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「無許可」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

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今まで不法投棄、野焼きといった違反事例を見て、勉強してきた訳ですが、どうですか。
まぁ、もうだいぶ慣れてきましたから、記事を見れば、たいていの違反条項、罰則、想定される行政処分について、答えられると思いますよ。
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すごい自信ですね。「だいぶ慣れた」って言っても、廃棄物処理法は膨大な条文があるんですから、簡単なことじゃないと思いますが、・・・。まぁ、とりあえず、今回はこの記事を見ていただきましょう。
誰がどんな違反をしていますか?
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出典:2015年3月16日 循環経済新聞
ケース1 循環経済新聞切り抜き

これは「無許可」ですね。
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でも、見出しに「許可取消」って書いてありますよね。無許可業者はそもそも許可を持っていないんですから、持ってない許可は取り消せないのでは?
センセ。私を試してますね。廃棄物処理法の許可は、一般廃棄物と産業廃棄物は別物って基礎講座で教えたじゃないですか。この事件は、まさにそれで、産業廃棄物処理業の許可は持っていたけど、一般廃棄物処理業の許可は持っていない。よって、一般廃棄物処理業としては「無許可」。
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正解。さすが、5年間のキャリアは遊んでばかりいた訳じゃなかったんですね。
失礼な。パワハラで訴えますよ。さっさと解説に入って下さい。
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リサちゃんの答えどおり、一般廃棄物処理業の許可と産業廃棄物処理業の許可は全く別制度。だから、産業廃棄物の許可を持っていても一般廃棄物に関しては無許可。無許可は違反行為だから、それを理由に産業廃棄物処理業の許可を取り消したって事件です。
この不用品回収をめぐる事件は、全国的に結構ありまして、次の記事も同様の事件です。
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出典:2019年11月25日 循環経済新聞
ケース2 循環経済新聞切り抜き

どうして不用品回収にこの手の違反が多いんでしょうか?
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家庭から排出される不用品は一般廃棄物ですから、これを扱うためには一般廃棄物処理業の許可が必要になります。(市町村から委託を受けてやる時は、別の規定になるけどね。) それじゃ、一般廃棄物処理業の許可を受けてやりましょう、と思い立っても、一般廃棄物処理業の許可は産業廃棄物処理業のようには簡単におりません。
産廃処理業の許可取得もそれなりに大変だと思うのですが、もっと大変なんですか。
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はい。「大変」と言うよりも、制度上、相当制限があり、申請者の努力でなんとかなるってものじゃないんですね。
どんなことでしょうか?
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それを知るためにも今回の違反条項を確認していきましょう。
えーと、2つめの記事には出ていますね。第7条第1項って。

(一般廃棄物処理業)
第七条 一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、一般廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその一般廃棄物を運搬する場合に限る。)、専ら再生利用の目的となる一般廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。

一般廃棄物の処理を業として行うには市町村長の許可が必要ってことですね。で、どうして「大変」なんでしょうか?
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この第5項を見て下さい。

5 市町村長は、第一項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること。
二 その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
三 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
四 申請者が次のいずれにも該当しないこと。

3号、4号は産業廃棄物処理業の許可にも求められている事項ですが、1号、2号は一般廃棄物処理業独特の規定なんです。
どれどれ?えーと、「市町村による処理が困難」であることと「一般廃棄物処理計画に適合」が許可の際に求められているってことですか。たしかに、これは申請者個人の努力では如何ともしがたい要件ですね。
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はい。許可をする方の市町村側の要因ですから。これに合致する市町村でなければ一般廃棄物処理業の許可は「しない」ってことなんです。なお、この話は「土日で入門、廃棄物処理法」に詳しく書いておいたので、参考にしてね。
と言うことで、違反条文は第7条第1項の一般廃棄物収集運搬無許可営業。
じゃ、次のステップ。罰則は?
これは知ってるわ。無許可は不法投棄と並んで廃棄物処理法では最も重い罪なんですよね。よって、第25条。えっと、第1号かな。

第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第七条第一項若しくは第六項、第十四条第一項若しくは第六項又は第十四条の四第一項若しくは第六項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行つた者

最高刑懲役5年ね。
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正解。じゃ、続けて次のステップ。想定される行政処分は?
廃棄物処理法の行政処分は「許可」と「環境」2つの視点で検討すればよかったんですよね。
まず、「許可」は1つ目、2つ目の事件ともに「許可取消」ですね。「環境」の方は、改善命令と措置命令だけど、どちらも記事には出てませんね。と言うことは、「生活環境保全上の支障」はそれほど出ていない事案ってことだったんでしょうかねぇ。2つとも「無し」ということで。
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たぶん、正解だと思います。ただ、この事件ではなかったようですが、全国的には回収した廃家電を大量に放置して措置命令を受けた事案もあるようです。
ちなみに、ですが、廃家電については平成29年の改正で第17条の2「有害使用済機器」という規定が出来て、いくら有価物であっても保管する時には届出が必要であったり、保管基準が適用になるという制度ができています。
今回は簡単でしたね。「取れ高足りない」んじゃないですか?(^o^)
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じゃ、お言葉なので、次の事件についても考えてみて。なお、マニフェストの違反については、改めて取り上げることにしますから、そこは今回はスルーしてください。
「無許可」画像3

