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保存と保管の違いについて

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

産業廃棄物の「保管」基準という言葉はよく聞きますが、産業廃棄物の「保存」基準とは言いません。一方、「排出事業者には、委託契約書その他の『保存』義務がある」とよく解説されますが、「委託契約書の『保管』義務がある」とは言いません。

「保存」と「保管」は、漢字にするとたった一字の違いでしかありませんので、我々の日常生活においては、その違いを意識することはほとんどありません。しかしながら、廃棄物処理法の世界では、「保存」と「保管」は明確に区別して使用されています。今回は、「保存」と「保管」の違いを取り上げ、廃棄物処理法では何を重視しているかを解説いたします。

廃棄物処理法の条文で、「保管」と「保存」がそれぞれ使われている回数を数えてみると、
「保管」が59回
「保存」が16回
と、圧倒的に「保管」の使用回数の方が多くなっています(2019年9月時点)。
※本来なら、「廃棄物処理法施行令」と「廃棄物処理法施行規則」での使用回数もカウントしたいところですが、あまりにも数が多くなってしまうため、法律の条文での使用回数のみに止めておきます。

「保存」の方が使用回数が少ないため、「保存」が使われている対象を先に見ることにします。

廃棄物処理法で「保存」が使われている対象は、
・産業廃棄物処理委託契約書
・産業廃棄物管理票
・電子マニフェストに関する記録
・帳簿
・処理困難通知
の5種類となっています。

そのため、「保存と保管のどちらが正しかったかな?」と悩むことがあれば、上記の5種類以外の場合は、すべて「保管」を使っておけば正解ということになります。
それぞれの用語を使う対象の違いはわかりましたが、「保管」と「保存」が具体的に意味する内容がまだよくわかりません。残念なことに、廃棄物処理法では、「保管」と「保存」に関して定義をしていませんので、日本語本来の意味からそれを探っていくことにします。

広辞苑によると、「保存」とは、
「そのままの状態を保って失わないこと。現状のままに維持すること。」とあります。

同じく、「保管」は、
「大切なものを、こわしたりなくしたりしないように保存すること。」とあります。

廃棄物の「保管」であって、「保存」と言わないのも納得です。

廃棄物の「保存」というと、「そのままの状態を保つ」だけですので、「屋外の廃棄物の"保存"置き場から、風で廃棄物が飛散流出しても仕方がない」というニュアンスになってしまいます。

しかし、それでは廃棄物処理法の本来の目的である「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図る」ことがかなわなくなりますので、「大切なもの(!?)を、こわしたりなくしたりしないように保存」、すなわち「保管」基準が課されているわけですね。

もちろん、委託契約書やマニフェストも「なくなったりしないように管理」しないといけませんが、こうした書類や記録の場合、一般的には「自然消滅」したり、「飛散流出」したりすることはありませんので、「現状のままに維持する=保存」の対象になっています。

委託契約書やマニフェストが自然消滅(?)する組織の場合は、「『保存』よりもさらに徹底した『保管』をするのだ!」という意識づけをした方が良いかもしれません。

(2019年09月)

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