大栄環境グループ

JP / EN

「産業廃棄物の種類」その8<動植物性残渣>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、ここのところ「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてますが、今回は「動植物性残渣」について取り上げてみましょう。
「産業廃棄物の種類」の最初に取り上げたテーマが「動物系固形不要物」でしたね。
それに比較すれば「動植物性残渣」は身近なものですから、簡単なんだろうって思った人は居ませんか?
それがどうしてどうして、産業廃棄物の動植物性残渣って意外と難しいんですよ。
まずは、条文の規定を見てみましょう。

<定説>
政令第二条 (産業廃棄物)
法第二条第四項第一号の政令で定める廃棄物は、次のとおりとする。
一 紙くず、二 木くず、三 繊維くず
四 食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物

<定説>
あれ?「動植物性残渣」って文言は出てきませんね。でも、この世界では皆さん「動植物性残渣」って呼んでいますよね。実は、この文言は「燃えがら」の時にも紹介しましたが、廃棄物処理法がスタートした直後の「施行通知」の中に登場するんです。
昭和46年10月25日 環整第45号
10 令第二条第四号に掲げる産業廃棄物......「動植物性残さ」という。産業廃棄物に該当するものは、日本標準産業分類による中分類12及び13(小分類135を除く。)、小分類206及び細分類2093に該当する事業の事業活動に伴って生ずる動植物性残さであって、あめかす、のりかす、醸造かす、発酵かす、魚及び獣のあら等が含まれるものであること。魚市場、飲食店等から排出される動植物性残さ又は厨芥類は、事業活動に伴って生じた一般廃棄物として取り扱うものであること。

今回はこの通知と政令条文について深掘りしてみましょう。
まず、政令で、「食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業」と規定していますね。
これは「木くず」の時にもありました「業種限定」、いわゆる「指定業種」と呼ばれているもので、この業種から出たときは産業廃棄物になるが、これ以外の業種から出たときは一般廃棄物というルールでしたね。
たとえば、りんごジュースを製造している工場からりんごの絞り滓が廃棄物として排出されれば、これは食料品製造業から排出される植物性の残渣なので産業廃棄物となる。ところが、スーパーマーケットやコンビニの弁当の売れ残りが廃棄物として排出される時は、いくら動植物性残渣であっても排出している業種が販売業であり、指定業種ではないことから、これは一般廃棄物となる。いわゆる事業系一般廃棄物ってことでしたね。
通知では、この業種を「日本標準産業分類による中分類12及び13(小分類135を除く。)、小分類206及び細分類2093に該当する事業」と明確にしている。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
現時点で「日本標準産業分類による中分類12・・・」を見ても、「食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業」は出てきません。なぜかと言えば、日本標準産業分類は時代の変遷に合わせて、時々改訂されるからです。
したがって、この通知の最終改正時点の分類表をみなければなりません。
この通知の最終改正時点である平成14年での分類表は「平成5年改定」のもので、これによれば・・・
大分類F-製造業、中分類12-食料品製造業となるのです。

まぁ、ここまでは何年か前の「基礎コース」でやった内容です。
問題は次の文言からになります。

<一応定説レベル>
「原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物」
まず、「原料として使用した」とありますから、いくら食料品製造業でもハムを製造している工場から、従業員の方が休憩時間に飲んだお茶っ葉が出てきたとしても、これは産業廃棄物にはならないってことです。
まぁ、この辺までは納得なのですが、次の「固形状の不要物」、実はこの辺からが判断に迷うところです。
まず、比較的分かり易いところからですが、りんごジュースを製造している工場からりんごの絞り滓が廃棄物として排出されれば、これは食料品製造業から排出される植物性の「固形状の不要物」なので産業廃棄物となります。
ところが、りんごジュースの不良品が排出される時は、「液体」ですから、これは「固形状の不要物」ではなく、したがって「動植物性残渣」にはならない、となります。まぁ、「廃酸」でしょうねぇ。

<妄説>
さらに迷うときがあります。食料品はいずれは腐っていきます。最初は固形状でも、腐ってどろどろになります。この「どろどろ」って「固形状」って言うんでしょうか?
「そりゃ、汚泥だろう」とつぶやいた人、いませんか?
ところが、どうもこの状態の物は「汚泥」ではないらしいのです。
そう、このメルマガの愛読者なら思い出してくれましたよね。何回か前の「汚泥の巻」を。
前出の昭和46年10月25日 環整第45号の「汚泥」の解説には次の一文があるんです。
「・・・その他動植物性原料を使用する各種製造業の廃水処理後に生ずる汚でい(令第二条第四号に掲げる産業廃棄物に該当するものを除く。)ビルピット汚でい(し尿を含むものを除く。)があること。・・・」

この括弧書きにある(令第二条第四号に掲げる産業廃棄物)これは今回のテーマである「動植物性残渣」ですよね。だから、動植物性残渣は汚泥にはならない、と、この通知では解説しているんです。
訳が分からなくなりますね。動植物性残渣だと思うと「固形状の不要物」に限定していて、じゃ、液体や泥状の状態の物は違う種類になるのか?では、汚泥だろうと思うと、動植物性残渣だけは汚泥から除かれているんです。
もちろん、廃プラとかガラスくずとかであるはずはなく、そうなると産業廃棄物に該当する種類が無くなってしまう。しょうがないから一般廃棄物?ってなっちゃいますよね。
法律 第二条 (定義)
2 この法律において「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。
ですからね。

