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「排出時点」、「排出者」がすり替わる その2

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、前回は「「排出時点」、「排出者」がすり替わる」という論法を検討しました。
 真面目な読者(普通の社会常識のある方)は、「えぇ~、そんなこと許されるの。そんなことやったら、排出者責任が曖昧になり、無責任な行為が多発するんじゃないの。」とお怒りになっている方もいらっしゃるかもしれません。
 今回は、この「排出者が変わる」は制度として容認されているんだよってことも含めて考えてみたいと思います。

<定説>
 まず、「排出時点」の捉え方により、「排出者が変わる」典型的な事例が、建設系廃棄物でしたね。
 建設系廃棄物については廃棄物処理法第21条の3で、「建設工事の元請業者」が排出者(事業者)とする旨規定しています。
 これは本来、「この家はもう要らない」と観念する所有者は廃棄物の排出者ではなく、「がれきや木くずは建築物を解体するから発生する」という「排出時点」の考え方により、解体工事の元請業者が排出者とする、という規定な訳です。
 ちなみに、制度を作った人も、「建設系廃棄物については普通の廃棄物の考え方とは違うよなぁ。」と感じていたんでしょうね。法第21条の3の見出しを見てください。
 「(建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理に関する例外)」とあります。建設系廃棄物は、あくまでも「例外」という認識だったんでしょうね。

<自説>
 建設系廃棄物以外にも排出者が変わることを容認している制度があります。それは「下取り」です。
 皆さん、ご存じのとおりの制度で、「定説」ランクと言っていいと思うのですが、直近の「下取り」に関する通知は、令和2年の「許可事務通知」です。まず、これを紹介しておきます。

<定説>
産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて(通知)から抜粋
第1 産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可について
15 その他
(2) 新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要であること。

このように、現在、環境省も承認しているのは「産業廃棄物」だけなんですね。これは平成12年から始まっている地方分権の流れで、現在、一般廃棄物に関しては、市町村の自治事務であり、国や県は権限がないんです。
 そのため、通知で運用している「下取り」は、「産業廃棄物については定説」と言えるのですが、いかんせん、一般廃棄物については「定説」とまでは言えない状況になってしまいました。なお、平成12年の改正までは現在の通知の「産業廃棄物」という文言が「廃棄物」という文言であったことから、現在でもほとんどの市町村では、一般廃棄物についても同様に運用しているのが実態です。
 さて、話は戻りますが、「下取り」の対象となる「物」は、これは誰が考えても「廃棄物」でしょう。
 通知の中では「無償で引き取り」と言っていますから、処理料金の徴収はできない(もし、料金を取るのであれば、処理業の許可を取ってやりなさい)としていますが、このシリーズでも紹介しました総合判断説で判断すれば、少なくとも「占有者はこれは不要だ。持って行って欲しい。」ということですから廃棄物でしょう。なお、買い取っているのであれば、これは有価物となりますから、そもそも廃棄物処理法の適用は受けない「物体」だとなりますね。
 (実は、この「買い取り」という要素は、総合判断説の中の「取引価値の有無」という一要因だけのことであり、たてまえとしては「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「占有者の意志」という他の要因についても検討しなければならないとなります。「買い取っていても廃棄物処理法を適用する」という平成24年3月19日(通称「3、19通知」)もありますので、ご注意の程。)
 再び話は「下取り」に戻りますが、・・・・
 したがって、「下取り」の対象になっている「物」は廃棄物であり、消費者が排出者となります。だから、これを引き取って運搬する行為は「廃棄物の収集運搬業」の許可が必要と言うことになるはずです。
 これを通知では「業の許可は不要」と言っているんですね。
 さらに、考えてみなければならないのは、この下取りをされた後の「物」の扱いです。
 たとえば、この消費者が一般国民であるなら、この下取りの対象となった「物」は一般廃棄物です。だから、これを運ぶ人物は「一般廃棄物収集運搬業の許可」が必要であり、運び終わった以降も、それを扱う人物は、一般廃棄物処理業の許可が必要なはずです。
 ところが、実態としては「下取り」が成立した以降は、この「物」の排出者は、下取りをした人物として運用されています。すなわち、排出者がすり替わっているんです。
<妄説>  「下取り」のこの運用は、おそらく次のような理論なのではないかと思っています。
 本来の排出者は「消費者」だ。しかし、販売店は新しい製品の「販売」という事業活動に伴って「古い製品を引き取る」という行為をやっているとも言える。よって、「下取り」が成立した以降については、販売店(引き取り側)が「販売という事業活動に伴って排出した」とも捉えられる。そうであるならば、これを運ぶ行為は販売店の「自社運搬」であるから許可は要らない。そして、販売という事業活動によって排出されたと捉えれば、排出者は販売店であり、したがって「物」は産業廃棄物である。・・・・と。
 すなわち、「排出時点」を変えることにより、「排出者」がすり替わり、そのため一般廃棄物が産業廃棄物に衣替え、というパターンな訳です。

