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工場緑地が「自然共生サイト」へ!?~陸・海の自然30%を保護する「30 by 30」目標とは?

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

「気候変動」と並び、「生物多様性」は重大な環境問題であるはずなのですが、企業実務の中でこれが話題に上ることはあまりないようです。

しかし、生物多様性に関する2020年目標を定めた愛知目標の目標未達が目立つ中、2022年12月にはカナダで新たな生物多様性に関する国際目標が設定されようとしています。
今後、その重要性への認識は格段に高まっていくことでしょう。

そうした中で、2022年5月27日、環境省は、「自然共生サイト」(仮称)の仕組みを試行することを発表しました。
この取組みは、2023年度からスタートする自然共生サイトの認定制度の構築・運用のために、その審査プロセスを検証し、課題を探るためのものです。

自然共生サイトとは、生物多様性の保全に貢献する場所として環境省が認定するものです。

認定の仕組みは次のようなものです。
まず、企業や団体、個人、自治体などが、自ら管理する土地で生物多様性の保全に貢献する場所について、環境省に認定申請を行います。
専門家が認定基準に基づきそれを評価し、認定されると「自然共生サイト」となります。

環境省のパンフレットを見ると、具体的な対象となる場所のイメージとしては、企業の水源の森、ビオトープ、里地里山、森林施業地、企業敷地や都市の緑地、研究や環境教育の森林、河川敷などが提示されています。
企業にとっても、関わりの深い場所が想定されているのです。

こうした取組みは、法規制によって義務付けるものではないので、企業が参画するか否かは任意です。これに参画する企業のメリットとしては、「30 by 30」目標の達成に自社が貢献しているとPRできることにあるのでしょう。

「30 by 30」は、「サーティ・バイ・サーティ」と読みます。
これは、最近、国際機関や環境省などが積極的に提唱しているものですが、まだ一般に浸透しているものではありません。その概要は、次の図表の通りです。

「30 by 30」目標の概要

目標 ○「サーティ・バイ・サーティ」と読む。
2030年までに、陸と海の30%以上を保全する国際的な目標のこと。
経緯 ○従来の生物多様性の世界目標である「愛知目標」の後継となる目標が、2022年12月に開催予定のCOP15(カナダ・モントリオール)で採択される予定。
○「30 by 30」目標は、2030年に向けたこの具体的な目標の一つして検討。
日本の現状 ○日本では、陸域20.5%と海域13.3%を保護地域として保全。「30 by 30」目標達成に向けたハードルは高い
日本の対策 ○国立公園等の保護地域を拡張し、管理の質も向上させる。
○企業有林や里地里山など保護地域以外の生物多様性保全に貢献している場所を環境省が
自然共生サイト(仮称)として認定し、「30 by 30」目標に組み込んでいく。

出典:環境省パンフレットをもとに作成

「30 by 30」目標とは、2030年までに、陸と海の30%以上を保全する国際的な目標のことです。

現在、愛知目標の後継となる目標の検討が進められ、2022年12月に開催のCOP15(カナダ・モントリオール)で採択される予定です。
「30by30」目標は、2030年に向けたこの具体的な目標の一つして検討されているのです。

陸も海も30%以上を保護地域として保全しようとする新たな国際目標案に照らして日本の現状を見ると、決して楽観できるものではありません。
日本では、陸域20.5%と海域13.3%を保護地域として保全しているにすぎないのです。

ちなみに、「愛知目標」では2020年までに陸域17%、海域10%を保全することが掲げられていました。日本では、陸域は20.3%で既に愛知目標を達成していたものの(その後、20.5%)、海域は8.3%にとどまっていました。
そこで2020年に「沖合海底自然環境保全地域」という制度をつくり、小笠原方面を新たに指定しました。それでも、現在海域の保護区域は13.3%となっています。

「30 by 30」目標が正式に採択されると、陸も海もまだまだ目標到達までのハードルが高いことになります。

そこで登場した対策のひとつが「自然共生サイト」なのです。
日本政府としては、国立公園等の保護地域を拡張するとともに、企業有林や里地里山など保護地域以外の生物多様性保全に貢献している場所を環境省が自然共生サイト(仮称)として認定し、「30 by 30」目標に組み込んでいくことにしたのです。

ちなみに、従来の目標であった愛知目標の中の陸域と海域を守る目標には、その達成手段として、法令に基づく保護地域ではなく、「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域」も示されていました。これをOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)と言います。

今回の自然共生サイトの制度において、認定された地域は、保護地域を除き、OECMの地域として正式に登録され、「30 by 30」の目標に含まれてくることになります。

社内外から生物多様性保全に向けた取組みを求められつつ、どのように対応してよいかわからないと悩む企業が少なくありません。

製造業であれば、製品や製造工程のプロセスの中で生物多様性に貢献することを見つけるなど、本業の中で対応することが重要なのは言うまでもありません。
ただ、それとは別に、自社の敷地を見渡しながら、「30 by 30」に関連した取組みができないかどうかという視点を持つことも大切でしょう。

◎自然共生サイト(仮称)の仕組みの試行について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/111067.html

◎自然環境部会 生物多様性国家戦略小委員会(第5回) 議事次第・配付資料(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/council/12nature/page_00007.html

(2022年7月)

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