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下取り回収⑩

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)<

 前号までは、下取り通知の対象となる「(製造または販売)事業者による自ら運搬とみなされる条件」の詳細を解説してきました。
 今回は、下取り回収された廃棄物の排出事業者は誰になるかを考察します。すなわち、「元々の製品ユーザー」と「下取り回収をした事業者」のいずれが排出事業者となるのかという問題です。

 この問いに関する答えは、下記の「昭和56年3月25日付環産12号通知」で触れられています。

昭和56年3月25日付環産12号通知

警察庁保安部公害課長からの質問(昭和56年2月17日付警察庁丁公害発16号)

照会事項
 化学薬品の販売者甲は、化学薬品を使用者乙に販売するに際して、使用後の廃液は再び甲において回収することとした上で販売価格は当該薬品の価額に当該廃液の処理費用相当額を加えたものとする旨の販売契約を結んでいる。
 この場合、甲は廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条第1項の許可を受けることが必要となるか。

回答(昭和56年3月25日付環産12号)
 昭和56年2月27日付警察庁丁公害発第16号をもって照会のあった標記について、左記のとおり回答する。

 甲が販売契約によって自らの販売した化学薬品の使用後の廃液のみを乙より回収するときは、甲の行為は排出事業者による産業廃棄物の処理として廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条第1項に規定する産業廃棄物処理業の許可を要しない。

 「薬品会社が自ら使用後の廃液を回収している」ことが大前提となりますが、下取り回収通知の対象条件にあてはまる場合は、薬品会社を排出事業者とみなされます。そのため、下取り回収の際の収集運搬、回収後の処分やリサイクルは、薬品会社の自ら処理に該当することとなり、薬品会社には産業廃棄物処理業の許可不要、という解釈になります。  昭和56年当時は産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度が存在しませんでしたが、現在でも下取り回収通知の範疇となる産業廃棄物の運搬については、製造・販売事業者が自らの産業廃棄物を運搬しているとみなされますので、薬品会社は産業廃棄物管理票の交付不要となります。ただし、顧客の所から廃棄物を持ち帰る間は、運搬車両に「産業廃棄物収集運搬車」という表示をしなければなりません。

 なお、念のため、警察庁の問いの中には「販売価格は当該薬品の価額に当該廃液の処理費用相当額を加えたものとする旨の販売契約を結んでいる。」という箇所がありますが、(旧)厚生省の回答では、それが合法か否かについて直接的には言及していませんので、現在、このような形態で最初から販売価格に処理費用相当額を盛り込むことが合法かと聞かれると、「ケースバイケース」としか言えません。ただし、行政によっては、廃棄物処理法の規定を潜脱する脱法行為と判断するところがありそうです。  その理由は、販売価格に上乗せした処理費用相当額の多寡が問題になるからです。「無償回収」が下取り通知の対象となる前提条件の一つですので、処理費用相当額と等しい、あるいはそれ以上の手数料を上乗せしている場合は、廃棄物処理法の潜脱行為とみなされる可能性が非常に高くなります。また、上乗せする金額が処理費用相当額よりも低ければ問題ないとも言い切れません。常識的には、限りなく無償に近い低廉な金額の上乗せでないと、下取り通知の対象にはならないと考えるべきかと思います。

(2019年06月)

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