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「建設系廃棄物」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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「違反事例で考える」。なかなか込み入った事件まで取り上げてきていますが、どうですか?難しいですか?
簡単ではないけど、違反条項、罰則、行政処分というふうに順を追うように、分けて考えれば、整理が付きそうになってきました。
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そうですか。では、今回も違反事例を見ていただきましょう。(^o^)
「処理施設保管量」画像

出典:2014年8月18日 循環経済新聞
ケース1 循環経済新聞切り抜き

こんなことを言うと不謹慎ですが、こういう事案は「よくある」「ありがちな」ことですよね。
文章で書けば、このとおりなんでしょうけど、工事現場では一緒に働いている人達って、やっぱり昔ながらの徒弟制度みたいなのがあって、兄貴分と弟分みたいになっていることも多いと思うんですよ。そんな雰囲気の現場だと兄貴分から「おい、これおまえんとこでやっとけよ。」と言われれば、「へい、兄貴。オレんとこでやっときます。」みたいに。
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そうだねぇ。では、この栃木県の会社役員、どんな違反をしているでしょうか?そして、それは廃棄物処理法第何条違反、罰則はどの程度と規定されているでしょうか。さらに、どのような行政処分がなされると思いますか?
記事では「事業活動で生じたコンクリート片約394トン」ってことですから、普通に考えれば、「物」は建設系産廃だってことですね。建設系廃棄物については、先輩から、「特に注意しなさい」と言われているわ。
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いい先輩をもって幸せ者ですね。じゃ、建設系廃棄物の時に注意しなければならないことは?
建設系の廃棄物の排出者に関しては、たしか、第21条の3という条文があるんですよね。
そうそう、この第1項です。
(いつものようにテーマに直接関係しない部分は略しています。)

(建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理に関する例外)
第二十一条の三 土木建築に関する工事(建築物その他の工作物の全部又は一部を解体する工事を含む。以下「建設工事」という。)が数次の請負によつて行われる場合にあつては、当該建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理についてのこの法律(略)の規定の適用については、当該建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者から直接建設工事を請け負つた建設業(建設工事を請け負う営業(その請け負つた建設工事を他の者に請け負わせて営むものを含む。)をいう。以下同じ。)を営む者(以下「元請業者」という。)を事業者とする。
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「処理施設保管量」画像2

図1 建設系廃棄物の排出者は元請

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よくできました。この規定により、通常は事業者(排出者)にかかる規定は、建設工事の場合は、元請業者にかかるってことになります。
したがって、元々の所有者である発注者や実際に解体工事に携わった下請工事業者は、「排出者ではない」となっちゃうのよね。排出者が自分の廃棄物を自分で処理する時は、いわゆる「自ら処理」とか「自社処理」と言われている状態で、処理業の許可は要らないんだけど、建設系の場合、この「自ら処理」に該当するのは「元請が自分で処理する時」になる。だから、元請がその工事から出てきた廃棄物を自分で運んだり、自分で破砕、焼却などをする行為は処理業の許可は不要。
でも、下請は「排出者ではない」訳なので、いくら自分がその解体工事を直接担当していたとしても、出てくる廃棄物は自分の廃棄物ではありませんから、許可が必要、となるのよね。
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はい。だから、建設系の場合は、1.元請に排出事業者責任が出てくる、と言うことと、そこから排出される産廃を下請が処理する時は、2.下請は処理業の許可が必要ってことの2つの点に特に注意が必要ですね。
今回はすらすら進みますね。ちょっと簡単すぎたかな。じゃ、似たような事件だけど、次の記事も見てもらおうかな。
「処理施設保管量」画像3

出典:2020年7月20日 循環経済新聞
ケース2 循環経済新聞切り抜き

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さて、いつものとおり、この事件では誰がどんな違反をして、その違反はどのような違反で、罰則や行政処分はどのようなことが考えられるでしょうか?
この事件もケース1と同じく「物」は、建設系廃棄物よね。と、言うことはまず考えなくてはいけないのは、排出事業者である元請責任よね。
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正解です。その点をふまえてですが、産業廃棄物の排出事業者には廃棄物処理法上大きな「責務」が7つあると第12条で規定されているされています。さぁ、それはなんでしょう?
(事業者の処理)第12条、12条と。
「(事業者の処理)第十二条
事業者は、自らその産業廃棄物・・・・
・・・先生、ちょっと待ってください。第12条は私の持っている最新の廃棄物処理法法令集では68頁もあるのよ。ここから選び出すのは大変です。ホントはわかるんだけど、時間も無いことだし、センセやって。
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しょうがないなぁ。でも、そんなこともあろうかと、大きな見出しを取り出しておきました。
1.処理基準を守ること
2.処理責任者を置くこと
(一定の条件に該当する事業場では)
3.帳簿を備えること
(一定の条件に該当する事業場では)
4.処理計画を策定しそれを報告すること
(一定の条件に該当する事業場では)
5.委託基準を守ること
6.マニフェストを正しく使用しなければならないこと
7.委託処理状況の確認

