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「委託基準違反」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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これまで、不法投棄、無許可、保管超過などの違反事例を見てきた訳ですが、どうですか。
どれも重大で、注意しなければいけない違反だとは思うけど、排出者の立場のリサとしては、今ひとつ実感できない気分です・・・・。
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じゃ、今日はリサちゃんも冷や汗が出るような記事から見てもらおうかな。
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出典:2020年2月21日 日経新聞
ケース1 日経新聞切り抜き

エーッ、区役所っていったら公務員の人達でしょ。「ルールを知らなかった」なんて言ってらんないわよね。
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まぁ、日本には数え切れないほどの法律があるんだから、知らないルールがあってもしょうがない。温かい心で見てあげましょう。
で、この違反条項や罰則はなにかな。
見出しにもあるとおり「無許可業者委託」よね。と言うことは、受けた側は「無許可」だったってことになると思うけど。
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おっ、ポイントを突いてきたね。とてもいい感覚です。廃棄物処理法の違反を検討する時は、「この人、一人の違反ではないのではないか」と考えてみることが大切だよ。今回のように排出者、つまり出す側が違反をしていれば、受ける側もたいていは違反をしている。
別の見方をしていれば、曲がりなりにも受け手側が許可を持ってさえいれば、出す側が「無許可業者委託」を問われるってことにはならなかったってことね。
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そうだねぇ。まぁ、別の条項に違反している可能性は0じゃないけど、少なくとも「無許可業者委託」にはならなかったろうね。無許可だけではなく、これまで取り上げてきた不法投棄にしても保管量超過にしても、そもそも廃棄物を出した人がいたからこそ起きた事件だ。結果論だと言われるかも知れないけど、極論としては「あなたが廃棄物さえ出さなければ、こんな事件は起きなかったんですよ。」となる。
だから、建前論だと言われようとも「排出者責任は大きい」ってことですね。
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さて、この事件。違反条項は?
受け手側は以前やった無許可で、これは収集運搬は第14条第1項。排出側はえーと、たしか第12条でしたよね。これかな?第5項。
(事業者の処理)
第十二条
5 事業者(略)は、その産業廃棄物(略)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第十四条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
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そうだね。なお、条文で「略」とした箇所は中間処理に関する部分で、廃棄物処理法を勉強するときにはとても重要なところなんだけど、今回のテーマには直接は関係しないので略させていただきました。
では、続けてこの罰則は?
罰則かぁ。前述のとおり、無許可は廃棄物処理法では一番重い罪で、不法投棄と並んで罰則第25条第1号で最高刑懲役5年でしたね。これは、まぁ、言ってみれば商売としてやっている人への罰だから重くてもしょうがないとして、排出者は素人なんだし、そうだなぁ、せいぜい最高刑で罰金20万円位でどうでしょうか?
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じゃ、法令集で確認してみてください。
(めんどくさいなぁ。どうせたいしたことないと思うのに・・・・)第12条第5項違反よね。・・・えーっ、見間違いなんじゃないかしら。最初に出てきてる。
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
六 第六条の二第六項、第十二条第五項又は第十二条の二第五項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
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見間違いじゃないよ。無許可業者委託は罰則25条。無許可行為と同じく最高刑懲役5年なんだ。これこそ、建前と言われようと「排出者責任」の原則論だね。
「あなたが頼まなかったら、この違反は起きなかったんですよ。」か。おぉこわ。
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では、考えられる行政処分は?
いつものとおり「許可」の視点と「環境」の視点で検討するんでしたね。まず、「許可」は登場人物、全員が許可業者じゃないので、許可に関する行政処分は「無し」。「環境」も記事では「自社ごみとして処理し不法投棄はない」ということなので、改善命令、措置命令ともに「無し」。ってことね。
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検討の要領も板に付いてきたね。じゃ、もう一つ、検討していただきましょうか。
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出典:2010年12月27日 読売新聞
ケース2 読売新聞切り抜き

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これはもう10年以上も前の事件なので「甲」としているけど、当時は当然会社名で報道されている。
一流企業なだけに、こうやって報道されるだけでネームバリューに傷が付くわね。さて、この違反なんだけど、「無許可業者委託」って見出しにはありますよね。さっきのケース1の事件と同じなんじゃないですか?
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見出しだけじゃなく、記事をよく読んでご覧。受託者のピアエンジニアリングって会社は、許可を持っている会社だよ。それでも無許可になるのかな。
センセ。私をなめてるわね。廃棄物処理業の許可は、品目毎の許可。だから、いくら汚泥の品目で許可を取っていたとしても、それで「ばいじん」は扱えないわ。それに許可権限者、産廃の場合は都道府県知事だけど、これが違ってもそれぞれに許可をとっていないと無許可になるんでしたよね。何回か前にやってますよ。
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それじゃ、違反条項と罰則は?
しつこいわね。同じと言ったら、同じよ。第12条第5項違反で罰則は第25条。最高刑懲役5年でしょ。
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そうかなぁ。普通に使っている文言としては「無許可委託」かもしれないけど、第12条第5項もう一度見てご覧。「第十四条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者」って書いてるでしょ。この受託して不法投棄をやらかしたピアエンジニアリングって会社は、許可を持っている会社だ。だから、この条項ではないんだよ。今回の違反条項は一つ次の第6項。こっちになるんだ。

