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温暖化対策推進法と省エネ法、「脱炭素」促進で改正法案提出! ~「規制」ではなく「促進」。企業の対策の方向性は?

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2022年の通常国会には、温暖化対策推進法と省エネ法の改正法案がそれぞれ提出されて注目を集めています。

これらの改正の狙いは、ズバリ、2050年の脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現であり、そのために2030年までに温室効果ガスを46%削減することにあります。

ただし、これらの「改正内容がよくわからない」と戸惑う企業関係者も少なくないようです。確かに、改正法案を読んでも、自社にどのような影響を及ぼす改正なのかをすぐに理解することは難しいと思います。

2つの改正法案の概要は、次の図表の通りです。

環境法の規制対象の例

改正の対象規制対象
温暖化対策推進法 1 株式会社脱炭素化支援機構を設立し、温室効果ガスの排出削減等を行う事業活動に対し、資金供給その他の支援を行うための体制等を整備する
2 都道府県・市町村が温室効果ガスの排出の量の削減等のための計画的な施策の策定と実施のための費用を国が財政支援するための規定を整備する
省エネ法など 1 需要構造を転換するため、省エネ法を改正し、非化石エネルギーの使用合理化も法の対象に追加。特定事業者等に非化石エネルギーへの転換に関する中長期的な計画の作成を求める
2 供給構造を転換するため、高度化法、JOGMEC法、鉱業法等を改正し、再生可能エネルギーの導入促進、水素・アンモニア等の脱炭素燃料の利用促進等の措置を定める
3 安定的なエネルギー供給を確保するため、電気事業法を改正し、発電所の休廃止について事前に把握・管理し、必要な供給力確保策を講ずる時間を確保するため、発電所の休廃止について、「事後届出制」を「事前届出制」に改めるなどの措置を定める

(1)改正温暖化対策推進法案のポイント ~脱炭素への資金供給を促進
温暖化対策推進法は1年前にも改正され、法の基本理念に「脱炭素社会の実現」が掲げられましたが、今回の改正はそれも受けた、2年連続の改正法案となります。

今回の改正のポイントは、脱炭素市場を活発化させるために、民間投資の一層の誘発を図るための措置を講じるとともに、地方自治体による地域の脱炭素化施策への財政上の措置を行おうとするものです。

具体的な措置には2つあります。

1つは、財政投融資を活用した新たな出資制度に関する規定を整備することです。
脱炭素化に資する事業に「株式会社脱炭素化支援機構」が出資や債務保証、助言、調査等を行うことができるようにします。
「脱炭素化に資する事業」とは、例えば、大規模・大多数な屋根上や営農型等の太陽光発電の事業や中小水力等の地域貢献型の再生可能エネルギー事業などが想定されています。

もう1つは、都道府県や市町村が温室効果ガスの排出量の削減等のための施策を策定・実施するための費用について、国が財政上の措置を講ずるように努めるものとする規定を追加することです。

いずれの措置も、一般の事業者への規制が伴うものではなく、脱炭素化に向けたビジネスや事業に資金が振り向けられるように、国が財政措置を講じるというものです。

(2)改正省エネ法のポイント ~「非化石化」への取組みを促進
次に省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)の改正法案について解説します。
この改正法案は厳密には、省エネ法の改正だけではなく、主に次の複数の法律の改正から成るものです。

・エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)
・独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)
・鉱業法
・電気事業法

改正事項は、①需要構造の転換、②供給構造の転換、③安定的なエネルギー供給の確保の3点です。 具体的には、次の通りです。

①需要構造の転換
省エネ法は、従来は原油や石炭、天然ガスなどの「化石エネルギー」の使用の合理化に向けた対策を講じていました。
これを、改正により、化石エネルギーだけでなく、「非化石エネルギー」にも対象を拡大します。「非化石エネルギー」とは、太陽光由来の電気や、バイオマス、水素・アンモニアなどを指します。
そして、特定事業者等に対して、非化石エネルギーへの転換に関する中長期的な計画の作成等を求め、非化石エネルギーの使用割合の向上を図ります。
こうした措置の追加に伴い、法律の名称も変わり、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」となります。

②供給構造の転換
エネルギーの需給構造だけでなく、供給構造も転換させるため、高度化法、JOGMEC法、鉱業法を改正し、再生可能エネルギーの導入促進、水素・アンモニア等の脱炭素燃料の利用促進、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)の利用促進、レアアース・レアメタル等の権益確保に向けた各種措置を定めます。

③安定的なエネルギー供給の確保
電気事業法を改正し、発電所の休廃止について、「事後届出制」から「事前届出制」に改めることや、経済産業大臣と広域的運営推進機関が連携し、国全体の供給力を管理する体制を強化することにします。

以上が、温暖化対策推進法と省エネ法のそれぞれの改正法案のポイントです。

事業者の目線から見て、これら改正に共通する特徴として何があるでしょうか?
筆者は、上記(1)(2)のサブタイトルそれぞれに「促進」という用語を入れましたが、これがまさに共通の特徴だと思っています。

もう少しストレートに書くと、「脱炭素」に向けた「規制」を強化するのではなく、その方向に社会が動くように「促進」のための措置を設けたということです。

つまり、今回の改正によって事業者への規制が強化されることは原則としてありません。
省エネ法の改正によって、特定事業者等に対して非化石化に向けた計画等の提出は義務付けられるので、そうした動きを全くとらない事業者に対しての行政指導は強化されるかもしれません。しかし、これまでの省エネ法の運用状況から見て、改善命令の発出などが行われることは考えにくいと思います。

このように、今回の2法の改正はいずれも緩やかな措置の強化にとどまっています。

筆者の率直な印象としては、これら改正によって「脱炭素」が実現できるとは残念ながら思えません。
その意味では、今回の改正は、脱炭素社会に向けた長い道のりの単なる1通過地点に過ぎないのでしょう。これで規制が打ち止めとなると考えるよりは、どこかの時点で脱炭素の取組みが不十分であることが社会共通の認識となり、規制が一気に厳しくなるように思えてなりません。

事業者としては、今回の改正で一息つくのではなく、脱炭素社会における自社のリスクと機会を見据えながら、粛々と自社の事業活動における脱炭素化を強力に進めていくべきでしょう。

◎地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/110538.html

◎「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002.html

(2022年4月)

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