<自説>
この要因は現実的にも大きな課題でして、皆さんは「ディスポーザ」ってご存じですか?
ミキサーが流し台の排水口に付いているもので、葉っぱや肉切れ、小骨、と言った厨芥類や食べ残しを、排水と一緒に流してしまうんです。
排水口に詰まると悪いので、流し台から流す時点で粉々に粉砕して排水として流してやる。
ディスポーザはその使用状態によって、評価が大きく分かれるんです。
まず、最も悪い例ですが、これは下水道が普及していない地域です。
平成13年以降は雑排水も、し尿と一緒に処理する合併処理浄化槽以外設置して悪くなりましたが、それまでの単独処理浄化槽(し尿のみ処理する)や汲み取り便所を使用している家庭の台所排水は未処理のまま河川に流されることになります。すなわち、残飯類を粉砕して河川に流している状態なので、これはある意味、不法投棄と同じ状態です。
逆に、もっとも良い例は公共下水道が普及しているが、人口が減少している地域です。下水の処理は活性汚泥法という微生物を使った手法が多いのですが、こういったところでは、微生物を維持していくためにある程度の負荷(餌になる汚れ分)が必要になります。うんちの量は人口に比例しますし、たいてい人口が減少している地域は産業系の排水も減少します。そういった地域では家庭にディスポーザを設置してくれれば、ごみの減量化にもなりますし、ごみを収集運搬する際の人手、エネルギーも省力化できて、地球温暖化防止にも役立つとも言われています。
この中間が公共下水道は普及していないが、合併処理浄化槽や農業集落排水処理施設と言われる、いわゆるミニ下水道地域です。最初からディスポーザを想定して下水処理を設計計算していればよいのですが、設計計算にない量の有機物を流されると、水処理をしている微生物が対処しきれなくなり、浄化槽はパンクしてしまいます。
ディスポーザの効能は立場により意見が異なり、未だに確たるものがないので「自説」とさせていただきました。

「産業廃棄物の種類」その8<動植物性残渣>画像1

<もう一つ自説>
おっと、脱線してしまいましたね。本題に戻りますが、こういったディスポーザで粉砕されてしまった「物」は動植物性残渣というのかってことですね。
以前、飲食店でわざわざ残飯、厨芥類をミキサーで粉砕しているところがありました。
理由をお聞きすると、次のようなお話しでした。
飲食店から出される動植物性残渣は事業系の一般廃棄物である。うちは地球に優しい対応を目指してリサイクルしたい。ところが、うちの町には動植物性残渣のリサイクル施設がない。数十キロ離れた違う町にはリサイクル施設がある。しかし、一般廃棄物であれば市町村毎の許可制度なので、そのリサイクル施設に搬入できる一般廃棄物処理業者がいない。そこで、一旦粉砕して「汚泥」にしている。汚泥は排出している業種を問わずに産業廃棄物になる。産業廃棄物は県の許可なので、リサイクル施設に搬入できる。
ん~、そんな苦労をかけるために産業廃棄物の種類って制度にしているんだろうか?

<さらにもう一つ自説>
現実的に時々出てくるのが「返品」です。
たとえば、ハム製造工場から製品のハムが出荷された。ところが、売れ残って賞味期限が来てしまった。
もしこれが販売店の買い取りであり、販売店が排出者となるときは、これはあきらかに排出者は販売業であり動植物性残渣の指定業種から外れますから、一般廃棄物です。
ところが、売れ残ったものは製造者が引き取るという契約になっていたり、製造過程で異物混入が判明し、回収することになり、製造工場に戻されてから排出することとなった。
たしかに排出事業者は食品製造業なんだけれど、一旦製品となった「物」は「原料として使用した」と言えるだろうか?といった疑問も出てきます。
施行通知では、「製造過程から排出された」とは言っていませんからね。ハム製造工場からハムが廃棄物となって出てくれば、これはやはり「原料として使用した」となるんでしょうかねぇ。
ハムならまだ感覚的にわかりますが、これが医薬品製造業で薬剤を想定するとどうですかねぇ。
原料としては、たしかに獣畜の肉や骨、草木の抽出液を使用して錠剤を製造した。じゃ、その錠剤が返品されたときってやっぱり動植物性残渣なんだろうか?とか。

あとは、これは廃油、汚泥の時にも触れましたが、古典的な疑問で、バターの不良品ははたして、動植物性残渣なのか、廃油なのか汚泥なのか
なかなか動植物性残渣も難しいでしょ。
まっ、この辺の疑問点は「産廃20種類」シリーズの最後に取り上げたいと思っています。
それまで、もうしばらくお付き合いしてね(^_^)b

「産業廃棄物の種類」その8<動植物性残渣>画像2

(2021年01月)

PAGE TOP