第十二条
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
この「政令で定める基準」がこちら。
政令
(事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準)
第六条の二 法第十二条第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 産業廃棄物(略)の運搬にあつては、他人の産業廃棄物の運搬を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の運搬がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。

つまり、いくら許可を持っていても、それだけじゃだめ。「事業の範囲」に含まれていなければダメなんだ。
「事業の範囲」ってなんだっけ?
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おいおい、これは基本中の基本。基礎知識で勉強したでしょ。しょうがないなぁ。
許可証を公表している大栄環境の和歌山県の許可証で確認してみよう。
許可証の中頃に「1.事業の範囲」と出てくるでしょ。このように許可証には必ず「事業の範囲」が明示されている。
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図1 許可証中の「事業の範囲」の例

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これを見ればわかると思うけど、「事業の範囲」とは、「産廃の種類」と、その「処理の方法(収集運搬では積替保管の有無)」なんだ。
思い出したわ。業者側は、この「事業の範囲」を逸脱すると「無許可変更」に問われるってことでしたね。でも、「無許可」も「無許可変更」も罰則はどちらも同じ第25条だったわよね。そんなにこだわることもないんじゃないの。
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ところがそうじゃないんだ。受託側の業者は「無許可」も「無許可変更」も罰則はどちらも同じ第25条なんだけど、排出側、すなわち委託側の罰則はこちら。第26条。 第二十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 第六条の二第七項、第七条第十四項、第十二条第六項、第十二条の二第六項、第十四条第十六項又は第十四条の四第十六項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
へぇぇ。一つ下がって26条になるのかぁ。最高刑も2年減って懲役3年ね。
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5年でも3年でもとても重い罰則には違いないけどね。
だから、委託契約書を取り交わすときは、受託者の許可証の写しを付けなければならないってことね。さすがに、許可証のコピーまでもらっておきながら、「相手の業者さんがどんな許可を持っているかは知りませんでした」とは言えないわね。
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さて、今回は委託契約に関して、もう一つ見ていただきたい事件がある。これは新聞記事じゃなく当時、県庁がマスコミに報道発表用として公表した文書で見てもらおうかな。
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出典:2012年6月7日 埼玉県報道発表資料
ケース3 埼玉県報道発表資料

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この事件は当時、廃棄物処理業界では有名な事件だったんだ。これから数ヶ月後には環境省も通知を出している。
私が入社する前の事件ですけど、この事件は先輩から「HMT事件」として聞いているわ。たしか、この下流の利根川では水道の原水として使用していて、これが原因で何十万人もの人が数日間に亘って水道を使えなくなったって事件でしたよね。
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よく知ってるね。一般紙にも掲載された出来事だった。では、改めて、さて、誰がどんな違反をしているかな。
えーと、まず事実関係の整理だけど、排出事業者はD社ね。物はHMTの廃液。受託業者はT工業。処理の方法は「中和」。でも、十分に処理されず利根川下流での水道浄水場で消毒剤の塩素と化学反応を起こしてホルムアルデヒドが出来てしまった。
さて、まず、排出事業者はD社だけど、処理委託は許可業者のT工業に委託した。T工業は「中和処理」したって書いてあるから、おそらくT工業はの「事業の範囲」には、「廃酸・廃アルカリの中和処理」があるんでしょうね。
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そうだね。この資料だけからは確実じゃないけど、もし、T工業が無許可行為をしていたなら、資料にもその旨書くだろうから、おそらく無許可行為はない。
となると、T工業に無許可行為が無いのであれば、ここに委託したD社にも委託に関して違反行為はないってことになるわ。でも、「中和処理」ってあるけど、HMTって中和で処理ができるのかなぁ。
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いいところに気がついたね。ちょっと回り道になるけど、・・・産廃は20種類っていうことは知っていると思うけど、この20種類で液体の産廃は何種類で、それはどんなものでしょうか。
ん~、突然言われても面食らうけど、まず思い浮かぶのは、やっぱり、廃酸、廃アルカリよね。あとは、廃プラスチック類や金属くず、がれき類、木くずは明らかに違う。汚泥は・・でい状のものってことだから液体じゃないわね。動物のふん尿や動植物性残渣も液体ってことはないわね。あっ、あった、あった。廃油は液体よね。アスファルトのように固体の物もあるけど、たいていの廃油は液体だと思うわ。
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正解。産廃20種類で液体は廃酸、廃アルカリ、廃油の3種類だけだね。と言うことは、廃油じゃない液体の産廃は廃酸か廃アルカリってことになる。では、廃酸・廃アルカリの処理の方法は?
「中和」!
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そう答える人がほとんどだと思う。たいていの人は小中学校の理科の時間でリトマス試験紙が赤く変わった。青く変わった。アルカリの水酸化ナトリウムと酸の塩酸を混ぜると中性の塩が出来るって実験を覚えているから、酸・アルカリと言えば、すかさず、「中和」って答える。
でもね。たとえば、ジュースの製造過程で不良品が出来ちゃって、これを処理するとするね。産廃20種の中では何に該当しそうかな。
廃油じゃないんだから、ジュースの不良品は廃酸・廃アルカリ。
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では、ジュースの不良品を中和したら処理は完結するかな?
そうかぁ、「酸アルカリ」と聞くと「中和」と答えたくなるけど、有機性の廃液なんかはペーハー(pH)を7.0にしたところで、なんの処理にもならないってことかぁ。
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そのとおりだね。ところが、この事件ではまさに、その行為をやってしまったみたいなんだ。
排出事業者は「うちが排出するのは廃液だ。廃油じゃなければ廃酸・廃アルカリだ。じゃ、廃酸・廃アルカリの処理業の許可を持っている業者に委託すればいいんだな」と。
そして、受託側の業者も「うちは廃酸・廃アルカリの処理の許可を持っている。だったら、廃酸・廃アルカリを受けてもいいんだな」と考えたってことかぁ。
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事実はもっと複雑でいろんな事情はあったかと思う。資料にも受託者のT工業の主張としては「廃液に高濃度のHMTが含有していることを認識せず」って書いているし。
で、この後に埼玉県では次のように発表した。
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出典:2012年6月7日 朝日新聞
資料1 朝日新聞切り抜き

