平成30年2月20日、「気候変動適応法案」が閣議決定され、国会へ提出されました。
公布日から6カ月以内に施行されることになっています。
地球温暖化問題への対応については、温室効果ガスの排出を削減する対策を思い浮かべる方が多いことでしょう。
「気候変動への適応」という言葉を初めて聞く方も少なくないと思います。
温室効果ガスの排出削減対策(緩和策)はもちろん重要です。しかし、現在、温暖化は着実に進行しています。日本の年平均気温は、100年あたり1.19度の割合で上昇し、今後さらに上昇すると予想されています。
こうした状況の中で、すでに気候変動が米や果樹の生育、生態系に支障を及ぼし、災害・異常気象などを増加させていることが顕在化しています。
2020年からスタートする国際的な温暖化対策の枠組みである「パリ協定」では、産業革命からの気温上昇を2度に抑えることが目標となっており、さらに、努力目標として1.5度に抑えることが掲げられています。
しかし、各国の対策を集計しても、とても2度にすら抑えられないことがすでに明らかとなっています。
こうした背景を踏まえ、緩和策だけではなく、気候変動の影響による被害の緩和・軽減対策、すなわち「適応策」を法的に位置づけ、推進していくために、本法案がまとめられたのです。
気候変動適応法案は、次のとおり、国全体で気候変動適応策を実施するための4つの政策スキームを定めています。
1つ目は、「適応策の総合的推進.」です。国、地方自治体、事業者及び国民が気候変動への適応の推進のために担うべき役割を明確にしています。
事業者に対しては、「自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応に努めるとともに、国及び地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力するよう努めるものとする」と定め(5条)、いわば事業者の責務を規定しています。
また、政府が「気候変動適応計画」を定めること、環境大臣が約5年ごとに気候変動による影響の評価を行うことなども定めています。
2つ目は、「情報基盤の整備」です。国立環境研究所に対して、気候変動の影響及び適応に関する情報の収集及び提供、自治体等に対する技術的援助等の業務を行わせることを定めています。
3つ目は、「地域での適応の強化」です。都道府県や市町村に対して、地域気候変動適応計画の策定に努めることなどを求めています。
気候変動適応策についての自治体の対策の現状を見ると、条例で適応策を法的に位置づける自治体も一部には出てきましたが、まだまだ本格化していません。本法案が成立すると、この動きが活発になることが予想されます。
4つ目は、「適応の国際展開」です。気候変動への適応に関する国際協力の推進などを定めています。
また、事業者による気候変動への適応に資する事業活動の促進を図るため、国が情報提供その他の援助を行うことに努めるという規定も設けています。
本法案は、事業者に対して何らかの規制をするものではありません。法案が成立しても、直ちに事業者が何かを行わなければならないということはありません。
その意味では、省エネ法や温暖化対策推進法、フロン排出抑制法などへの対応とは異なります。
しかし、国が、こうした従来の「緩和策」だけではなく、「適応策」も政策の中心の一つに法的に位置づけたことはしっかりと認識すべきです。
その上で、自社の経営課題として、気候変動への適応が無いかどうかを精査して対策に取り組んでみるのもよいでしょう。
(2018年03月)
◎気候変動適応法案の閣議決定について(環境省)
⇒http://www.env.go.jp/press/105165.html