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総合判断説その2

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
さて、「物は有価物か廃棄物か」の定説となっているのは、総合判断説ですが、それをあえて点数評価してみようという妄説に前回からお付き合いいただいています。
今日は、その続きです。

2、「排出の状況」「通常の取扱い形態」「占有者の意思」について
<自説、妄説> 【総合判断説】「有害性がある物」の場合、廃棄物性は高い
 前回は「物の性状」について、有害な物は廃棄物性は強い。しかし有害であっても、正当な使用方法により活用されているときは廃棄物ではないだろう、ということを農薬やメッキの溶液を例に考えてみました。
 では、「有害性がある物」で、これが原料として大切に扱われているのではなく、たとえば、必要以上に農薬を買いすぎて、余ってしまって雨ざらしに何年間も置かれている、という状況ならどうでしょうか?
 こういった時に特に出動しなければならない項目が、「排出の状況」「通常の取扱い形態」と「占有者の意思」でしょう。まず「定説」を確認しておきましょう。

<定説>
行政処分指針から抜粋
イ 排出の状況
  排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること。
ウ 通常の取扱い形態
  製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと。
オ 占有者の意思
  客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思として、適切に利用し若しくは他者に有償譲渡する意思が認められること、又は放置若しくは処分の意思が認められないこと。

前項で提示したBUN式点数加算法を使って「廃棄物かどうか」を判断してみましょう。
 私(BUNさん)は、この項目はそれぞれ5点しか重みを置いていません。
 前回の「物の性状」とまだ説明していませんが「取引価値の有無」は40点を付けていますから、八分の一にしかなりません。
 それはなぜかと言いますと、そもそもこの総合判断説が重要視される「物」は0円近辺の「物」で廃棄物か有価物か判断に困るからこそ、このような理論が必要になっている訳です。
 3カラットのダイヤの指輪とか100万円の札束とかを見せられたときに、総合判断説を持ち出す人はまずはいません。0円近辺だからこそ総合判断説が必要になっている訳です。総合判断説を定説として確立させた事件が「おから裁判」でした。「おから」も0円近辺を行ったり来たりしているからこそ、廃棄物か有価物かで裁判になった訳ですよね。
 この「有価物か廃棄物か判断に迷う物」の一つに「リサイクル製品」があります。
 たとえば、動植物性残渣を原料として製造した「堆肥」とか、ばいじんを原料とした土壌改良材とか、コンクリート殻を原料とした再生骨材といった「物」が果たして有価物なのか廃棄物なのか?と言ったケースです。
 もし、これが社会的に見て「廃棄物だ」となれば、それをその辺にばらまく行為は不法投棄として検挙されることになってしまいます。
 時折新聞に掲載されるような事件は、悪徳業者がやっているような事案が多く、なんとなくリサイクル製品を色眼鏡で見てしまう人も居ますが、多くのリサイクル業者さんは真面目に取り組んでいます。そういう真面目なリサイクル事業であっても、リサイクル製品は、最初は「新技術」「新製品」からスタートするものがほとんどです。
 特許を取れるかどうか、といった事案も結構多いのです。
 そういったパイオニア的事業展開において、「排出が需要に沿った計画的なもの」を求めるのは酷というものでしょう。新製品には最初から需要はなく、需要は開拓するものだからです。
 また、「製品としての市場が形成されており」も同様に、それを最初からリサイクル製品に求めるのは酷でしょう。
 「占有者の意志」は、これはある意味、逆の意味でして、たいていの悪徳リサイクル業者は「自分が生産している物は有価物だ」と主張します。それをそのまま「そうですか」と重要視するわけには行きません。
 こういった理由により、私(BUNさん)は、「排出の状況」「通常の取扱い形態」「占有者の意思」の3つの要因は「5点」という軽い点数配分にしているのです。
 話は戻りますが、いくら当初は買い求めた農薬であっても、必要以上に農薬を買いすぎて、余ってしまって雨ざらしに何年間も置かれている、という状況なら、前述の行政処分指針の「排出の状況」と「占有者の意思」の項目でそれぞれ5点が明確に加算され、50点を超えることになり、「総合的に判断して物は廃棄物」と見ることが妥当のように思われます。
 次回は、総合判断説の5つの要因の最後、「取引価値の有無」について考えてみましょう。

「総合判断説」その2のまとめ
<定説>
総合判断説の要因として「排出の状況」「通常の取扱い形態」「占有者の意思」が挙げられている。
これらの要因の解説としては、行政処分指針の記載や、そもそも定説となった「おから裁判」の判決文などがある。

<妄説>
「排出の状況」「通常の取扱い形態」「占有者の意思」の3要素は、重みはあまりないのではないか。5点程度の配点でよいのでは。

(2019年09月)

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