大栄環境グループ

JP / EN

「保管量」

Author

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

BUN先生キャラクター画像
今まで不法投棄、野焼き、無許可といった違反事例を見て、勉強してきた訳ですが、どうですか。
違反条項、罰則、想定される行政処分について検討してみるってやりかたにはだいぶ慣れてきたと思います。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
「だいぶ慣れた」って言っても、廃棄物処理法は膨大な条文があるんですから、簡単なことじゃないと思いますが、・・・。まぁ、とりあえず、今回はこの記事を見ていただきましょう。
「保管量」画像

出典:2018年4月16日 循環経済新聞
ケース1 循環経済新聞切り抜き

違反は「不適正保管」よね。違反条文は第12条第1項って書いてるわ。とりあえず、その条文を確認してみましょ。
(事業者の処理)
第十二条 事業者は、自らその産業廃棄物(略)の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(略、以下「産業廃棄物処理基準」という。)に従わなければならない。

処理基準に従えってことよね。そして、具体的なことは「施行令第6条」とも書いてあるわ。こちらも確認しておくね。
(産業廃棄物の収集、運搬、処分等の基準) 第六条 ・・・・・

うわー、膨大な条文。このうちのどの条文が、今回の事件に直接結びつくのか、とてもわかんない。センセ。ヘルプ。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
政令第6条は、産業廃棄物の具体的な処理のルールを全て押し込めている、と言ってもいい部分なので、普通産廃(特管産廃を除く産廃)の基準である第6条だけでも令和2年度版の法令集では13頁にもなっていますね。今回の事件に関わるところは第6条第1項第1号ホ
ホ 産業廃棄物の保管を行う場合には、第三条第一号チ及びリの規定の例によるほか、当該保管する産業廃棄物の数量が、環境省令で定める場合を除き、当該保管の場所における一日当たりの平均的な搬出量に七を乗じて得られる数量を超えないようにすること。
えーと・・、「保管の場所における一日当たりの平均的な搬出量に七を乗じて得られる数量を超えない」この部分だとは思いますが、わかりにくいですね。解説してください。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
そうだねぇ。この規定は以前からの経緯や他の規定も知っていないとなかなか理解しにくいと思う。
まず、この条項で規定している「保管」は、「積替保管」の保管であって、排出場所での保管ではない。と言うのは、政令の見出しにも「収集、運搬、処分等の基準」とある。
ちなみに、排出場所での「保管」の基準は、法律ではこの条文の1つ後、第12条第2項で次のように規定している。
2 事業者は、その産業廃棄物が運搬されるまでの間、環境省令で定める技術上の基準(以下「産業廃棄物保管基準」という。)に従い、生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければならない。
これを受けた省令第8条では・・・
(産業廃棄物保管基準)
第八条 法第十二条第二項の規定による産業廃棄物保管基準は、次のとおりとする。
一 保管は、次に掲げる要件を満たす場所で行うこと。
(以下、略)
産業廃棄物が発生して、排出者が発生場所でそのまま保管している状態では第2項が適用されて、そこから運び出された以降は第1項が適用されるってことですね。時系列的には反対になるので、ますます、混乱しますね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
この件はまた後ほど登場するけど、とりあえずその要因は置いておいて・・・。
この第12条は主語が「事業者は、」ですよね。だから、本来はこの規定は排出事業者には適用になるけど、許可業者には適用にならない。しかし、同じ第1項で<以下「産業廃棄物処理基準」という。>と規定しているね。
そして、条文は飛ぶけど、第14条第12項で次のように定めている。
12 第一項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物収集運搬業者」という。)又は第六項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物処分業者」という。)は、産業廃棄物処理基準に従い、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を行わなければならない。
なるほど。回りくどいけど、産業廃棄物処理基準は排出事業者だけでなく、許可業者にも全く同様に適用されるってことですね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
ここまでが1ステップ。次の要因。考えてみると許可業者は産業廃棄物を排出しない。
言葉のアヤだとは思うけど、他者の廃棄物を委託を受けて処理する立場だから「業者」であり、廃棄物を排出する立場なら、それは「業者」ではなく、排出事業者だってことですか。したがって、「業者」は廃棄物は排出しないって理論展開ですね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
そのとおり。だから、「業者」が扱っている産業廃棄物は、誰かの産業廃棄物なんだ。自分の産廃じゃない。と、言うことは、収集運搬業者が扱っていて「保管」しているということは、必ず「積替保管」中だとなる。
