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「コロナで復習、感染性廃棄物の不思議を考える」後編

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

前回は感染性廃棄物というのは病院や診療所等10の施設から排出される場合だけって話でしたね。そうなると宿泊療養施設や自宅療養者から排出される場合は、感染性廃棄物にはならない。じゃ、どのような対応をとったのか?ってことで、今日はそのつづき。じゃ、先生、お願いします。
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はい。まず、2年前になるけど次の記事を読んで下さい。
「「コロナで復習、感染性廃棄物の不思議を考える」後編」画像1

出典:2020年5月2日 読売新聞

廃棄物処理法の許可制度について結構詳細に書いてますね。「自治体毎に許可を得る必要がある」って、これは一般廃棄物なら市町村毎の許可、産業廃棄物なら都道府県毎の許可という廃棄物処理法では基本中の基本事項ですね。これを間違うと途端に「無許可」、排出事業者側も「無許可業者委託」になってしまう。
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そうだねぇ。一方、今回のコロナ禍では感染者が急増し、加えて「濃厚接触者」も「隔離」しなくちゃならなくなった。だから、誰か一人が感染しちゃうと、その処理フローがストップしてしまう。さらに、規模の小さな町村などでは、役場の担当者が感染してしまうと、その部局全体が機能不全に陥って、新たに許可したり処理委託すら出来なくなってしまう。そういった事態にも対処出来るようにしておこう、という制度を作ったんだね。
記事には「国や自治体が近隣自治体の業者を指定して処理を代行できるようにした」って書いてありますね。具体的にはどのような改正だったんですか?
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新聞記事に書けばこういうことなんだけど、条文で見るとなかなか難しい。まず改正条文は次の箇所なんだ。(めんどくさい方はとりあえず条文を飛ばしていただいて結構です。)

令和2年5月1日省令改正
(一般廃棄物収集運搬業の許可を要しない者)
第二条 法第七条第一項ただし書の環境省令で定める者は、次のとおりとする。
十四 災害その他やむを得ない事由により緊急に生活環境の保全上の支障の除去又は発生の防止のための措置を講ずるために環境大臣又は市町村長が特に必要があると認める場合において、当該事由を勘案して環境大臣又は市町村長が定める期間に一般廃棄物を適正に収集又は運搬する能力がある者として環境大臣又は市町村長が指定する者(一般廃棄物処理基準又は法第六条の二第三項に規定する特別管理一般廃棄物処理基準(処理の緊急性に鑑み基準をそのまま適用することが適当でないと環境大臣が認めた場合においては、適用することが適当でないものとして環境大臣が指定する基準を除く。第二条の三第十号において同じ。)に従い、環境大臣又は市町村長が指定した一般廃棄物の収集又は運搬を業として行う場合に限る。)

