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テナント(賃借人)が発生させた廃棄物について⑤(現実的な改革案)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 テナントが発生させた廃棄物の処理方法に関する連載の第5回目となります。
 今回は、テナント廃棄物の法的に正しい処理方法について、現実的、かつ最終的(?)な改革案を提案させていただきます。
 改革案をご紹介する前に、今回の連載の出発点である、平成23年3月17日付環廃産発第110317001号通知に遡ります。

平成23年3月17日付環廃産発第110317001号(要約)

 管理票の交付については、ビルの管理者等が当該ビルの賃借人の産業廃棄物の集荷場所を提供する場合のように、産業廃棄物を運搬受託者に引き渡すまでの集荷場所を事業者に提供しているという実態がある場合であって、当該産業廃棄物が適正に回収・処理されるシステムが確立している場合には、事業者の依頼を受けて、当該集荷場所の提供者が自らの名義において管理票の交付等の事務を行っても差し支えないこと。
 なお、この場合においても、処理責任は個々の事業者にあり、産業廃棄物の処理に係る委託契約は、(排出)事業者の名義において別途行わなければならないこと。

 この通知の問題点としては、連載第1回の記事で、「産業廃棄物管理票交付者(ビル管理会社)」と「排出事業者(各テナント)」が異なることとなるため、法的な整合性がとれていない点を指摘いたしました。
 通知は国会が制定した法律ではなく、行政庁がその組織内で採用する解釈基準を示した文書でしかありませんので、法律と通知に齟齬が生じた場合、当然、国会が制定した法律が優先することになります。
 そのため、法律と通知の間の齟齬を解消しようとする場合、「法律を通知に沿って改正する」か、「通知を法律に準拠した内容に改正する」かの二者択一となります。
 言うまでもなく、法律を改正するためには、再度国会を召集し、改めて法律の改正案を審議し、可決するという膨大な労力と手続きが必要となります。しかし、通知を改正する場合は、担当官庁の独断のみで今すぐ実施できます。
 ここまで読み進めた方はお気づきになったと思いますが、筆者の考える現実的、かつ最終的な改革案とは「平成23年3月17日付環廃産発第110317001号通知を、廃棄物処理法と齟齬を生じさせないように改定する」ことです。環境省が通知の内容を改定しさえすれば、テナント廃棄物の法的な問題は一夜にして解決します。
 では、通知のどこを正すべきか?
 改定すべき部分は、先述した「産業廃棄物管理票交付者(ビル管理会社)」と「排出事業者(各テナント)」が別々に存在するという、法的な整合性がとれていない点です。廃棄物処理法に沿ってこの問題を解決するためには、「排出事業者」と「産業廃棄物管理票交付者」を一致させる必要があり、論理的にはその方法は3つしかありません。
1. 「産業廃棄物管理票交付者」と「排出事業者」として、「ビル管理会社」と「各テナント」以外の「第三者」を指定する
2. 「産業廃棄物管理票交付者」と「排出事業者」を、「各テナント」とする
3. 「産業廃棄物管理票交付者」と「排出事業者」を、「ビル管理会社」とする
「1」については、単に手段として提示しただけであり、現実性に乏しく、そのように定める意義もありませんので却下。
「2」については、環境省が「本来の排出事業者はこうあるべき」と想定しているあり方だと思われます。平成23年3月17日付通知の内容は、その基本原則を少しだけ緩めた例外を定めたものと言えます。しかし、ここまで述べてきたように、現実の実務においては、このとおりに行うことが非常に困難であるため、「テナントだけが排出事業者で、テナントしか産業廃棄物管理票を交付してはいけない」という通知になった場合、現在の「平成23年3月17日通知」の改悪でしかありませんので、これも採用できません。
 残りは「3」の「ビル管理会社を排出事業者とみなす」方法ですが、これが一番合理的、かつ支障が少ない手段と考えています。
 次回、この「ビル管理会社を排出事業者とみなす」方法の詳細を考察します。

(2022年3月)

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