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下取り回収①

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行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 今号から、「下取り回収」に関する通知の解説を始めたいと思います。通知自体は非常に短文ですが、実務的にデリケートな面を多々含んでいる情報ですので、複数回に分けた連載形式で解説いたします。

「下取り回収」という用語自体は多くの方が既にご存知かと思います。この内容に関する疑義解釈の初出は、昭和54年に旧厚生省から発出された疑義解釈になります。

昭和54年11月26日付環整128号、環産42号

問29 いわゆる下取り行為には収集運搬業の許可が必要か。
答 新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、収集運搬業の許可は不要である。

 その後、地方分権一括法の制定に伴い、平成12年に旧厚生省から若干の修正が加えられ、公的には以下の内容に改められました。

平成12年9月29日付 衛産79号
新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要であること。

 昭和54年通知と平成12年通知の違いは、解釈の対象が「廃棄物全般」か「産業廃棄物のみ」かの違いだけです。そうなった理由は、今号のテーマから少し外れますのでここでは触れませんが、関心を持たれた方は、私と長岡文明先生の共著「廃棄物処理法の重要通知と法令対応」で解説していますので、そちらをご参照ください。本題に戻りますが、以降「下取り」という用語を用いる場合は、平成12年通知の「産業廃棄物のみ」を対象とした疑義解釈に沿った説明となります。

 さて、広辞苑によると、「下取り」とは「新製品の代金の一部に充てるため、売主が買主の所有する旧製品を買い上げること。」とありますので、もっとも正確、言い換えるともっとも狭義な「下取り」の定義は、「旧製品の買い上げ」と考えることが可能です。このような買い上げを満たす取引は、「自動車」や「換価価値がまだ残っている製品」の売買しかあてはまらないように思われます。
 しかし、通知では、下取りを「使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する」ことと定義していますので、辞書的な狭義の定義よりも、かなり広い定義をしていることになります。
 個人的には、この「下取り」に関する定義の広さが、通知に対する誤解や曲解の主因となっていると考えています。
 すなわち、辞書的な意味であり、一般的な国民がイメージする狭義の「下取り」は、廃棄物ではなく、「中古品として換価価値のある商品を代金の一部に充てる下取り」ですが、通知の「下取り」は、「無償」が条件であるように、「製品販売者による費用負担」が大前提となっているからです。
 近年の日本においては、製品の品質や外見の綺麗さが非常に重視され、少しでも傷がついた製品は市場で売ることができなくなるケースがほとんどです。そのため、現在下取りが行われているケースのほとんどは、「代金への充当」ではなく、「販売者側の(苦肉の)販売促進策」というのが実態ではないでしょうか?

 このように通知を少し細かく分析するだけで、過去に発出された通知の内容と現在の取引実態には乖離があることを、おわかりいただけたと思います。その乖離を前提として、できるだけ安全に通知の内容を実現する方法を、次号からご紹介していきます。

(2018年09月)

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