第二条の三第十号 一般廃棄物処分業
第九条第十四号 産業廃棄物収集運搬業
第十条の三第十号 産業廃棄物処分業
第十条の十一第六号 特別管理産業廃棄物収集運搬業
第十条の十五第四号 特別管理産業廃棄物処分業
同様の条文の追加改正
なんかすごくめんどくさくなっちゃったわね。条文にするとどうしてこんなことになるのかしら?
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まず、廃棄物処理法の業許可制度が6つある。
一般廃棄物収集運搬と処分、普通の産業廃棄物の収集運搬と処分、特別管理産業廃棄物の収集運搬と処分でしたね。
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したがって、それぞれの条文を改正しなければならない。次に、原則的には一般廃棄物は市町村、産業廃棄物は都道府県に権限がある。だから、なんでもかんでも国が介入することは越権行為になる。
そうねぇ。特に最近は地方分権とか地方自治とかが強く言われるようになりましたからね。
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だから、国や都道府県が市町村の権限に口出し出来る条件を整備しておかなくてはならない。
それが「災害その他やむを得ない事由により緊急に生活環境の保全上の支障の除去又は発生の防止のための措置」とか「処理の緊急性に鑑み基準をそのまま適用することが適当でないと環境大臣が認めた場合においては、適用することが適当でないものとして環境大臣が指定する基準を除く。」とか回りくどい文言になっているのかぁ。
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ちなみに、「災害廃棄物」という文言は廃棄物処理法には登場しない。
災害廃棄物は「事業活動を伴わず」に発生することから、原則的には一般廃棄物ってなるんでしたね。
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そのとおり。一般廃棄物であることから原則的には市町村の責務ってなっちゃうんでしたね。
そして、一般廃棄物である限り、処理の大原則として「市町村に統括的責任」がある。
一般廃棄物である限り、まずは市町村が直営で処理できないか?できなければ、民間への処理委託や民間へ許可を出して、その民間業者にやってもらうこともやぶさかでは無い、って趣旨でしたね。
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現在では、市町村直営だけではとてもできない。だから、民間へ委託をしたり、民間に許可を出して処理を受け持って貰っている。さらに許可制度の例外として「許可不要制度」も相当整備してきている。
各種リサイクル法や大臣の再生活用認定、広域認定、無害化認定、それに今年の4月から施行されたプラスチック資源循環促進法にも許可不要制度は規定しているんでしたね。
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おっ、勉強してるね。それでも、大災害や今回の新型コロナ対策としては、不十分だった。
前述のとおり、「許可権限者、市町村の担当者が感染隔離」になっちゃった、なんて事態ですね。
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そうだねぇ。今回の感染性廃棄物に限らず、洪水や震災などでも、ちょうどそれに見舞われた市町村は、まずは人命救助が最優先でとても廃棄物まで手が回らないってことがある。そこで、平常状態であれば権限がない国が「代行」してあげられるようにというのが今回の新制度なんだ。
なるほど。実際には環境省が、廃棄物を処理する車両や処理施設を持っている訳では無い。そこで、「環境大臣が指定する者」って規定を作ったのね。
でも、同じような規定が産業廃棄物の許可不要制度である省令第10条の3第10号にもあるわ。災害廃棄物は一般廃棄物なんでしょ?産業廃棄物については、こういった規定は不要だったんじゃないの?
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うぅむ。なかなか鋭くなってきたね。これはまさにコロナという疫学的な事象であるがために設けたのかもしれないね。と言うのは、「コロナ禍」という位だから「災害」なのかもしれないけど、洪水や震災とは明らかに違う。特に廃棄物の排出形態は明らかに違うよ。
と言うと。
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たとえば、コロナに関わる廃棄物が「災害廃棄物」とすると、コロナ患者を治療して病院から出てくる注射針やPCR検査に使用した試験機材なんかも「災害廃棄物」となり、一般廃棄物ということになってしまう。だから、コロナ関連の廃棄物は「災害廃棄物」とはせずに、原則的な廃棄物処理法のルールに従った品目で扱うことになった。
今までのインフルエンザやノロウイルスとかによる病気の時と同じように扱いましょう、ということね。前回見た環境省のリーフレットにも赤字で大きく「他の感染性廃棄物と同様に処理可能です。」って書いてあったわね。
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ところが、「他の感染性廃棄物と同様に」法令の規定と現実的な取り扱いで矛盾が出てきた。
前回取り上げたように、「廃棄物処理法上<感染性廃棄物>というのは病院や診療所等10の施設から排出された時」、別の面から言うと「宿泊療養施設や自宅療養者から排出された時」は感染性廃棄物ではありませんってルールね。
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感染性廃棄物としておいた方がいいのか、しておかない方がいいのか、とても難しい。と言うのは、こういう規定もあるんだ。ちょっと長いけど、これは廃棄物処理を担当する限りは知っておいた方が良い条文なので紹介するよ。法律第14条の4第17項を受けた省令第10条20第2項。