発生場所での保管は排出事業者の保管でしょうし、処分施設での保管なら処分業者の保管でしょうから、収集運搬業者の保管と言ったら、たしかに「積替保管」の保管しか残っていませんよね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
したがって、ずっとそのままで、その場所に保管し続けることは想定できない。
そりゃそうですね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
ちなみに、「第三条第一号チ及びリの規定の例によるほか」とあるけど、この「第三条第一号チ」というのが次の条文です。これは一般廃棄物の条文なので一般廃棄物を産業廃棄物に置き換えて紹介するね。
チ 産業廃棄物の保管は、産業廃棄物の積替え(略)を行う場合を除き、行つてはならないこと。
なんのこと?運搬する時は、必ず積替保管をしなさいってことなの?
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
違います。でも、これもひねくれた表現だよね。そもそもこの「保管」は収集運搬基準としての「保管」の基準だったよね。収集運搬で積替保管以外の保管は、行く宛の無い「保管」になってしまう。つまり、この条文は、「行く宛の無い廃棄物の持ち出しはしてはいけませんよ」という趣旨。別の言い方をするなら「排出場所から廃棄物を持ち出すなら、行き先が決まっていないとダメですよ」って規定なんだ。
わかりにく~い。わざと国民に理解させないようにしているとしか思えない。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
まぁ、ご不満はわかるけど、次に進もう。いよいよ、最後のステップだね。いくら搬入先が決まっているからと言って、一箇所に長期間、大量に保管し続けることは、よくない。あくまでも一時的な積替保管なんだから。そこで登場したのが「保管の場所における一日当たりの平均的な搬出量に七を乗じて得られる数量を超えない」という規定。
積替保管の場所には1週間しか置いては行けないってことですか。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
そうじゃないんだ。この規定は「期間」を限定しているんじゃなくて、「量」を限定しているんだ。産業廃棄物の種類によっては、ある程度の期間、保管しておくことはやむを得ないケースもある。そこで、この表現にしたんだ。この規定が出来たときの施行通知にあるんだけど、「一日当たりの平均的な搬出量に七を乗じて得られる数量」とは前月1月分の搬出量を30日で割り、平均的な1日の搬出量を算出して7日分は保管してよいという趣旨なんだ。
と言うことは、たとえば、8月ひと月に300トン搬出した実績があるのなら、翌月の9月はその場所に300÷30×7=70トン保管していていいってルールね。30トンの搬出実績なら7トン保管可能。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
そのとおり。ちゃんと搬出しているなら、ある程度多量の産業廃棄物を保管していても安心でしょ。一方、搬入するだけで搬出しないとなると、いくら少量ずつでもだんだん溜まっていく一方、これはよくない、という規定だね。
なるほど。前月に全く搬出していないとなると、搬出量0。0÷30×7=0トン。すなわち、翌月にはその場所には保管してはいけないってことになる訳ね。現実的にはなかなか対応は難しいかも知れないけど、理屈としては理解できるわ。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
同じような事件は結構多いんだけど、これもそうだね。
「保管量」画像2

出典:2018年4月2日 循環経済新聞
ケース2 循環経済新聞切り抜き

BUN先生キャラクター画像
この記事の後ろの方には「法律第6条第1項第1号ホ」って書いてあるけど、これは「政令第6条第1項第1号ホ」の間違いだね。
ここまでの話だと「政令第6条第1項第1号ホに適合するように全量撤去」ってことは、この事業者は前月は全く搬出せずに、その場所に起きっぱなしにしていた。よって、0÷30×7=0トン。すなわち、全量撤去ってことになる訳ね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
ここまで長くなったけど、違反条項は確認できたので、「罰則」に行きますか。この違反の罰則は?
この検討も何回かやったので、慣れてきました。第25条以降の罰則の条項から、違反条項を見つければいいんですよね。簡単、簡単。えーと、第12条第1項・・・・。センセ。無いわ。第25条から第34条まで、何回も見直したけど第12条第1項が見つけられません。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
と言うことは「罰則は無い」ってことでいいかな。
ちょっと待って。こんな違反をしておきながら「罰則が無い」なんて、おかしくない?(`o´)
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
処理基準違反は罰則は無いんだ。なぜかと言うと、処理基準はとても範囲が広い。たとえば、保管場所の看板とか、車両表示なんかも処理基準。それに違反しているからと言って、すぐに懲役1年だとか罰金100万円だとかいうのは、ちょっとやりすぎだって考えなのかもしれないね。もし、程度がひどければ、それは「投棄」しているとして不法投棄で対応した例もある。次のケース3なんかその例。
「保管量」画像3

