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「名義貸し」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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前回は無許可の事件を見て、勉強してきた訳ですが、どうですか。
これまで、不法投棄、野焼き、無許可と勉強しましたから、たいていの違反条項、罰則、想定される行政処分について、答えられると思いますよ。
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毎回、すごい自信ですね。廃棄物処理法は膨大な条文があるんですから、簡単なことじゃないと思いますが、・・・。まぁ、とりあえず、今回はこの記事を見ていただきましょう。
「名義貸し」画像

出典:2020年7月27日 循環経済新聞
ケース1 循環経済新聞切り抜き

センセ。もう答え出ているじゃないですか。違反は、「名義貸し」と「マニフェスト虚偽記載」。
違反条文は、第14条第16項で、行政処分は許可取消。↑(^^_)ルン♪
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大正解。と言うか、記事のとおりですね。まったく最近の記事は問題にしづらくて困ったものです。(^_^;)
でも、廃棄物処理法違反はそれだけなんだろうか?文面には表れてこないけど廃棄物処理法違反をしている人物は居ないかな?
ん~。わかんない。とりあえず違反条文を見ていきましょうよ。そのうち発見できるかもしれないし。第14条第16項よね。

(産業廃棄物処理業)
第十四条
16 産業廃棄物収集運搬業者は、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を、産業廃棄物処分業者は、産業廃棄物の処分を、それぞれ他人に委託してはならない。ただし、事業者から委託を受けた産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を政令で定める基準に従つて委託する場合その他環境省令で定める場合は、この限りでない。

あれ?これって再委託禁止の条文じゃなかったっけ?委託契約については、嫌になるほど先輩から教えられたから、頭の片隅にあるわ。
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正解。実はこの新聞記事は条文を間違って記載している。本当の「名義貸し」条文は第14条の3の3。こちらだね。

(名義貸しの禁止)
第十四条の三の三 産業廃棄物収集運搬業者及び産業廃棄物処分業者は、自己の名義をもつて、他人に産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行わせてはならない。
紛らわしいわね。でも、再委託と名義貸しってどう違うの?結局、頼まれた自分はやらずに他人にやらせるって行為ですよね。同じじゃないの?
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もう一つ、紛らわしい違反として「ブローカー行為」があるよ。これは第14条第15項。

第十四条
15 産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者以外の者は、産業廃棄物の収集又は運搬を、産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者以外の者は、産業廃棄物の処分を、それぞれ受託してはならない。

ちょっと例外的なケースもあるけど、3つの違反の概略を説明しよう。
まず再委託だけど、これは一次受託者も実行行為を行う二次受託者も許可を持っている。単なる手続き違反だね。実際に再委託違反と思われる事件も起きてるよ。ケース2を見て。
「名義貸し」画像2

図1 再委託違反の図

「名義貸し」画像3

出典:2019年11月25日 循環経済新聞
ケース2 循環経済新聞切り抜き

再委託をするときはあらかじめ、元々の排出者から承諾書をもらって、一次受託者と二次受託者間でも委託契約を締結して、とかいう事務手続きのことですか。
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そのとおり。日本語としては自分が頼まれたことを、別の人に頼むことを「再委託」と言うけど、廃棄物処理法で言う「再委託」は、この手続きをしないで委託する。これを「再委託違反」ってなるんだね。
今回の事件の「名義貸し」は、一次受託者は許可を持っているけど、実行行為を行う二次受託者はたいていは許可を持っていない。
「名義貸し」画像4