下取り以外でも、この排出時点と排出者はいろんなところで関連し、すり替わりが起きてきます。
よく質問されるのが「メンテナンス」です。このメンテナンスが「建設工事」であるなら、前述の通り「工事の元請業者」が排出者となるのですが、「工事とは見られない」ようなの場合について見てみましょう。たとえば、消耗品の交換などです。
 所有者、使用者は別にいるが、この人から依頼を受けて、ボルトや濾紙や潤滑油等を交換する。よくあるパターンです。
 この時排出される不要となった古いボルトや濾紙や潤滑油等は誰が排出者なのか、と言ったケースです。
<定説>
 また、建築物の解体工事の時に、解体前から既に存在している「残置廃棄物」(たとえば、椅子とか机といった廃棄物)については、工事の元請ではなく元々の所有者、管理者であるとしています。このことは、以前からも通知はありましたが、平成26年、平成30年にも通知が出されていますので、「定説」と言っていいでしょう。
 これは当然の話ながら、椅子や机は建築物の解体工事の時の時に発生したものではなく、解体工事の前の時点で既に廃棄物として存在している。だから、元々の所有者、管理者が排出者である。という理論だと思われます。
 さらに、「清掃」の対象となる廃棄物についても、残置廃棄物と同じような理論展開により、清掃を行った人物が排出者ではなく、その廃棄物は清掃を行う以前から存在した廃棄物であるから、元々の所有者、管理者が排出者である旨の通知が過去に発出されています。
<自説>
 いかがですか?このように建設系廃棄物や「下取り」廃棄物などは、排出時点の捉え方により、本来の排出者であろうと思われる人物から、一つずらすような運用を、社会として容認している、とも言えますね。
 一方で、残置廃棄物や清掃廃棄物などは、原則通り、「要らない、と最初に思った人は誰か」で、元々の所有者と通知しています。
 この中間にあって、現実的にはグレーゾーンなのが「メンテナンス」から排出する廃棄物などでしょう。
 これらは、結局前回の「まとめ」で記載したとおり、「仕事全体を俯瞰した上で、誰が一番、一括、一塊の仕事を支配、監理できる存在であるか」を検討するってことになるんでしょうね。

第12回 「排出時点」、「排出者」がすり替わる」その2のまとめ
<定説>
 建設系廃棄物は法律第21条の3により、元々の建築物の所有者が排出者ではなく、工事の元請業者が排出者(事業者)であると規定している。
 産業廃棄物の「下取り」も、元々の消費者が排出者ではなく、下取りを行った販売店が排出者である、というのが現実の運用である。
 「残置廃棄物」「清掃廃棄物」の排出者は、元々の所有者、管理者である。
<自説>
 一般廃棄物の「下取り」についても、ほとんどの市町村では、産業廃棄物の「下取り」と同様の運用がなされている。
 一般廃棄物の「下取り」は、「排出時点」の考え方で、産業廃棄物に衣替えしている。
<妄説>
 「排出者時点」をどのように捉えるかで、「排出者」は変わる。
 法律で定義した「建設系廃棄物の排出者」以外は、法令では明確に規定している訳ではないので、結局は、「一括、一塊の仕事を支配、監理できる存在」で判断するしかない。

BUNさんの定説?妄説?の総まとめ
 一年にわたってお付き合い頂いた「定説」「妄説」いかがだったでしょうか。
 オリジン説、中間処理残渣物、総合判断説、建っているうちは廃棄物処理法を適用しない、排出時点。。。。いくつかは、「定説」として耳にしたこともあったかもしれません。でも、たぶん、多くの人は「都市伝説」のような話だと思われたのではないでしょうか。
 たしかに、「自説」「妄説」として書いた箇所は、確たる証拠がある訳でもありませんし、これを争点にして裁判が起こされたら勝てるとは限りません。
 でも、廃棄物処理をやっている限りはいつかぶつかってしまう壁だと思います。そして、その壁はドアも階段もない(法令の規定や確たる解釈通知がない)のです。これでは、途方に暮れてしまいます。そこで、梯子(はしご)程度をかけておきたいなぁと思った次第です。
 実際に事案に遭遇してどうしたいいのかわからないのであれば、この梯子を頼りに登って頂き、そうして、いずれは皆さんで大きな、しっかりした階段を作って頂ければ、後人はさして苦労せずこの壁を乗り越えてくれるものと思います。
 じゃ、また、お会いしましょう。しーゆーあげいん。(^_^)bBUNさん

(2020年04月)

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