理業)
第十四条の四 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、特別管理産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその特別管理産業廃棄物を運搬する場合に限る。)その他環境省令で定める者については、この限りでない。
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いい調子だね。さて、「無許可」を考えるとき、必ず、その人物に頼んだ人物についても、考えなければいけなかったね
そうそう。廃棄物処理法の違反は、必ず、排出事業者(委託者)と業者(受託者)の双方をチェックしなければならなかったわ。でも、この事件の場合は、排出事業者は複雑ね。
メッキ廃液についてはメッキ工場の元社長だとして、解体工事からの建設廃棄物の排出者は工事の元請よね。
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この建設系廃棄物について検討する時には、忘れていけない点がある。それが、「残置廃棄物」って概念だね。平成30年の時にも国は改めて通知しているけど、建設工事(解体工事)に入る前から、既に廃棄物として存在している廃棄物は、工事の元請が排出者ではなく、元々の所有者、管理者が排出事業者だって考え方。
それ、知っていました。建設工事に入る前から廃棄物としてそこにあった訳だから、それまで工事元請を排出者には出来ないわよね。とすると、今回の事件でも、メッキ廃液は「残置廃棄物」、解体工事で出てきたがれき類なんかは建設系廃棄物って整理ね。
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この事件で、不明な点として、「解体工事は誰が発注したか」「解体工事は誰が受注したか」が今ひとつはっきりしない。元々の所有者であるメッキ工場の元社長なのか、それとも土地建物を一旦引き取った不動産屋なのか。ここはちょっとわからないけど、元請は状況からすれば千葉県の解体工事会社でしょうね。
となると、建設系廃棄物については千葉県の解体工事会社が排出事業者の立場ですね。その解体工事は自分じゃやらずに「S社」に丸投げした。だから、「S社」は工事の下請けになる。
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ここまで整理すれば違反条項もわかるね。
既にさっき整理したように「S社」が無許可であるなら、ここに廃棄物の処理を委託した千葉の元請は「無許可業者委託」ね。
メッキ廃液については、元社長が排出者とすれば、心ならずも処理を受託した形になってしまった不動産屋、そして不動産屋を経由して受託した千葉県の解体工事会社は、自分では実行行為をしていないので、廃棄物処理法上は「再委託」や「無許可」ではなく、「無許可受託」。何回か前にやった「ブローカー行為」となる訳ね。
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正解。ただ、ここでも特別管理産業廃棄物の無許可受託なので、違反条文はこれになるね。
(ブローカー行為の禁止)
第十四条の四
15 特別管理産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者以外の者は、特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を、特別管理産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者以外の者は、特別管理産業廃棄物の処分を、それぞれ受託してはならない。
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最後に忘れていけない違反があるね。
不法投棄ね。
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解体工事では、解体した現場に穴を掘り、そのまま埋め戻してしまう、なんて行為が時折ある。「そこにあった物をそこに埋めてなぜ悪い。オレの土地だ。文句があるか。」などと主張する人が昔は結構いたけど、いくつか裁判もあり、現在ではいくら自分の土地でも、みだりに投棄する行為は不法投棄にあたる、というのが常識だね。
この事件なんかは有害な六価クロムに汚染された訳なので、ましてや、ですね。
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もう一つこの事件では注目しなければいけない点があるよ。
なんですか。もう、十分検討したと思いますが・・・。
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今までの登場人物だけだと元社長、不動産屋、千葉の解体会社、「S社」のK氏の4人にしかならないじゃないですか。記事では「8人を逮捕した」と書いてるよね。あとは想像でしか無いけど、推察される人物はいないかな。
ん~。妄想レベルなんですけど、読売新聞の記事にはK氏は「実質的経営者」って書いてますよね。それに、もし、K氏の個人の犯罪なら、「S社」っていう会社名を新聞に掲載するかなぁって思うんですよ。だから、K氏が実質的な経営者であるなら、名目上、書類上の社長もいると思うんです。
よって、法人として「S社」と名目上の社長、この人達も違反を問われたんじゃないか。
あとは・・ん~、こんなとこかなぁ。
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うん、よく頑張ったね。あとは、多分、実際に不法投棄を実行した従業員。りさちゃんが書いた全体像のイラストでも、ダンプを運転している運転手やブルドーザーを動かしている運転手がいるよね。おそらく、こういった人物も逮捕されていると思うよ。
えっー(○_○)。社長に指示されてやった従業員もですか?
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なんとなく、指示されてやったら、指示した人物が悪い奴で、やった人物は悪くない、みたいに感じたり、思ったりしている人も居るけど、そうじゃない。実行犯は一番に逮捕される。
たとえば、ヤクザの親分から子分が「あいつ刺してこい」と言われて、「わかりました親分。オレが刺してきます。」と言って、本当に人を刺してしまった。さぁ、この子分は「オレが人を刺したのは親分から命令されたからだ。」と主張したら罪にならないと思いますか?
そんなことはないわ。人を刺したら、いの一番に、まずは刺した人が捕まるわ。
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これでご理解いただけたかと思うけど、実行犯は絶対罪に問われます。だから、いくら社長の指示があったからと言って不法投棄をやったら、その人間はやはり罪を問われる。
この新聞記事には出ていなかったけど、この事件でもやはり不法投棄をしたときの重機の運転手も不法投棄で逮捕されたみたいですよ。
それにリサちゃんが言ってたけど、逆に従業員が違法行為をやっているのに、それを黙認しているような上司、社長も当然罪は問われるし、「会社ぐるみ」と見なされれば両罰規定の適用もあり得ますね。
さて、今回は盛りだくさんなんですが、想定される行政処分はどうでしょうか?
行政処分はそんなに難しくはないと思います。廃棄物処理法の行政処分は、大きく分ければ2つの要因。「許可」と「環境」でしたよ。
「許可」については、今回の事件は誰も廃棄物処理業の許可は持っていないようなので、「業許可取消」などは「無し」。
「環境」の方は、六価クロムという有害物による環境被害もあるようなので、措置命令ですかね。
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よくできました。不法投棄事案ですし、だれも許可を取っていないようなので、改善命令は考えにくい。有害物の汚染で「生活環境保全上の支障」は十分考えられますから、行政処分をするとすれば「措置命令」ですね。ただ、この事件に関しては関係者により原状回復がなされたようなので、現実には命令はなかったようですが。
では、今回の事件は盛りだくさんでしたが、まとめておきましょうか。
1.廃棄物の排出者は誰になるのか?通常の排出形態、建設系、残置、違ってくるので注意が必要。
2.他者の廃棄物を処理する時は許可が必要。建設系は元請が排出者。したがって下請は許可が必要。
3.他者の廃棄物の処理を受託するには許可が必要。実行行為をやらなくても無許可で受託した場合は「ブローカー行為」となり違反。
4.業許可関係は普通の産廃と特管産廃では条項が違う。
5.違法行為は上司から指示された場合でも実行行為者は罪になる。
6.「会社ぐるみ」の場合は、法人としても罪を問われる場合がある。
7.行為者は許可業者ではなかったので「許可取消」は無し。措置命令は可能性有。
ほんとに「総復習」に相応しい、複雑な、難しい事件でしたね。
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でも、リサちゃんは「想定図」が描けたから、センスよかったです。違反事案に限らず、複雑な事案にぶつかったら絵を描いてみたり、部分部分で切り取って検討してみたり、もちろんいろんな人と相談しながら、様々な角度で検討してみることが大切だね。
このシリーズもとても勉強になったと思います。機会があればまたよろしくね。センセ。
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(2022年04月)

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