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テナント(賃借人)が発生させた廃棄物について②(法律上の規定の整理)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 前号の最後に、「次は委任状の可否について解説します」と書きましたが、産業廃棄物管理票の交付者に関する法律の規定を整理しておかないとテナント廃棄物に関する正確な議論ができない、と考えましたので、委任状の可否については機会を改めて考察させていただきます。

 前号では、平成23年3月17日付通知に基づき、「オフィスビルの各テナントが排出した廃棄物の排出事業者は各テナント」となるが、「産業廃棄物管理票の交付者はビル管理者でも可」という同通知の内容を解説するとともに、同通知をそのまま実践すると、各テナントを排出事業者として位置づけているにもかかわらず、ビル管理者が産業廃棄物管理票の交付者としていきなり登場するという、法的な矛盾が生じることを指摘いたしました。

平成23年3月17日付環廃産発第110317001号通知

 管理票の交付については、ビルの管理者等が当該ビルの賃借人の産業廃棄物の集荷場所を提供する場合のように、産業廃棄物を運搬受託者に引き渡すまでの集荷場所を事業者に提供しているという実態がある場合であって、当該産業廃棄物が適正に回収・処理されるシステムが確立している場合には、事業者の依頼を受けて、当該集荷場所の提供者が自らの名義において管理票の交付等の事務を行っても差し支えないこと。
 なお、この場合においても、処理責任は個々の事業者にあり、産業廃棄物の処理に係る委託契約は、(排出)事業者の名義において別途行わなければならないこと。

 産業廃棄物管理票の交付義務者に関する法律の規定は以下のとおりです。

廃棄物処理法第12条の3 第1項
 その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業者(中間処理業者を含む。)は、その産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票を交付しなければならない。

廃棄物処理法で産業廃棄物管理票交付者が誰かを規定する条文は、この「第12条の3」しかありません。そのため、排出事業者以外の者が排出事業者に成り代わって、自己の名義(産業廃棄物管理票交付者として)で産業廃棄物管理票を交付することを認める例外規定が無い以上、産業廃棄物管理票交付者になり得る者は、排出事業者しかいないことになります。
 平成23年3月17日付通知(通知としての初出はもっと以前に遡りますが)では、排出事業者として「各テナント」を指名したにもかかわらず、「ビル管理者」を産業廃棄物管理票の交付可能な関係者に位置づけていますので、本来なら法律改正が必要な「法律の例外規定の創設」を、通知という「行政機関内の解釈基準」で既成事実化させた状態です。法治国家の理念からすると、「行政機関内の解釈基準」で「法律の定めとは違う方法でも差し支えない」と言い切ってしまうことは、法律を制定した国会の権能を侵す越権行為とも言えます。

 ここまで読んで「現状で、排出事業者として法律違反をしているのではないか?」という不安に駆られた方も多いと思います。ここから先は現実的な話をさせていただきますので、ご安心ください。

 現状では、通知の内容が一応通説であり、合法な手段として広く是認されていますので、通知で示された条件下で、ビル管理者等が自社の名義で産業廃棄物管理票を交付したとしても、行政・警察から断罪されることはないと思います。
 ただし、繰り返しになりますが、矛盾は矛盾ですので、一度この矛盾状態に気づいてしまった人は、その矛盾が解消されない限り、「このままで良いのだろうか」という不安な気持ちを拭い去れないこととなります。私見ではありますが、その矛盾を解決する手段が一つあると考えていますので、この連載の最後に詳述させていただきます。

(2021年12月)

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