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東京都など、気候変動対策強化で条例改正へ!~新築住宅に太陽光パネル義務化へ

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2022年前半、すでに本連載でもお伝えしている通り、省エネ法や建築物省エネ法などが相次いで改正されました(➡省エネ法改正などの記事建築物省エネ法改正の記事)。

気候変動に関する法規制の強化が続いているわけですが、環境法動向を追う際には、国の動きだけでなく、地方自治体の動きにも気をつけておきたいものです。

公害問題が多発してきた時代から、わが国の環境法は、国が常に率先して制定してきたというよりも、むしろ自治体が新たな規制に向けて牽引してきたからです。

今回も、気候変動の分野において同じような動きが出てきています。

■東京都は2030年、「カーボンハーフ」(50%削減)

2022年8月8日、東京都の環境審議会は、「東京都環境基本計画のありかたについて」という答申を行いました。
そこでは、2050年において「ゼロエミッション東京」を実現し、世界の「CO2排出実質ゼロ」に貢献することを掲げるとともに、2030年には次の3点を目指すべきと指摘しました。

 ①都内温室効果ガス排出量(2000年比) 50%削減(カーボンハーフ)
 ②都内エネルギー消費量(2000年比) 50%削減
 ③再生可能エネルギーによる電力利用割合 50%程度(中間目標:2026年30%程度)

例えば、上記①の現在の目標値は30%削減ですので、大幅な目標値の上積みとなります(ちなみに国の場合は、2030年目標は2013年度比で46%削減です)。

こうした、新たな厳しい目標設定を踏まえ、同日、都の審議会は、東京都環境確保条例の改正に関する答申も行い、大きな注目を浴びました。その概要は、次の図表の通りです。

東京都環境審議会の環境確保条例改正案の概要

基本的考え方 2050年脱炭素2030年カーボンハーフに向けた制度強化
新築建物への規制強化 新築2000㎡以上 ■建築物環境計画書制度の拡充【強化・拡充】
・太陽光発電設備等の設置義務、ZEV充電設備最低基準(義務基準)の新設、断熱・省エネ性能の最低基準(義務基準)を国基準以上に強化(マンション等の住宅を含む)
新築2000㎡未満 ■住宅等の一定の中小新築建物への新制度【新設】
年間都内供給総延床面積が合計2万㎡以上の住宅供給事業者等を対象に、
太陽光発電設備等の設置義務※、ZEV充電設備整備基準(義務基準)の新設、断熱・省エネ性能の基準(義務基準)を国基準以上に設定
・断熱・省エネ性能等の誘導基準も併せて導入し、積極的に取り組む事業者を後押し 等

※一定量の太陽光発電設備の設置について、日照などの立地条件や住宅の形状等を考慮しながら、事業者単位で設置基準の達成を求める仕組み
東京キャップ&トレード制度
【強化・拡充】
・カーボンハーフを見据えた削減義務率の設定
再エネ利用に係る目標設定・取組状況等の報告・公表の義務付け
地球温暖化対策報告書制度
【強化・拡充】
・都による2030年に向けて取り組むべき省エネ・再エネ利用に係る目標となる達成水準の提示、事業者の報告書による達成状況の報告・公表の義務付け
地域エネルギー有効利用計画制度【強化・拡充】
 ・ゼロエミ地区創出に向け、早い段階での開発事業者による脱炭素化方針の策定・公表など
エネルギー環境計画書制度【強化・拡充】
 ・電気供給事業者への都目標を踏まえた2030年目標の設定、再エネ電力割合の実績報告等の公表の義務化など

出典:東京都資料をもとに作成

■元々厳しい東京都の規制

都の気候変動対策は、元々、国内でも群を抜いて厳しいものです。最大の規制は、「東京キャップ&トレード制度」です。

この制度のポイントを一言で言うと「総量規制」です。都内約1200の事業所に対して、温室効果ガス排出量の削減率を定め、排出量の削減を義務付けています。減らせない場合は、他の事業所等が削減した分を買い取り、削減した形をとります。
EUや米国の一部の州などでは導入されている制度ですが、日本では、東京都と埼玉県を除き、国も自治体も導入していません。

こうして、従来から厳しい規制を講じてきた東京都でしたが、今回の答申では、更に踏み込んだ規制強化を打ち出しました。

■太陽光パネル設置義務化へ

すでに多数の報道がされている通り、改正案で最も注目される規制強化は、「太陽光パネルの設置義務化」でしょう。

まず、新築される建築物で延べ床面積が2000㎡以上の場合、太陽光発電設備等の設置を義務付けることを求めました。住宅の場合であれば、事実上、大規模なマンションが対象となります。

また、ZEV充電設備最低基準を新設し、これを義務化します。
ZEVとは、「ゼロエミッション・ビークル」の略です。電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)のことです。
EV等の充電設備の設置を義務付けたわけです。

さらに、新築される建築物で延床面積が2000㎡未満の場合についても、太陽光発電設備等の設置を義務付けています。

義務付けの対象は、都内において年間で供給総延床面積が2万㎡以上の「住宅供給事業者等」です。
これらハウスメーカーなどに対して、太陽光発電設備等の設置を義務づけます。

具体的には、一定量の太陽光発電設備の設置について、日照などの立地条件や住宅の形状等を考慮しながら、個々の住宅ごとに設置基準の達成を求めるのではなく、メーカーごとに設置基準の達成を求める仕組みにするということです。

また、ZEV充電設備整備基準を新設したり、断熱・省エネ性能の基準を国基準以上に設定したりすることも提示され、その基準遵守を求めていきます。

なお、こうした中小規模の建築物への太陽光発電設備の設置義務化について、「一戸建て住宅を建てようとするときは、太陽光パネルを必ず設置しないと条例で罰せられる。」などという見解がSNSなどで流されたようです。

しかし、前述したように、答申では、あくまでも大規模なハウスメーカーに対して義務付けているにすぎないので、小規模なハウスメーカーや自宅を新築しようとする個人を義務付けるわけではなく、SNSなどで見られる上記のような見解は誤りです。

■気候変動対策、自治体動向にも注視を

条例改正案は、このほかにも東京キャップ&トレード制度の強化・拡充などの規制強化も盛り込んでいます。

こうした条例改正案については、一部に反対意見もあるために、今後、都議会で成立するかどうか不透明感も残ります。
しかし、今回紹介した住宅への太陽光パネル設置義務化の動きは、東京都だけではありません。
神奈川県川崎市は、都と似た制度を温暖化対策推進条例に盛り込もうとする案を提示しています。

多少の紆余曲折はあるにせよ、今後、自治体の気候変動対策が強化されていくのは間違いありません。

◎都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について 東京都環境審議会 答申(東京都)
⇒ https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/news/2022/202208/2022080802.html

◎川崎市環境審議会脱炭素化部会について(川崎市)
⇒ https://www.city.kawasaki.jp/300/page/0000140745.html

(2022年8月)

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