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「コロナで復習、感染性廃棄物の不思議を考える」前編

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

先号までの一年間は、「違反事例で考える」ってことでやってきた訳ですが、今回のシリーズはなんでしょうか?
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はい、今回からしばらくの間は「新聞を斜めに読んでみよう」ということでやってみようかと思います。
はっはぁ、「違反」だけだとネタ切れなんで、範囲を広くして誤魔化そうって算段ですね。
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ギク(-o-;)気づかれてしまったか。でも、前回の六価クロム事案まで、去年一年間で取り上げた違反と行政処分は数えてみたら40位あったからねぇ。一般的な違反はほとんど取り上げたと思うよ。
えーと。不法投棄とその罰則に、行政処分としての措置命令。無許可営業に名義貸し。関連して再委託違反にブローカー行為。この人達に委託していた排出者側の違反として、委託基準違反。それも契約せず、品目間違い。一廃と産廃と特管産廃の間違い。保管基準、これも排出事業者の保管基準と積替保管の場所での処理基準違反。飛散、流出といった環境要素の処理基準違反。車両表示や保管場所での表示違反。これに伴う改善命令。建設系廃棄物における発注者、元請、下請の関係。場外保管。マニフェスト関係では「交付せず」、「携帯せず」、「虚偽」、返却日数。ほんとだ。40は大げさかも知れないけど、相当の違反事例を見てきたんですね。これじゃ、ネタ切れもしょうがないかもね。
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許していただいたところで最初の「新聞を斜めに読んでみよう」。
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出典:2022年3月7日 循環経済新聞

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この記事は今年の3月の循環経済新聞、まぁ、業界紙というか専門誌というか、ですので相当マニアックな記事です。今回のテーマに関係しない箇所は大人の事情で白抜きにしています。
コロナも既に足かけ3年の長期戦に入りましたね。
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はい、まだまだ本業で格闘している方も多いと思いましたので、お隣、中国の記事にしました。さて、ようやく本論ですが、リサさんはコロナ患者さんから排出される廃棄物はどういう分類、処理ルートになるか知っているかな?
そりゃ、考えるまでも無く感染性廃棄物でしょ。
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ブッブー。
えぇー、違うの?それってどういうことですかぁ?
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まずは、2年前に環境省が作成したリーフレットを見てもらおうか。環境省はいろんなコロナ関係のリーフレットを作っているんですが、これは宿泊療養施設向けのものです。
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出典:環境省 "宿泊療養施設の廃棄物を取り扱うみなさまへ"
https://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/infection/leaflet3.pdf,参照2020-05-20