実はこのことが今回の違反事項を見つけるための大きなヒントなんです。
と、言うと?
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今回の記事の主人公は「建設工事の元請」、と言うことは産業廃棄物の排出者。と言うことは、この7つの義務が元請にはあるってことなんですね。
そうかぁ、じゃ、順番に一つずつやっていけばいいのね。
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まず、「1.処理基準を守ること」これはどうでしょう?
記事には「廃棄物が不正に保管され」とあるわよね。もしかしたら、乱雑に不法投棄まがいの状況で、飛散、流出、地下浸透、ネズミや害虫が出ている状態であったのかも。そうなると「処理基準違反」の可能性も出てきますよね。
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そうですね。さらに、もしかしたら、平成22年改正で追加された第12条第3項の場外保管届出をしていないってことかも知れませんが、この点は記事からは判別できませんね。じゃ、次行きましょう。
「2.処理責任者を置くこと」、「3.帳簿を備えること」、「4.処理計画を策定しそれを報告すること」は、これは「一定の条件に該当する事業場では」なので、この事案でとりあげる要因は無いと思います。
私の記憶では「2.処理責任者を置くこと」と「3.帳簿を備えること」は特別管理産業廃棄物を排出する事業所とか設置許可の必要な処理施設を設置している事業者。「4.処理計画を策定しそれを報告すること」は年間1000トン以上の産廃を排出する多量産廃排出事業者にかかる責務だったはず。
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はい、そうですね。じゃ、いよいよ次ですね。
「5.委託基準を守ること」。今回の最大の違反は、おそらくこれですね。委託契約書を締結していなかったのかな?
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ちなみに、世の中の多くの方は「委託基準違反」と聞くと「委託契約書を締結していなかったんだ」と思うかも知れません。
もちろん、委託契約書も委託基準の一つなのですが、もっと根本的なことがあるんでしたね。
覚えてますよ。それは、「委託するなら許可業者に委託しろ」、言い方を変えれば「無許可業者に委託してはならない」ですね。当然と言えば、当然すぎて忘れがちですが、これ重要ですよね。
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今回はリサちゃん指摘の委託契約書についても、記事には明確に書いていますね。
「許可を有しない下請業者に委託していた」。「書面による委託契約を行わず」のところですね。
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じゃ、次。
「6.マニフェストを正しく使用しなければならないこと」ね。これにについては、記事には記載していないわね。でも、契約書も結んでいない位ですから、おそらく、マニフェストをまともに交付しているとは思えません。
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はい。私もマニフェストだけちゃんとやっているとは思えないのですが、今回は記事の記載もないので、マニフェスト違反事案については、また別の機会に詳しく見ていくことにしましょう。さて、次は。
「7.委託処理状況の確認」よね。これも、まともにやっているとは思えませんが、記事には明示していないわ。と言うことで、記事から確実にわかる違反は「5.委託基準を守ること」。かな。
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「処理施設保管量」画像4

図2 排出事業者の責務(委託基準等)

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はい、よく出来ました。では、次のステップです。この委託基準違反は第何条第何項でしょうか?
この違反は「排出事業者」としての違反ですから「第12条」であることは確実よね。
前回の事件でも確認しましたが、まず、「無許可業者に委託してはならない」は第5項です。
第12条第5項
5 事業者(略)は、その産業廃棄物(略)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第十四条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
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正解。じゃ、ついでに、罰則も確認しておきましょう。
これも前回も見ましたが、
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
六 第六条の二第六項、第十二条第五項又は第十二条の二第五項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者

と言うことで、無許可業者委託は最高刑懲役5年です。
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では、もう一つの違反である「書面による委託契約を行わず」の方は、どうですか?
これはたしか第6項違反よね。
第12条第6項
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。

この法律第12条第6項を受けて政令第6条の2第1項第4号では
(事業者の産業廃棄物の運搬、処分等の委託の基準)
第六条の二 法第十二条第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
四 委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。

と規定しています。
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こちらの罰則は?
これですね。
第二十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第六条の二第七項、第七条第十四項、第十二条第六項、第十二条の二第六項、第十四条第十六項又は第十四条の四第十六項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者

と言うことで、こちらは最高刑懲役3年です。
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では、この違反について、行政処分はどのようなものが考えられるでしょうか?
このシリーズ1回目からやってきたけど、廃棄物処理法の行政処分は「許可」に関すること、と「環境」に関することの2つで検討してみるとわかりやすかったんですよね。
今回の違反は、建設系産廃で元請として、すなわち「排出事業者」としての違反ですよね。
排出事業者の違反ですから、本来的には業許可に関する行政処分は無い(「無許可業者の許可は取り消せない」)はずですよね。
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そうだね。始めに見たケース1の事件では、おそらくこの会社は廃棄物処理業の許可は持っていなかったんじゃないかな。だから、業許可取消とか事業停止といった行政処分の話は載っていませんね。
でも、ケース2の「排出事業者」は「運悪く」と言いますか、許可を持っている人物だったんですね。
そのため、記事によると「60日間の事業停止」を受けています。
「運悪く」と書いちゃいましたけど、見方を変えれば「あなた許可を取っているんでしょ。いわば、廃棄物処理法のプロだよね。なにがよくて、なにが悪いって知ってたはずだよね。処分を受けても当然だよね。」ってことでしょう。
行政処分のもう一つの視点。「環境に関する」改善命令、措置命令については、どちらの事件も記事には記載していないですね。環境被害は出ていなかったか、軽微な事案だったのかな?
でも、もし生活環境保全上の支障が出ているなら、措置命令の可能性有り。ケース2については、「不正に保管」と書いてあるし、行為者は許可業者なので「基準違反」として改善命令もあり得るってことかな。
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はい、よくできたと思います。では、今回の違反事例をまとめてみましょう。
1.建設系廃棄物の排出事業者は工事の元請業者。
2.下請は廃棄物を扱うなら、廃棄物処理業の許可が必要。
3.許可を持たない下請に処理を委託した。無許可業者委託。
4.これは第12条第5項違反で罰則は第25条。最高刑懲役5年の違反。
5.委託契約書も締結していなかった。(もっとも、無許可業者と委託契約書を締結しても意味はないですけどね。)
6.これは第12条第6項違反で罰則は第26条。最高刑懲役3年の違反。
7.行政処分は事業停止60日。
8.この事件では、改善命令、措置命令は「無し」と推察されるが、他のケースでは「あり得る」。
建設系は特に注意が必要ですね。じゃまたね。
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(2022年01月)

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