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「こだわり」を環境方針に詰めろ~ISO14001:2015年版「5.2環境方針」を読む

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

ISO14001:2015年版の箇条5.2「環境方針」は、環境方針に「汚染の予防に関するコミットメント」だけではなく、それ以外の「環境保護に対するコミットメント」も含めることを要求しています。

本連載の第7回目の記事で解説したように、規格の注記において、対象となる環境保護には、
①持続可能な資源の利用、
②気候変動の緩和及び気候変動への適応、
③生物多様性及び生態系の保護を含み得ることが明示されています。

したがって、自社のEMSを2015年版へ移行させる際には、環境方針にこれら事項を含めるべきか否かを検討することが求められていると言えるでしょう。

上記①~③について、ほとんどの企業では、EMS活動の一環として、廃棄物・3R対策(上記①)や、省エネなどの地球温暖化対策(上記②)には既に取り組んでいるはずです。移行前から環境方針にこれら事項を含めている企業も少なくないでしょう。そうであれば、現在の方針と取り組みをそのまま継続すれば問題ありません。

しかし、上記③については、それを環境方針に含めず、取組みも行っていない企業が多いと思います。
この点については、今回の移行を契機に、新規に生物多様性保全に関する活動を探してみるのもいいでしょう。

例えば、工場内の緑地について、地元市町村と協力しながら在来種の保護活動に活用することなどが考えられます。国内における生物多様性の保全という観点から見れば、特に都市部に立地する工場に求められる姿であると考えられます(もっとも、それを支える自治体等の姿勢が問われることになりますが)。

あるいは、現在のEMS活動を「生物多様性」の視点でとらえ直すことにより、実は既に生物多様性の活動を行っていることを見出すこともできるかもしれません。

例えば、発注する印刷物についてFSC認証を求める企業が増えています。FSCのロゴマーク付き製品とは、適切に管理された森林に由来するもののことであり、生物多様性に配慮した製品であると言えます。
すなわち、こうした企業は、知らず知らずのうちに(?)、生物多様性に配慮した事業活動を営んでいるということです。こうした活動を社外へPRし、社内的にも明確に位置づけることが必要と判断すれば、環境方針に生物多様性の保全を加えるべきでしょう。

以上、今回の2015年版において追加された事項を自社の環境方針にどのように組み込むかということを解説してきました。

2015年版移行における環境方針の検討の際には、これと同時に、もう一つ、気にしていただきたい点があります。それは、EMSに対する自社の“こだわり”が何かを考える機会にもしてほしいということです。

船舶も所有するある物流関係の企業で、2015年版への移行を議論していたときのことです。この企業では、EMSスタート時から「汚染の予防」の文言が環境方針の中にありました。

今回の改正をきっかけに、「汚染の予防」の文言を外し、「環境保護」の文言を加える案が出たとき、部門長の一人が激しく反対しました。
「船舶等からの油流出事故を根絶し、海の環境をまもりながら持続的な事業を行うのが当社の使命なのだから、『汚染の予防』の文言はあえて残していくべき」と言うことでした。
この部門長の意見は、社長などの賛同を得て、採用されることになりました。

このように、自社がこだわるべき活動テーマが、どの企業にも必ずあるはずです。今回の移行作業では、それを再確認する場として活用すべきだと私は思っています。

(2016年05月)

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