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「産業廃棄物の種類」その4<廃油>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、ここのところ「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてますが、今回は「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」の3番目に登場する「廃油」について取り上げてみましょう。

<廃油>
<定説>
廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のように説明しています。
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
3 廃油......鉱物性油及び動植物性油脂に係るすべての廃油を含むものとし、潤滑油系、絶縁油系、洗浄用油系及び切削油系の廃油類、廃溶剤類及びタールピッチ類(常温において固形状を呈するものに限る。) があること。硫酸ピッチ及びタンクスラッジは、それぞれ廃油と廃酸の混合物及び廃油と汚でいの混合物として取り扱うものであること。

<自説>
廃油の説明として、「廃油」というそのものの文言を使っていいものかは別にしまして、まぁ、常識的に「油」で不要になった「物」が廃油なんだ、と言っているのだと思います。
ところが、ここでさらに「じゃ、油ってなんだ」と改めて言われるとこれがなかなか難しい。皆さんはどう答えますか?そこで、辞書で調べてみました。
「油(あぶら、ゆ)とは動物や植物、鉱物などからとれる水と相分離する疎水性の物質である。一般に可燃性であり、比重が小さく、水に浮く。」
つまり、水と混ざらずに燃えるもの、それが「油」の概念ですよね。これ、違和感ないですよね。
この「油」が不要になった「物」が廃油。何も違和感は無い。
ところが、前述の解説に「廃溶剤類」って登場するんです。
そこで「溶剤」を調べてみると「物質を溶かすのに用いる液体。アルコール・シンナー・ベンジンなどの有機溶剤をいう。」と出てくる。
アルコールは水に溶けるんですよね。皆さんもウィスキーや焼酎を水割りで飲んでるでしょ。日本語の定義からするとアルコールは「油」ではない。でも、廃棄物処理法では、それが不要になると「廃油」。
実際、特管産廃になっている「トリクロロエチレン」とかは、「産廃20種類としては何に該当しますか?」と言われると「廃油」に分類しているんですね。
「廃溶剤」の話はまた後ほど。
次にこの例示として注目すべき事が書いてありますね。
「廃油と廃酸の混合物及び廃油と汚でいの混合物として取り扱う」。
この「混合物」という概念はとても重要だと思います。
廃棄物処理法がスタートした半世紀前から、「産廃は19種類(当時は「動物系固形不要物」はまだなかったので19種類)じゃ、現実的には対処出来ないなぁ。そうだ。何種類か混ざっている、という考え方にしよう。」と。

<妄説>
この「何種類か混合している」という概念はBUNさんとしてはとても重要だと考えています。
と言うのは、時々、「産廃は20種類(現在は)でいいのか?こんなに世の中が変化してきているんだから、PRTR法のように500種類くらいに分類する必要があるのではないか。」とおっしゃる人がいらっしゃる。
しかし、そんなことしていたら、新しい物が開発、普及し始める度に産廃の種類を追加していかなければならなくなる。
「絵の具の色は何色必要ですか?」、赤、青、黄色ですよね。
(BUNさんはこう習ったのですが、現在は、絵の具の三原色は黄色(Yellow)と赤紫色(Magenta)と空色(Cyan)、光の三原色は赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)が定説のようですね。まっ、本筋には影響しないので、赤、青、黄色で進めましょう。)
つまり、その他の色はこの3種類の絵の具を混ぜ合わせることによって表現することができる。ということです。
産廃の種類も同じ事かなぁと思うんです。「硫酸ピッチは硫酸ピッチだ」と主張し続ければ「硫酸ピッチ」という産廃の種類が必要になるし、「タンクスラッジはタンクスラッジだ」と譲らなければ「タンクスラッジ」という産廃の種類が必要になる。それでは切りがない。
「硫酸ピッチは廃油と廃酸の混合物」でいいじゃないか。それなら産廃の種類を増やす必要は無い。
これはすばらしい発想、いい方法だと思うのです。
と、言うことはですよ、世の中の「物」「廃棄物」は、「産廃20種類の組合せで表現出来る」ってことですよね。
と、言うことは、産業廃棄物をなぜ19種類に制定したかと問われれば、「この物体が基礎的なものであり、この物は他の物の組合せではできないし、かつ、他の物はこの19種類の組合せで表現出来る。」となる訳です。
廃棄物処理法スタートから50年が経過し、今となっては「なぜに、この19種類?」と思わないではありませんが、この「混合物として取り扱う」という発想、概念は拍手を送りたいなぁと思う次第です。(^^)// パチパチ。

<定説>
前述の通り、この「混合」という概念は当初からあった訳ですが、ところがここで質問が寄せられた。
「どの位の比率で混じっていたら<混合>とし、どれ位以下なら単独(1種類)とするのか」と。
そこで、旧厚生省は、昭和51年に「油分を含むでい状物の取扱いについて」という通知を発出し「油分をおおむね5パーセント以上含むでい状物は汚でいと廃油の混合物として取扱うこと。」としたんです。
とても分かり易い。これだと5%以上入っていれば2種類の混合物だけど、それ未満なら汚泥1品目でいいよ、という実に現場でやりやすいような運用を示してくれた。
ところが、それから15年ほど経った平成4年にこれを悪用する奴らが現れたんです。
「土砂に5%未満で廃油を混ぜる。すると、それは全体として土砂だろう。土砂は廃棄物処理法の対象外だから、それを捨てても不法投棄にはならないだろう」と屁理屈を捏ねたようなんですね。
これが切っ掛けかどうかはわかりませんが、これ以降、国(環境省)は、この混合比率については一切言及しなくなってしまいました。
なお、この話は拙著「どうなってるの?廃棄物処理法」に詳細に載せていますので、興味のある方は参照して見てください。