図2 名義貸し

「名義貸し」画像5

図3 ブローカー行為

そりゃそうよね。自分が許可を持っていたら、自分の名義でやれるんだから。それに一次受託者は貸す名義を持っているんだから、許可業者よね。
あっ、わかった。もう一つ表面に現れていない違反って、この実行行為者の無許可行為か。
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そのとおり。よく気がついたね。さて、3つ目の「ブローカー行為」だけど、これは一次受託者が許可を持っていないのに受託して、実行行為を行う二次受託者は許可を持っている。ただ、ブローカー行為は、実行行為者が無許可って事件もありますが。
名義貸しとかブローカー行為なんて、そんなに起きるもんじゃないんでしょ。
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そうとも言えないよ。もしかすると、水面下では頻繁に行われているかも。
どういうこと?
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産業廃棄物処理業の許可って都道府県毎の許可だよね。(政令市の許可もあり)しかも、産業廃棄物の種類毎の許可になっている。だから、たとえばA社は岡山県では廃プラスチック類と汚泥の許可を、広島県では廃プラスチック類の許可だけを持っているとする。ある日、広島県のお得意様から「滅多に出ないんだけど、今日に限って汚泥が発生しちゃったんだよ。A社さん、あんたんとこ産廃の許可持ってるよね。これ運んでて。」と言われて、「わかりました。」って答えた。しかし、広島県では汚泥の許可は持っていない。そこで親しくしているB社に「あんたの会社、汚泥の許可持ってたよね。あんたの会社の名義でやっていいかなぁ。」と。これが名義貸しになる。
ブローカー行為は?
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上の例をそのまま使うと、「おれんとこで引き受けちゃったけど、おれ、広島県じゃ汚泥の許可持ってないんだ。あんたの会社で運んでくれないかなぁ。」となると、これがブローカー行為となる訳だね。
平成9年までの法律改正までは、実際に産廃を運ぶ人間が許可を持っていれば構わないだろうってことで、ブローカー行為は禁止されていなかった。でも、当時、全国を行脚して、産廃処理の「前売り券」まで売りつけて、料金を中抜き、ピンハネする悪徳業者が横行しちゃった。そこで、実際に産業廃棄物の処理をしなくとも、「オレが処理してやるよ」と処理を請け負ったら、それは違反、というルールを作ったんだ。
複雑ねぇ。これじゃ、新聞記者も間違うわよ。
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それでは次のステップに進みましょうか。罰則は?
違反条項さえ判れば、罰則は見つけられるようになったわよ。えーと。これかな。

第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
七 第七条の五、第十四条の三の三又は第十四条の七の規定に違反して、他人に一般廃棄物又は産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行わせた者

ついでに、ブローカー行為はっと。同じく第25条第13号
十三 第十四条第十五項又は第十四条の四第十五項の規定に違反して、産業廃棄物の処理を受託した者

そして、再委託は・・・・あれ?第25条には出てこないなぁ。?再委託は罰則は無いのかなぁ?
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そんなことはないね。再委託は一つ下がって第26条なんだ。第1号
第二十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第六条の二第七項、第七条第十四項、第十二条第六項、第十二条の二第六項、第十四条第十六項又は第十四条の四第十六項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
へぇぇ。名義貸しとブローカー行為は廃棄物処理法では一番重い第25条最高刑懲役5年とかなのに、再委託だけ一つ軽い第26条で最高刑懲役3年かぁ。どうしてかなぁ?
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名義貸しとブローカー行為は一次受託者か二次受託者、どちらかが無許可の人物になる。でも、再委託違反は曲がりなりにも両者とも許可を持っている。単なる手続きミス。そんなことを考慮しての罰則じゃないかな。
他の違反としては、「マニフェスト虚偽記載」もあるけど、これは次の機会にしましょうか。
さて、じゃ、次のステップ。行政処分。これはどうかな。
いつものとおり行政処分は「許可」と「環境」、2つの要素で検討すればいいのよね。まず、「許可」に関しては、記事によれば、と言うか、名義貸しをしていたのだから、この会社は許可を取っていた会社。よって、「業許可」関係の行政処分については、取消や事業停止はあり得るってなるわね。記事によると取消処分を受けたようですね。
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環境関係の行政処分はどうだろうか?
記事には改善命令についても、措置命令についても触れていませんね。どうなんでしょうか?
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推測なんだけど、「名義貸し」という違反だけなら、生活環境保全上の支障は発生していないと思われる。よって、改善命令、措置命令はこの事案については「無し」じゃないかな。
じゃ、今回の事案のまとめをしておきましょうか。
1.違反は「名義貸し」。違反条項は第14条の3の3。新聞記事は間違い。
2.類似の違反に「再委託違反」、「ブローカー行為」あり。再委託違反は手続きミス。ブローカー行為は無許可業者による受託。
3.罰則は名義貸し、ブローカー行為罰則25条。最高刑懲役5年。再委託違反は罰則26条。最高刑懲役3年。
4.想定される行政処分として、業許可関係では「取消」。環境関係の改善命令、措置命令は無し。
今回の事件は新聞社の記者も違反条文を間違う位だから、ややこしいわね。名義貸し、再委託、ブローカー行為はうっかりすると巻き込まれる可能性有ですね。十分注意しなくちゃね。じゃ、またね。
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(2021年09月)

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