令和3年10月20日、化管法施行令(正式名称「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令」)の改正政令が公布されました。
本法の規制対象物質が大幅に見直される重要改正です。
化管法には、PRTRとSDSの2つの制度があります。
PRTRとは、「Pollutant Release and Transfer Register」の略で、化学物質の排出量や移動量の届出制度のことです。
一定規模以上の製造業など24の対象業種に該当する事業者は、第一種指定化学物質のいずれかを年間取扱量1トン以上の事業所がある場合、その排出量や届出量を報告する義務があります。
また、第一種指定化学物質のうち、人に対する発がん性等を有する物質として「特定第一種指定化学物質」も設定されており、この場合の届出義務については、年間取扱量1トン以上ではなく、0.5トン以上と定めています。
一方、SDSとは、「Safety Data Sheet」の略で、対象物質やそれらを含有する製品を他の事業者に譲渡・提供する場合、SDSによって、性状や取扱いに関する情報を提供することが義務付けられています。
SDSの対象物質は、第一種指定化学物質と第二種指定化学物質です。
どちらの制度も、化学物質の排出量や濃度等を抑えることを義務付けるものではないものの、PRTRでは行政への報告を、またSDSでは他の事業者への情報提供をそれぞれ義務付けており、いわば、「化学物質の見える化」を事業者に求めている制度と言えるでしょう。
このPRTRとSDSの対象物質が、最新の有害性に関する知見等に基づき、国の審議会で検討された結果、次の図表の通り、今回の改正により大きく変わることになりました。
PRTR・SDS対象物質の変化
分類 | 改正後(計649物質) | 現行(計562物質) |
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第一種指定化学物質 (PRTR、SDS) |
■462物質 ■うち、特定第一種指定化学物質は15物質 |
■515物質 ■うち、特定第一種指定化学物質は23物質 |
○改正後の対象物質の排出・移動量の把握は令和5年度から、届出は令和6年度から実施 | ||
第一種指定化学物質 (PRTR、SDS) | ■100物質 | ■134物質 |
○改正後のSDS提供は令和5年度から実施 ※令和4年度からの準備 |
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○改正日(公布日):令和3年10月20日、施行日:令和5年4月1日 ○本改正では、単純に対象物質が追加されたわけではなく、対象物質の削除、追加、移動により改正後の物質数となっていることに注意する |
まず、PRTRの対象となる第一種指定化学物質については、現在462物質が指定されていますが、これを見直し、対象物質は計515物質となります。
また、特定第一種指定化学物質については、現在15物質が指定されていますが、これを見直し、対象物質は23物質となります。
SDSのみの対象となる第二種指定化学物質については、現在100物質が指定されていますが、これを見直し、対象物質は134物質となります。
今回の改正について物質数だけで見ると、対象物質が単純に追加されたように見えますが、そうではありません。
対象物質の削除、追加、移動により改正後の物質数となっていることに注意すべきです(下記の環境省等のウェブサイトに物質一覧が掲載されているので確認できます)。
また、法改正に対応するスケジュール管理も重要です。
今回の改正の施行日は、令和5年4月1日となっています、実際の対応準備の開始日をこの日に合わせては間に合わなくなります。
PRTR制度については、改正後の対象物質の排出・移動量の把握を令和5年度から、届出は令和6年度からとなります。
ということは、令和5年4月1日からすぐに集計できるように、令和4年度から準備することが必要となります。
これは、SDS制度についても同じことが言えます。
令和5年4月1日からすぐにSDSを対象事業者に交付できるように、令和4年度から準備することが必要となります。
このように、来年度から早め早めに準備を行うことが必要ですし、企業によっては、新たな対象化学物質が一定の環境リスクがあることを踏まえ、それらを極力使用しないように社内で指示を出す動きも出ています。
過去の記事(2021年9月)でも触れたように、化学物質については労働安全衛生法でも改正の動きがあります。改めて注視すべき分野なのです。
◎「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定及び意見募集の結果について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/110089.html
(2021年12月)