<妄説>
さて、最初に紹介した通知の例示に「動植物性油脂」とありますね。
これは後ろのタールピッチ類と異なり「(常温において固形状を呈するものに限る。)」が着いていません。と、言うことは、「動植物性油脂」に関しては、液体、固体を問わずってことですよね。
じゃ、バターの不良品(腐ったとか異物が混入したとか)は何に該当するのか?バターは「動植物性油脂」に違いない。でも、動植物性残渣とは言えないか?また、液体と固体の中間でドロドロしていたら「汚泥」ではないのか?
でも、前回の「汚泥」の巻で汚泥は動植物性残渣を除くって書いてたなぁ、じゃ、バターの不良品は汚泥ではないよなぁ。ここはタールピッチ類とは逆に「(常温において固形状を呈するものを除く。)」って書いてくれれば、はっきりしたのになぁ。などと考えるのであります。

<定説>
廃油の一分野に前述の通り「廃溶剤」が示されています。
だめ押しで紹介しておきますが、特管産廃の廃溶剤は次のように規定しています。
政令第2条の4第1項第5号ヌです。
ヌ 次に掲げる廃油及び当該廃油を処分するために処理したもの(環境省令で定める基準に適合しないものに限る。)
(1) 廃溶剤(トリクロロエチレンに限るものとし、国内において生じたものにあつては、別表第三の一一の項に掲げる施設において生じたものに限る。)
(2) 廃溶剤(テトラクロロエチレンに限るものとし、国内において生じたものにあつては、別表第三の一二の項に掲げる施設において生じたものに限る。)
以下(12)の1.4ジオキサンまで続きます。
これでおわかりのとおり、「廃溶剤」は「廃油」の1種類として扱われています。

<妄説>
では、この「廃溶剤」として扱われるのは何%以上の純度の時でしょうか?
たとえば廃酸の中にトリクロロエチレンが2.0mg/L入っていたとします。この「廃液」は廃酸ですか、廃油ですか 、それとも廃酸と廃油の混合物ですか?2.0mg/Lなんて言ったら、0.0002%(ん?ゼロの数、間違ったかな、まぁ、いいや、大勢に影響ない(^o^))ですよ。5%よりははるかに薄い。じゃ、全体として廃酸としていいよね。
ちょっと、ちょっと待ってください。トリクロロエチレンは有害物質で0.1mg/L以上含有していたら「トリクロロエチレンを含むことによる有害な廃酸」ですよね。
そのとおりですね。だから「廃酸」でしょ。じゃ、この濃度をどんどん高くしていっても「トリクロロエチレンを含むことによる有害な廃酸」ですよね。トリクロロエチレンの濃度が5%を超えた時から、この「廃液」は廃油となるのでしょうか?
そして、トリクロロエチレンの濃度が95%までだと「廃油と廃酸の混合物」として扱って、それ以上になってはじめて「廃油」単品としての廃溶剤となるのでしょうか?
どうも、現実にはそんな風には扱っていないように思われます。
トリクロロエチレンが基準値を超えて含有している廃液は、どこまでが「廃酸」で、どこからが「廃油」としての廃溶剤になるのか?
なかなか、廃溶剤というのもわかったようでわからない。
でも、現実的にはどっちにしても特管だし、さほど大きな問題ではないのかも。

<定説>
燃焼性の廃油は条文上は、「灯油、軽油、揮発油類」が特管産廃です。
でも、廃油となって排出される時、元々、重油だったか、軽油だったか、ギア油だったか、灯油だったか、その混合物なのかわからない。そんな時は引火点測定してみてくださいって言われています。実は、このことは廃棄物処理法では決まっていないんです。平成4年に特管物制度がスタートしたときに現場は困ってしまって、それで全く別の法律である消防法の危険物の規定から借用している運用です。
危険物として軽油、灯油、揮発油類は第4類第2石油類というグループで、こちらは「引火点70度未満」という数値基準が決められています。その数値を借用して運用しているってことですね。

<自説>
じゃ、96%の重油に4%のガソリンが混入した廃油は、普通の産業廃棄物か特別管理産業廃棄物か?
5%未満の混入だから普通の産業廃棄物?いやいや、試しに引火点測定してみてください。引火点が低い液体が入ると少ない濃度でも、その物質が気化しますから全体の引火点は、低い物質に引っ張られるんだそうです。そういう廃油はやはり特管産廃として扱う方が安全ですよね。

<本日のまとめ>
事業活動を伴って排出される「不要になった油」は、産業廃棄物の「廃油」
これは排出事業者の業種、排出施設の種類を問わない。とにかく「廃油」。
普通、「油」とは、水と混じらない物だが、廃棄物処理法での廃油は「廃溶剤」、アルコールも「廃油」として扱う。
「タンクスラッジは廃油と汚でいの混合物」「混合比率が5パーセントうんぬん」という過去の通知もあるが、実際はなかなか難しい。
特に廃溶剤の場合は、どの位の比率だと「廃酸」で、どの位からが「廃溶剤」とするかなど明確な規定は無い。
でも、一定濃度以上の含有率で特別管理産業廃棄物となるので、現実問題としては、それほど厳密に混合比率を議論してもあまり意味はない。安全側で扱うしかない。
なかなか、「廃油」も難しいでしょ(^。^)

(2020年09月)

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