このどこに注目すればいいですか?
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まずは、赤く囲ってあるところかな。
どれどれ。「宿泊療養施設から排出される廃棄物は、廃棄物処理法上、感染性廃棄物ではない廃棄物として処理できますが、廃棄物を扱う作業員の感染防止のための対策を確実に行う必要があります。」
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あわせて一番下の部分も読んでみて。
「宿泊療養施設から排出される廃棄物を廃棄物処理法上の感染性廃棄物として処理することにより、感染性廃棄物を扱う処理施設において、廃棄物の処理が集中・停滞するおそれがあることに十分御配慮ください。」。
えぇー、何言ってるか訳わかんない。感染性廃棄物として扱えと言っているのか、別ルートで処理しろっているのか?どっちなんですか?
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はい、まさにこの2つの文章に、法律の規定と科学的なリスクへの対応との兼ね合いの難しさが出ていると思うね。環境省の担当者の苦悩が滲み出ている。
解説してください。
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まず医療や廃棄物処理の専門家でなくともわかるのは、コロナの感染者から出てくる廃棄物のリスクは、病院からであろうと、宿泊療養施設からであろうと、自宅からであろうと同じだろうということ。
そのとおり。だから、どこから出ようと、同じ扱いをするのが当然だと思う。
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ところが、廃棄物処理法の規定では、そうはなっていない。廃棄物処理法で規定する「感染性廃棄物」というのは、排出場所を病院等10の施設に限定している。
近くに廃棄物処理法法令集がある方は、政令第1条第8号を見てください。
どれどれ。「八 別表第一の四の項の中欄に掲げる施設において生じた同項の下欄に掲げる廃棄物(国内において生じたものに限る。以下「感染性一般廃棄物」という。)」ここで「感染性一般廃棄物」を定義したんですね。
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同じく第2条の4第4号では「四 感染性産業廃棄物(別表第一の四の項の下欄に掲げる廃棄物(法第二条第四項第二号に掲げる廃棄物であるものに限る。)及び別表第二の下欄に掲げる廃棄物(国内において生じたものにあつては、同表の上欄に掲げる施設において生じたものに限る。)をいう。以下同じ。)」と規定している。
へぇー、感染性廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物で規定の仕方が違うんですね。
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まぁ、その点は非常にマニアックな要因があるので別の機会に廻そう。いずれにしても、具体的には本文で規定はせずに、「別表第一の四」に任せている。この別表を見ると次の5つの施設が列挙されている。
政令
別表第一の四
イ 病院
ロ 診療所
ハ 衛生検査所
ニ 介護老人保健施設
ホ 介護医療院
でも、この表の最後に「 ヘ イからホまでに掲げるもののほか、人が感染し、又は感染するおそれのある病原体(以下この項において「感染性病原体」という。)を取り扱う施設であつて、環境省令で定めるもの」ってあるわ。
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そうだねぇ。だから、今度は省令を見なくちゃいけない。これは省令第1条第7項で次の施設を掲げている。
省令
一 助産所
二 獣医療法に規定する診療施設
三 国又は地方公共団体の試験研究機関
 (医学、歯学、薬学及び獣医学に係るものに限る。)
四 大学及びその附属試験研究機関
 (医学、歯学、薬学及び獣医学に係るものに限る。)
五 試験研究を行う研究所
 (医学、歯学、薬学及び獣医学に係るものに限り、前二号に該当するものを除く。)
政令で5つ、省令で5つ、合わせて10施設ってことね。
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そうだねぇ。で、折角別表を見ているので、その別表の最後を読んでごらん。
「 感染性廃棄物(感染性病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物をいう。)」。ここでようやく感染性廃棄物を性状的に定義しているんだぁ。
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と言うことで、廃棄物処理法上「感染性廃棄物」と言うのは、病院はじめ10の施設から排出される感染性のある廃棄物であることがわかる。
と言うことは、病院や診療所から排出される場合は感染性廃棄物になるけど、自宅やホテルから排出された場合は、それがいくら感染者から出た物であっても、「感染性廃棄物」にはならないってことね。
なんか、科学的に見ると理不尽だなぁ。どうしてこんな規定にしてるのかなぁ。
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これは個人的な推察なんだけど、「特別管理」廃棄物というのは、感染性廃棄物に限らず、なにも「毒性がある」という点だけで規定している訳じゃ無い。毒性もその1つとは思うけど、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「排出量」「他法令での規制」こういったいくつかの要素を総合的に勘案して規定していると思うんだ。だから、産業廃棄物としては特別管理だけど、一般廃棄物としては特別管理にはしていない物もあるんだ。
たとえば?
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「燃焼性の廃油」なんかはそのうちの1つだね。引火点70度未満の廃油は事業所から排出されれば特別管理産業廃棄物になるけど、一般廃棄物では「燃焼性の廃油」は特別管理にはしていない。だから、家庭生活から一夏おいた変質灯油が排出されても、それは特別管理一般廃棄物にはならず普通の一般廃棄物なんだ。これはおそらく、家庭生活から変質灯油なんて、大量に排出される事なんてほとんどないだろうけど、製造所などからは大量に排出される事も想定されるし、今までの実績でもあった。だから、燃焼性の廃油は事業所から排出されれば特別管理産業廃棄物だけど、一般廃棄物の分類としては法律で規制するまでのことは無いって考えたんじゃ無いかなぁ。
なるほど。感染性のある廃棄物もたしかにそうねぇ。血の付いた注射針やガーゼなんて、外科手術を毎日やっている病院から排出される量と家庭生活はもちろんだけど、その辺の販売店やホテルなんかから出る量は桁違いでしょうからねぇ。
でも、今回のコロナ騒動ではちょっと状況が違ったんじゃないの?宿泊療養施設や自宅療養者も大勢居て、そこからはそれなりの排出量はあったはずよね。
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そうだねぇ。でも、「感染性」の廃棄物って視点で見ると、じゃ、今までの病原菌やウイルスとどれほど違うの?って点も出てくるよね。
そうですねぇ。コロナ騒動の当初はわからなかったけど、コロナは飛沫からの感染がほとんどで、廃棄物からの感染って報告されていないようですよね。そうなると、インフルエンザと比較するとどうなの?赤痢やノロウイルス、結核菌と比較してどうなの?ってこともあるわねぇ。
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そうなんだ。それで環境省は医療施設向けのリーフレットとして次の物を作成している。
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出典:環境省 "新型コロナウィルスの廃棄物について"
https://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/infection/leaflet-iryo.pdf,参照2020-05-20

へぇー、このリーフレットには赤字で大きく「他の感染性廃棄物と同様に処理可能です。」って書いてあるわね。
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コロナ関連の廃棄物に関しては、むやみに恐れる必要はありませんよ。感染性廃棄物について既に通知している「感染性廃棄物処理マニュアル」に沿って対応していればいいんですよ、と書いてある。
ただ、廃棄物からの感染のリスクは高くはないんだけど、そうは言っても廃棄物処理に携わる担当者が感染してしまったら、そもそも処理自体ができなくなる。そういった事態にも対応する必要が想定された。
それはどんな対応でしたっけ?
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それについては・・・・今回は長くなったので、つづきは次号ってことにしましょうか。

<今回のまとめ>
・廃棄物処理法上「感染性廃棄物」というのは病院や診療所等、10の施設から排出された場合のみ。
・よって、宿泊療養施設や自宅療養者から排出された場合は、「感染性はある」が、廃棄物処理法上は「感染性廃棄物」という特別管理廃棄物にはならない。
・性状的に同じものであっても、廃棄物処理法では排出形態により特別管理に規定していたり、していなかったりしている。

(2022年05月)

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