(特別管理一般廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行うことができる場合)
第十条の二十 法第十四条の四第十七項の環境省令で定める者は、次のとおりとする。
2 特別管理産業廃棄物収集運搬業者、特別管理産業廃棄物処分業者及び前項に掲げる者のうち、感染性産業廃棄物の収集又は運搬を行う者は感染性一般廃棄物の収集又は運搬を、感染性産業廃棄物の処分を行う者は感染性一般廃棄物の処分を、特別管理産業廃棄物である廃水銀等の収集又は運搬を行う者は特別管理一般廃棄物である廃水銀の収集又は運搬を、特別管理産業廃棄物である廃水銀等の処分を行う者は特別管理一般廃棄物である廃水銀の処分を、特別管理産業廃棄物であるばいじんの収集又は運搬を行う者は特別管理一般廃棄物であるばいじんの収集又は運搬を、特別管理産業廃棄物であるばいじんの処分を行う者は特別管理一般廃棄物であるばいじんの処分を、それぞれ行うことができる。
どれどれ。ふぅん。「特別管理産業廃棄物である感染性廃棄物を処理できる特別管理産業廃棄物業者は特別管理一般廃棄物である感染性廃棄物の処理を行うことができる」って規定していますねぇ。
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感染性廃棄物だけではなく、特管一廃である「廃水銀等」「ばいじん」についても同様に規定している。
だから、特別管理一般廃棄物処理業の許可制度が無いのかぁ。
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廃棄物の分類としては特別管理一般廃棄物を規定しているけど、特管一廃って極めて排出形態が限定されているから、「業許可」は制度にせずに、性状的には全く同じである特管産廃の許可業者が「扱える」って規定にしているんだね。
なるほど。したがって、感染性一般廃棄物は感染性産業廃棄物処理業の許可を持っている会社なら扱える。一般廃棄物処理業の許可は市町村だけど、産業廃棄物の許可は都道府県だから比較にならない程エリアは広くなるわよね。でも、そうなら、なにもさっきまで検討していた新しい許可不要制度、「大臣の指定制度」なんて作らなくてもよかったんじゃないの。
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そこでようやく、話はスタート地点に戻ります。
宿泊療養施設から出てくる「感染者からの廃棄物」は「感染性廃棄物ではない」でしたね。
そうでした。感染性廃棄物は病院や診療所等10の施設から排出される時に限定されていました。
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すると、宿泊療養施設から排出されるマスクやフェイスシールド、タオル、壊れてしまった体温計などは「感染性廃棄物」ではない、となりますね。特に課題になるのは布マスクやガーゼ、タオルなどかな。こういった廃棄物は廃棄物の分類から行くと何になりますか?
フェイスシールドや壊れてしまった体温計なんかは、品目としては廃プラスチック類や金属くずかな。これらは業種の指定はないから、産業廃棄物。感染性廃棄物ではないから特別管理にはならず、普通の産業廃棄物。
布マスクやガーゼ、タオルは素材として「繊維くず」。「繊維くず」は排出する業種が限定されていて、産業廃棄物になるのは繊維工業や建設業だけだから、病院から排出される時は一般廃棄物。感染性廃棄物にはならないので、普通の一般廃棄物ってことになりますね。
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正解。そうなると、こういった廃棄物を扱える人は?普通の産業廃棄物の許可業者や普通の一般廃棄物の許可業者ってことになります。
あっ、そうか。さっきの省令第10条20第2項では「特別管理一般廃棄物である感染性廃棄物は特別管理産業廃棄物の許可業者なら扱える」って規定でしたね。と言うことは、普通の一般廃棄物となるといくら感染性産業廃棄物処理業の許可を持っていても扱えないってことになるのか。
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そうなんだ。こちらを立てればあちらが立たず、みたいな状態だね。
それで、今回の「大臣の指定制度」が登場したって訳ね。
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前回見てもらった宿泊療養施設向けのリーフレットをもう一度見て下さい。
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出典:環境省 "宿泊療養施設の廃棄物を取り扱うみなさまへ"
https://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/infection/leaflet3.pdf,参照2020-05-20

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「宿泊療養施設から排出される廃棄物は、廃棄物処理法上、感染性廃棄物ではない廃棄物として処理できますが、廃棄物を扱う作業員の感染防止のための対策を確実に行う必要があります。」「宿泊療養施設から排出される廃棄物を廃棄物処理法上の感染性廃棄物として処理することにより、感染性廃棄物を扱う処理施設において、廃棄物の処理が集中・停滞するおそれがあることに十分御配慮ください。」。
この2つの文章はこんな事情も有り、環境省が精一杯玉虫色で出したリーフレットだったのかもしれないね。
最近ではコロナもだいぶ治まってきたけど、数ヶ月前には全国で一日8万人もの新たな感染者が出ていましたものね。当然、この人達からはウイルスが付着した廃棄物が排出されていたはずですね。
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出典:2022年1月28日 読売新聞

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そうだねぇ。ここまで話したとおり、それは感染性廃棄物であったり法令上は感染性廃棄物でなかったり。一般廃棄物であったり産業廃棄物であったりと排出する医療関係者や、そしてそれを受け入れて処理する処理業者や市町村も取り扱いが大変だったと思うよ。
でも、法令の規定と現実を上手く組み合わせて、ここまでやって来ていると思う。
法令の規定は難しくして頭が腐りそうです。今後新たな感染症が出てしまったときに備えて、上手くまとめて下さいね。
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<今回のまとめ>
・コロナ関連廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物がある。
・感染性廃棄物は病院や診療所等10の施設から排出された時だけ。
・自宅療養や宿泊療養施設から排出される場合は感染性があっても感染性廃棄物にはならない。
・感染性廃棄物であれば、感染性産業廃棄物処理業の許可業者は感染性一般廃棄物を扱える。
・感染性廃棄物でないのなら、一般廃棄物は産業廃棄物処理業者は扱えない。
・その意味でも省令第2条第14号(等)で、「大臣・市町村長の指定した者」が許可不要制度に追加された。

(2022年06月)

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