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「産業廃棄物の種類」その3<汚泥>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、ここのところ「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてますが、今回は「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」の2番目に登場する「汚泥」について取り上げてみましょう。

<汚泥>
<定説>
廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のように説明しています。
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
2 汚でい......工場廃水等の処理後に残るでい状のもの、及び各種製造業の製造工程において生ずるでい状のものであって、有機質の多分に混入したどろのみを指すのではなく、有機性及び無機性のもののすべてを含むものであること。有機性汚でいの代表的なものとしては、活性汚でい法による処理後の汚でい、パルプ液から生ずる汚でい、その他動植物性原料を使用する各種製造業の廃水処理後に生ずる汚でい(令第二条第四号に掲げる産業廃棄物に該当するものを除く。)ビルピット汚でい(し尿を含むものを除く。)があること。無機性汚でいの代表的なものとしては、赤でい、けい藻土かす、炭酸カルシウムかす、廃白土、浄水場の沈でん池より生ずる汚でいがあること。ただし、赤でいにあっては、廃アルカリとの混合物として、廃白土にあっては、廃油との混合物として取り扱うものであること。

「汚泥」はこの世界ではオールマイティです。
成分や由来は関係しないんですね。とにかくドロドロしていれば汚泥。
そのために汚泥の基準は一番厳しいんです。
話はまわりくどくなりますが、ちょっとお付き合い下さい。特別管理産業廃棄物の中に特定有害産業廃棄物という小グループがあって、その中の一つが「有害金属等を含む産業廃棄物」があります。
ちなみに特定有害産業廃棄物は4つあり、残りの3つはPCB、石綿、水銀の廃棄物です。詳細は5年前の「基礎編」を参照のこと。書いてなかったかな(^o^)
世の中の人の多くは「有害な産業廃棄物は全部、特別管理産業廃棄物だ」と思っている人も居るかも知れませんが、違うんですね。「有害なことによって特管産廃」になるためには4つの条件があるんです。
何が入っていますか?何に入っていますか?どの位入っていますか?どこから排出されますか?
この4要素をクリア出来ないと有害なことによる特管産廃にはなれないんです。
たとえば、有害物質の鉛が、0.3mg/L以上溶出したときに特管産廃になる施設数は「ばいじん」だと10施設なのですが、これが汚泥では32施設になっています。
また「何が入っていますか?」に関しては、「ばいじん」や「燃え殻」の場合、カドミ、鉛等9物質を対象にしているのですが、汚泥の場合は26物質を対象にしています。
そのため、行政の相談窓口に「なんだかわからない物」が持ち込まれて「これは産廃20種類のうち、どれに該当するのでしょうか?」と聞かれた場合は、「汚泥」と答えます。
汚泥であれば、廃棄物処理法で規定している26の有害物質全てについて分析してみる必要が出てくるからです。「困ったときの汚泥」「迷ったときの汚泥」、これが行政マンの慣用句です。
安全側で対処するなら「汚泥」として全ての有害物質について検査しておきなさいって趣旨ですね。

<自説>
さっきの施行通知は、もう半世紀も前のものですが、汚泥に関しては現在のBUNさんの感覚と大きな違いはありません。
なんでもかんでも泥状を呈している「物」は汚泥。
ただ、ちょっとわからない括弧書きがあります。
(令第二条第四号に掲げる産業廃棄物に該当するものを除く。)です。
ここで政令第二条4号を確認してみましょう。
政令第二条4号 法第二条第四項第一号 の政令で定める廃棄物は、次のとおりとする。
四 食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物

と言うことで、いわゆる「動植物性残渣」なんですね。
なぜ、「動植物性残渣」を「汚泥」から除外したか?具体的には、ドロドロしていてもバターや青汁のような物は「汚泥」には入れてやらないよってことですよね。
この一文について、BUNさんがなぜこだわっているかといいますと、除外しているのが動植物性残渣だけなんですよね。廃油や廃酸や動物のふん尿は除外していない。
同じこの昭和46年通知の中では、油分が多いドロドロした物は「廃油と汚泥の混合物」と言っているんですね。じゃ、「動植物性残渣と汚泥の混合物」という物は存在しないのか?
むしろ、「動植物性残渣と汚泥は違う」と言っている訳ですから、動植物性残渣がいくらドロドロの状態になっていたとしても、それは汚泥とは違う物体と判断しろ、ということであれば「全体として汚泥だよね」とは言ってはいけないってことなんだろうか?
これは当時産廃の種類を創設して、この解釈、運用通知を出した人に聞いてみないわからないことですね。
今まで、いろいろ調べたのですが、この点は未だにわかりません。知っている方がいらしたら是非ご一報ください。