出典:2019年11月18日 循環経済新聞
ケース3 循環経済新聞切り抜き

「無許可」画像4

出典:2019年5月6日 循環経済新聞
ケース4 循環経済新聞切り抜き

この2つはどちらも「積替保管の許可を受けていなかった」っていうことで「無許可」とされたんですね。思い出しました。収集運搬業の許可は「積替保管あり」と「積替保管なし」とあって、たしか、この「積替保管」というのは、変更許可の対象なんですよね。
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正解です。廃棄物処理業の許可には「事業の範囲」というものがあります。どんな行為について許可しているか、いわば許可そのものですね。この事業の範囲を変更する時には原則的に「変更許可」を受けなければなりません。
基礎知識で習ったわ。「事業の範囲」とは産廃の種類と処理の方法。収集運搬の場合は積替保管の有無、でしたね。
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はい。この2つの事件は収集運搬業の許可は持っていたけど、「積替保管なし」の許可だったのに、積替保管をやっちゃった。だから、正確に言えば「無許可変更」ですね。
じゃ、この「無許可変更」の違反条項は?
へへへ、旦那。それは2つ目の記事に書いてありますぜ。第14条の2第1項かな。

(変更の許可等)
第十四条の二 産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者は、その産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、その変更が事業の一部の廃止であるときは、この限りでない。
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「無許可」画像5

図1 積替保管のイメージ

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急に品が悪くなっちゃったけど正解。罰則は?
無許可だから多分第25条よね。第3号。

三 第七条の二第一項、第十四条の二第一項又は第十四条の五第一項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業を行つた者
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続けて、想定される行政処分は?
これも既に記事にあるとおり「許可」に関しては「取消」。「環境」に関しては、どちらも記載していないので改善命令、措置命令ともに「無し」かな。
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はい、多分そうだと思いますが、こういった事案も大量に保管していて「生活環境保全上の支障」が出ていたケースでは、改善命令、措置命令の対象になったケースもあったよ。
調子が出てきているようなので、今日はもう一つ。これはどうだろう?
「無許可」画像6

出典:2019年4月15日 循環経済新聞
ケース5 循環経済新聞切り抜き

「無許可」画像7

出典:2016年9月19日 循環経済新聞
ケース6 循環経済新聞切り抜き

「無許可」画像8

出典:2018年10月22日 循環経済新聞
ケース7 循環経済新聞切り抜き

これもケース3、ケース4の記事と同じく「積替保管なし」で「積替保管」をやっちゃった違反でしょ。どこが違うの?
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さすがのリサちゃんもわからないか。難しいよね。記事に書いてある違反条項を見てみて。
ケース6、ケース7の記事には書いてないけど、5つ目の記事には「第14条第6項」って書いてあるわね。たしかに条項が違ってる。

(産業廃棄物処理業)
第十四条
6 産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその産業廃棄物を処分する場合に限る。)、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの処分を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。
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そうだね。この5つ目の違反は収集運搬業の許可しか持っていないのに「処分」、おそらく「破砕」とか「圧縮」「切断」とかの中間処理行為をやっていたんだろうね。
そうかぁ。収集運搬業と処分業の許可は別物でしたね。それで無許可かぁ。
でも、6つ目、7つ目は4つ目、5つ目と同じ「積替保管あり、なし」の違反じゃないの?
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これはねぇ、A県とB県の違い、県と政令市の許可権限の違いのために違反条項が違ってくる例だね。
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図2 収集運搬業の許可。原則積み卸しをする都道府県。政令市内で積替保管をする時は政令市の許可。

「政令市」って、「廃棄物処理法の政令で定める市」のことでしたよね。たしか、たいていの中核市以上は廃棄物処理法「政令市」になっていて、処分業の許可と収集運搬業の積替保管を政令市内でやる時は政令市の許可が必要。そうかぁ。高松市は香川県内だけど政令市なんだ。とすると、高松市の許可が必要だから、「変更許可」ではなく、「新規許可」が必要だったってことね。6つ目の記事は埼玉県では許可を取っていたけど、栃木県では取っていなかったってことかぁ。
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そのとおりだね。じゃ、今回のまとめをしておこうか。

1.廃棄物処理業の許可は、一般廃棄物、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物は別許可。
2.収集運搬業と処分業も別許可。
3.許可権限者(都道府県、市町村)毎に別許可。
4.廃棄物処理法政令市内で処分業、収集運搬業の積替保管をやる時は政令市の許可。
5.一般廃棄物処理業無許可は第7条違反。(収集運搬と処分業では別条項)
6.産業廃棄物処理業無許可は第14条違反。(収集運搬、処分、特管産廃毎に別条項)
7.無許可は罰則25条。無許可変更も罰則25条。
8.想定される行政処分は「許可」については、許可業者であれば「取消」「事業停止」。
9.「環境」についての行政処分、改善命令、措置命令はその事案の「基準の逸脱」「生活環境保全上の支障」の程度による。
簡単、基礎知識と思っていた「業許可」も、実際の違反事例では、なかなか難しい判断もあるんですね。じゃ、またね。
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(2021年08月)

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