出典:2019年4月8日 循環経済新聞
ケース3 循環経済新聞切り抜き

BUN先生キャラクター画像
そして、その以前に改善命令という手段もある。おっと、次のステップの答えを言っちゃったね。遅ればせながら質問しようかな。この事件ケース1、に対処するにふさわしい「行政処分」としては、どのようなことが考えられますか。
廃棄物処理法の行政処分は、「許可」と「環境」について検討すればよかったんですよね。
まず、「許可」についてですが、ケース1の行為者は許可業者かどうかは書かれていません。なので、真実はわかりませんが、書かれていないことを勘案すると、この人物は許可を持っていない。許可を持っていない人の許可は取り消せないので、許可に関する行政処分は「無し」。 次に、「環境」の視点からは改善命令や措置命令でしたよね。「保管」と認知していて、「生活環境保全上の支障」がそれほどでもないのであれば、改善命令。もし、生活環境保全上の支障が出ているのであれば措置命令もあり得る、でしたね。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
大正解。実際にもケース1、ケース2ともに第19条の3の改善命令を発出しているね。
確認しておこうか。
(改善命令)
第十九条の三 (略)産業廃棄物の適正な処理の実施を確保するため、当該保管、収集、運搬又は処分を行つた者(事業者、一般廃棄物収集運搬業者、一般廃棄物処分業者、産業廃棄物収集運搬業者、産業廃棄物処分業者、特別管理産業廃棄物収集運搬業者、特別管理産業廃棄物処分業者及び無害化処理認定業者(以下この条において「事業者等」という。)並びに(略)に対し、期限を定めて、当該廃棄物の保管、収集、運搬又は処分の方法の変更その他必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。(1号、3号略)
二 産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準(特別管理産業廃棄物にあつては、特別管理産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物保管基準)が適用される者により、当該基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合(次号に掲げる場合を除く。) 都道府県知事
刑事罰としての直罰はないけど、行政処分として改善命令の対象にはなるってことね。ちなみに、改善命令に従わない時はどうなるの?
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
処理基準違反は直罰は無いけど、改善命令違反には罰則があるよ。
第二十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
二 第九条の二、第十五条の二の七、第十九条の三(第十七条の二第三項において準用する場合を含む。)、第十九条の十第一項において読み替えて準用する第十九条の四第一項又は第十九条の十第二項において読み替えて準用する第十九条の五第一項の規定による命令に違反した者
最高刑懲役3年ね。改善命令にも従わないような人物なんだから、もっと重くてもいいような気もするけどな。
りさキャラクター画像
BUN先生キャラクター画像
なかなか厳しいご発言(^_^;)。それじゃ、今回の事案についてまとめてみましょうか。
1.保管量超過による違反。違反条項第12条第1項。
2.「保管」は排出場所での保管と収集運搬途中での積替保管としての「保管」では基準が違う。
3.積替保管の保管量上限は、前月搬出量の7日分。
4.処理基準違反は罰則無し(刑事罰としての直罰はない)
5.保管基準違反、処理基準違反は改善命令の対象になる。
6.改善命令違反は罰則第26条第2号。最高刑懲役3年。
今回の事件も、ややこしいわね。でも、積替保管をやっている収集運搬業者とお付き合いするなら必要な知識だったわ。大量保管で排出事業者までうっかりすると巻き込まれる可能性有ですね。十分注意しなくちゃね。じゃ、またね。
りさキャラクター画像

(2021年10月)

PAGE TOP