行政指導はするけど、「法的責任は問えず」って書いてありますね。
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これほど大きな事件となったので、埼玉県庁も相当慎重に検討したと思う。その結果がこれだよね。
なんか、変な感じがする。刑事処分も行政処分も「無し」ってこと。
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さっき言ったように、環境省は事件が一段落したときに通知を出したんだ。これ。
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資料2 2012年9月11日付け 環境省通知

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長い通知で、いろんな注目点はあるんだけど、特に注意する部分だけを紹介しましょう。
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資料3 2012年9月11日付け 環境省通知抜粋

委託契約書に「情報の提供」という法定事項があるから、それを伝えないのは委託基準違反だ、と書いてますね。とすると、「許可を持っているから、あとは任せきり」じゃなくて、処理に影響しそうな情報はちゃんと伝えないとだめだ。それをやっていないなら第12条第6項違反になるよってことね。
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掲載しなかったけど、この通知では、委託した業者がちゃんと処理できているかを、現地調査して確認するのが望ましい、とも記載している。リサちゃんは、処理業者を選ぶときの最大のポイントはなにかな。
ん~、今までは教わったとおり、もっとも重い罰則は「無許可業者委託」だから、なんと言っても「許可を持っている業者を選ぶ」だと思っていた。でも、この事件を見ると許可を持っているというだけではまだ足りないってことになりますね。
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この通知をもう一度見てご覧。面白いことを書いてあるよ。「当該物質を有効に処理できる処理業者を選択する」って書いてある。
あたりまえと言えばあたりまえすぎて思いつかなかったわ。「処理できない業者を選んでどうすんだ」ってことですよね。
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時々、「どういう業者を選んだらいいですか?」という質問を受けるときがあります。その時、私はいつもこう答えています。「処理できる業者を選んでください。」
(^o^)、それって聞きたいことに答えていない模範解答ですね。この事件はこれで終わったの?
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最後にこの記事を見てください。
一時は排出事業者D社は、「刑事処分も行政処分も問えないということなんだから、うちには責任は無いんだ」という主張だった。一方、水道事業者側は、「水道水を何日にも亘って断水させられて大変な被害だ」、ということで約3億円もの損害賠償訴訟を起こそうとしたんだ。
その結果がこの記事です。
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出典:2018年12月27日 読売新聞
資料4 読売新聞切り抜き

3億よりは低い額だけど、6300万円かぁ。大きな金額ですよね。
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行政処分、刑事処分が無くても、最後には民事訴訟があるって教訓ですかね。 じゃ、今回の事件のまとめをしようか。

1.排出事業者側が産業廃棄物多量排出事業者委託する時は「委託基準」に従わなくてはならない。
2.委託基準の一番は「許可業者に委託しろ」「無許可業者に委託してはならない」。
3.無許可業者委託は第12条第5項違反。罰則第25条第6号、最高刑懲役5年。
4.いくら許可を持っていても「事業の範囲」を逸脱しての委託違反となる。第12条第6項違反。
罰則第26条第1号、最高刑懲役3年。
5.いくら許可を持っていても、さらに「事業の範囲」の範疇でも、「処理ができない業者」に委託してはいけない。
6.行政処分、刑事処分が無くても、民事訴訟(損害賠償)となる場合もある。
今回の事件は、排出事業者にとって、とても重要なことを勉強できたと思います。いつも、こういう授業にしてくださいな。センセ。と言うことで、次回につづく。(^-^)/
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(2021年12月)

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