<定説>
もう一つの括弧書き。「ビルピット汚でい(し尿を含むものを除く。)」これは明解です。
「し尿」という表現は、少なくとも廃棄物処理法においては「人間の糞尿」なんですね。
動物の糞尿は「ふん尿」なんです。使い分けているんです。
そして、「し尿」は、これは典型的な一般廃棄物なんです。
廃棄物処理法の元となった法律は清掃法、そして清掃法の元は「汚物掃除法」。
この汚物掃除法がなぜ制定されたか?
それは伝染病対策だったんです。西暦1900年、明治33年に伝染病予防法と同時期に成立している法律なんです。人間の伝染病の多くは人間の糞便から罹患ることが多いんです。
そのため、人間の糞便は特に注意して取り扱う必要があったんです。
その流れを引いていて、廃棄物処理法の中でも「し尿」というのは今でも特別扱い。(その一例として興味のある方は第5条第7項、第17条などを見て下さい。面白いですよ。(^o^))
と言うことで、廃棄物処理法がスタートした昭和45年時点では、現在よりも「し尿」が廃棄物処理法に占める存在は大きかったんでしょうね。
加えて、このころから「浄化槽」が普及し始めました。
そういったこともあり、「ビルピット汚でい(し尿を含むものを除く。)」と記載したものと思われます。
この「物」は一般廃棄物、という位置付けですね。
「じゃ、なんでもかんでも<し尿>を混ぜて、一般廃棄物として市町村に引き取って貰ったらいいじゃないか」なんて悪いことを思いついた人はいませんよね。
実は、こういった行為は、現在では浄化槽法で禁止しているんです。

浄化槽法 第三条 (浄化槽によるし尿処理等)
何人も、終末処理下水道又は廃棄物の処理及び清掃に関する法律第八条に基づくし尿処理施設で処理する場合を除き、浄化槽で処理した後でなければ、し尿を公共用水域等に放流してはならない。

<妄説>
「汚泥」については、もう一つ解せない運用があります。それは「脱水汚泥」という存在です。
現在は、皆さん、なんの疑念もなく「脱水汚泥」という言葉を使うし、現実的な分類としても「脱水汚泥」は「汚泥」として扱っていますよね。
でも、たいていの脱水汚泥は脱水していますから、固まっているんです。
特に乾燥までさせていれば、完全に「固形」です。
先ほどの施行通知の「汚泥」の定義はなんでしたか?
「でい状のもの」なんです。国語辞典で調べても「でい状」とは「どろのようにどろどろした状態」と出ている。固まった物を「でい状」と呼ぶか?常識的には呼ばないと思うんです。
ところが、廃棄物処理法の世界では、どろどろした「汚泥」を脱水して、乾燥させて、かちかちの固形状にしても「汚泥」なんですね。
ちなみに、感染性廃棄物ガイドラインには次のような文章があります。
 「産業廃棄物は、法律で六種類、政令で一三種類の廃棄物が定められており、医療関係機関等からは血液(廃アルカリ又は汚泥)、注射針(金属くず)、レントゲン定着液(廃酸)等が発生するが・・・」
と言うことで、「血液」が産廃として排出される場合は、固まっていなければ「廃アルカリ」、固まっていれば「汚泥」という運用なんですね。
これが「木くず」であれば、焼却したあとは「燃え殻」に変化します。廃酸、廃アルカリは中和した後はただの「水」と沈殿した「汚泥」に変化します。いつまでも「木くずであった燃え殻」とか「廃酸であった水」などとは言われません。
でも、「汚泥」は処理した後に、明確に違う種類、たとえば焼却して「燃え殻」になったような場合を除いて、いつまでも「汚泥」として扱われるんですね。
どろどろでなくても「汚泥」なんです。
これは多分、「汚泥」じゃないとすると、適当な該当する種類が無くなって、「産業廃棄物でない廃棄物は一般廃棄物である」として一般廃棄物に衣替えしてしまうからかなぁと考えています。
本来であれば、「処分するために処理した物で、他の産業廃棄物に該当しない物」として13号処理物でもいいんじゃないかと思いますが、「困ったときの汚泥」「迷ったときの汚泥」なんですね。

<本日のまとめ>
事業活動を伴って排出される「でい状を呈した物」は、産業廃棄物の「汚泥」
これは排出事業者の業種、排出施設の種類を問わない。とにかく「汚泥」。
「汚泥」は廃棄物処理法で規定する26種の有害物全ての規制の対象になる。
現実的な運用として「でい状を呈していなくとも汚泥」。例「脱水汚泥」「凝固した血液」。
「困ったとき」「迷ったとき」は、とりあえず「汚泥」として取り扱う。
でも、通知では「動植物性残渣は汚泥ではない」としている。

なかなか、「汚泥」も難しいでしょ(^。^)

(2020年07月)

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