生鮮野菜を取り扱う物流会社に行ってきたときのことです。
「重要な環境法は何ですか?」と質問すると、すかさず、「もちろん、フロン排出抑制法です!」と答えていました。
いくつもの県に大きな倉庫を所有し、様々な冷凍冷蔵機器を設置していたからです。本法では、フロン類を内蔵する冷凍冷蔵機器の点検義務などがあります。
対象機器の点検記録簿などを確認すると、しっかり法順守がなされていました。
本法は2019年に改正され、2020年4月から改正法が施行されます(改正フロン排出抑制法について詳しくは、拙稿
「改正フロン排出抑制法が2020年4月施行!~対象機器の管理者は何を準備する?」
参照)。
「改正法への準備はできていますか?」
「準備しようと思っていましたが、細かなルールが定まっていないようなので、特に何もしていません。」
責任者の方はこのように答えていましたが、実は、私が訪問した時点で、すでに政省令や告示の改正も行われており、改正法の実施に必要なルールは整備されていました。
せっかく法改正に気づいていたにもかかわらず、その対応が事実上放置されていたのです。
こうした例は、企業の実務ではよく見られることです。しかし、環境法は、たいへん法改正の激しい分野であり、改正を見落として法順守が図れない企業が多いので、このようなことがないようにしたいものです。
次の図表のように、法令が制定・改正される際、必ず「公布(こうふ)」と「施行(しこう/せこう)」のステップを踏むので、これらの用語への理解とその段階ごとの対応に気をつける必要があります。
公布から施行までのスケジュール
公布/施行 | 例(改正フロン排出抑制法施行までの流れ) |
---|---|
「公布」⇒ 成立した法令を一般に周知させるために、国民が知ることのできる状態に置くこと(官報に掲載)。 |
■2019年2月12日 環境省・経済産業省の審議会が「フロン類の廃棄時回収率向上に向けた対策の方向性について」をとりまとめ、法改正の方向性が打ち出される。 ■2019年3月19日 改正法案、閣議決定 ■2019年5月29日 改正法案、国会成立 ■2019年6月5日 公布 ・「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律の一部を改正する法律」(改正フロン排出抑制法、2019年法律第25号)公布 ■2019年7月16日~同年8月16日、「改正フロン排出抑制法の施行等に向けて整備すべき関係法令改正案に対する意見募集(パブリックコメント)」を実施 ■2019年10月4日 ・改正フロン排出抑制法の施行日を2020年4月1日に定める政令(2019年政令第119号)が公布 ・「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律施行令の一部を改正する政令」(2019年政令第120号)など、関連政省令、告示が公布 |
「施行」⇒ 実際に法令の効力が発動されること。 |
■2020年4月1日施行 |
そもそも法律は国会で成立しますが、国会で成立したからといって、成立した瞬間にその法律が社会に適用されるわけではありません。
それが「公布」され、「施行」される必要があります。
「公布」とは、成立した法令を一般に周知させるために、国民が知ることのできる状態に置くことをいいます。具体的には、官報に掲載することにより、その法令は公布されたことになります。
法律の場合、国会で法律成立後30日以内に公布することがルール化されているようですが、筆者の感覚では、成立後、数日以内には官報に掲載されているように思います。
一方、「施行」とは、実際に法令の効力が発動されることをいいます。公布された法律や政令などを読むと、その最後に「附則」があります。その附則に施行日が定められているのが一般的です。
このように、法令は公布され、施行され、初めて社会に適用されることになります。
そこで、個々の企業では、ある法令について公布の情報をキャッチしたときには、必ず施行日を確認し、それまでに対応するためのスケジュールを立てて計画的に取り組むことが重要となります。
以上の流れをわかりやすく理解するために、上記に取り上げた改正フロン排出抑制法の実際の動きに沿って説明していきます。
まず、大きな法改正が行われるときは、国の審議会でその内容が検討され、報告がまとめられることが一般的です。
フロン排出抑制法の見直しについても環境省と経済産業省の審議会が合同で検討を行い、2019年2月12日には「フロン類の廃棄時回収率向上に向けた対策の方向性について」がとりまとめられ、法改正の方向性が打ち出されていました。
そして、改正フロン排出抑制法案そのものは、2019年3月19日に改正法案が閣議決定され、同日、国会に提出され、法案の審議がスタートします。
その後、2019年5月29日、国会で改正法案が成立し、6月5日に官報で公布されます。
冒頭の企業担当者は、この時点で改正法の存在を知りました。
この段階では、改正法案を読んでも詳細なルールはわかりません。まだ、決まっていないのです。そこで、企業担当者は調べるのをやめてしまったわけです。
しかし、すでにこのとき、改正法には1年以内に施行されることが明記されており、それまでに詳細なルールが決まるので、情報をキャッチするためにアンテナを張り続けるべきでした。
2019年10月4日、改正法の施行日を2020年4月1日に決める政令の公布とともに、本法施行令や施行規則、「第一種特定製品の管理者の判断の基準となるべき事項」という告示などの改正が一斉に公布されました。
例えば、上記告示改正によって、対象機器の点検記録の保存義務の延長期間が3年と決められるなど、2020年4月施行のための具体的な規制内容が定められたのです。
この頃には、行政が様々なパンフレットを発表し、また改正法の説明会の案内などを出すようになりましたので、多くの企業では、2020年4月からの施行に向けた対応方法を検討し、社内への周知を開始したように感じます。
なお、2019年7月16日から1カ月間、「改正フロン排出抑制法の施行等に向けて整備すべき関係法令改正案に対する意見募集(パブリックコメント)」が行われ、10月公布の具体的な規制概要が公表されていました。
日本の場合、その善し悪しは置いておきますが、パブリックコメントで規制内容が変わることはほとんどありません。
そこで、いくつかの企業の環境部門では、この時点で内々に対応方法を検討していました。
以上見てきたように、改正法への対応を検討・実施する際には、法改正の流れをつかんだスケジュールを組むとかなり楽になり、対応への抜け漏れも少なくなるはずです。
環境分野において法改正はこの先も限りなくあります。
十分注意し、社内の仕組みを整備して取り組んでください。
(2020年02月)