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労働安全衛生法、新化学物質規制が始動へ!~対象物質拡大、化学物質管理者など新制度も

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

労働安全衛生法の化学物質規制が変わろうとしています。
これは、法律の改正ではなく、政令や規則などの改正によるものですが、規制の枠組み全体が変わろうとしているので十分な注意が必要です。

改正のポイントについて、厚生労働者は化学物質対策を、規制から「自律的管理」に移行させるものであると述べています。(自律的管理を提案した過去の報告書の概要については、「労働安全衛生法の化学物質規制が抜本改正へ!」参照)

一言で言えばそのような改正になるとは思いつつ、筆者の感覚で言えば、「管理対象となる化学物質を大幅に拡充させる改正(一定の管理水準に達した場合のみ規制緩和となる改正)」であると考えています。

本改正は、今のところ、令和4年2月24日公布の労働安全衛生法施行令等の改正と、5月31日公布の労働安全衛生規則等の改正、9月7日公布の関連告示から成っています。

改正の概要は、次の図表の通りです。

改正労働安全衛生法施行令等の概要

労働安全衛生法施行令関係 〇ラベル表示・SDS交付・リスクアセスの義務対象物質の追加  (令和6年4月1日施行)
  • ・ラベル表示、安全データシート(SDS)等による通知とリスクアセスメント実施の義務の対象となる物質に、国によるGHS分類の結果、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで比較的強い有害性が確認された234物質を追加
  • ・ただし、令和6年4月1日時点で現存するものには、令和7年3月31日までの間、安衛法第57条第1項のラベル表示義務の規定は適用されない。
  • ・今後も、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質を順次追加する。
労働安全衛生規則関係 (1)化学物質管理者等の選任義務(令和6年4月1日施行)
  • ・リスクアセスメントが義務付けられている化学物質の製造、取扱い又は譲渡提供を行う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、化学物質の管理に係る技術的事項を担当させる等の事業場における化学物質に関する管理体制を強化する。
  • ・ただし、令和6年4月1日時点で現存するものには、令和7年3月31日までの間、安衛法第57条第1項のラベル表示義務の規定は適用されない。事業場ごとに選任。リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合、専門的講習の修了者を選任する(リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場の場合、資格要件なし)。
  • ・(以上とは別に)リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場では、保護具着用管理責任者を選任する。
(2)SDS規制の強化(令和5年4月1日等施行)
  • ・SDS等の通知事項である「人体に及ぼす作用」の内容の定期的な確認・見直しをする(5年以内に1回確認、変更がある場合は確認後1年以内に更新、変更したときはSDS通知先に通知)。
  • ・通知事項に「 (譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途における使用上の注意」を追加する(令和6年4月1日施行)。
  • ・ラベル表示対象物を、他の容器に移し替えて保管する場合なども、ラベル表示・文書の交付その他の方法で、内容物の名称や危険性・有害性情報を伝達する。
  • ・SDS等による通知の義務対象物の製造・取扱設備の改造、修理、清掃等の仕事を外注する注文者は、化学物質の危険性と有害性、作業において注意すべき事項、安全確保措置等を記載した文書を交付しなければならない。
(3)事業者による化学物質の自律的な管理体制の整備(令和5年4月1日等施行)
  • ・代替物等の使用など、事業者が自ら選択して講ずるばく露措置により、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にする
  • ・一部物質については厚生労働大臣が定める濃度基準以下とする。(令和6年4月1日施行)
  • ・皮膚又は眼に障害を与える化学物質を取り扱う際に労働者に適切な保護具を使用させる。(令和6年4月1日施行)
(4)衛生委員会の付議事項の追加(令和5年4月1日等施行)
  • ・衛生委員会において労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置などの調査審議を行う。
(5)雇入れ時等の教育の拡充(令和6年4月1日施行)
  • ・危険性・有害性のある化学物質を製造し、または取り扱う全ての事業場で、化学物質の安全衛生に関する必要な教育を行う (特定の業種で一部免除が認められていたが、これを廃止)。
(6)リスクアセスメント結果等の記録と保存(令和5年4月1日施行)
  • ・リスクアセスメントの結果と健康障害を防止するための措置の内容等は、関係労働者に周知し、記録を作成し、次のリスクアセスメント実施までの期間(ただし、最低3年間保存する。
有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、粉じん障害防止規則関係 (1)化学物質管理の水準が一定以上の事業場に対する個別規制の適用除外(令和5年4月1日施行)
  • ・化学物質管理の水準が一定以上であると所轄都道府県労働局長が認定した事業場は、その認定に関する特別規則(特定化学物質障害予防規則等)について個別規制の適用を除外し、特別規則の適用物質の管理を、事業者による自律的な管理(リスクアセスメントに基づく管理)に委ねることがで きる。
2)作業環境測定結果が第三管理区分の事業場に対する作業環境の改善措置の強化(令和6年4月1日施行)
  • ・作業環境測定の評価結果が第3管理区分に区分された場合、作業環境の改善の可否と、改善できる場合の改善方策について、外部の作業環境管理専門家の意見を聴く。
  • ・改善しない場合、呼吸用保護具によるばく露防止対策を徹底する(半年以内に1回の濃度測定などの義務もあり)。
(3)特殊健康診断の実施頻度の緩和(令和5年4月1日施行)
  • ・有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されている場合には、事業者は、その実施頻度(通常は6月以内ごとに1回)を1年以内ごとに1回に緩和できる。

今回の改正はたいへん広範囲な規制内容の変更ということになります。
また、それぞれの規制の施行日が異なっている点に特に注意して、対応方法を検討すべきでしょう。

■労働安全衛生法施行令の改正
労働安全衛生法施行令の改正では、ラベル表示・SDS交付・リスクアセスの義務対象物質が大幅に追加される点が注目されます。

現在700物質にも達していない対象物質が、本改正により234物質も追加されます。
しかも、今後も、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質を順次追加する姿勢を国は明確にしています。

■労働安全衛生規則の改正
労働安全衛生規則の改正では、「化学物質管理者」による管理体制の整備が追加されることになりました。
リスクアセスメントが義務付けられている化学物質の製造、取扱い又は譲渡提供を行う事業場ごとに、化学物質管理者を選任するというものです。
リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合、化学物質管理者になるには、専門的講習を修了させる必要があります。

SDS規制も強化されます。
SDS等の通知事項である「人体に及ぼす作用」の内容の定期的な確認・見直しをすることになりました。「定期的」とは5年以内に1回の確認を指し、変更がある場合は確認後1年以内に更新、変更したときはSDS通知先に通知するものとされています。

代替物等の使用など、事業者が自ら選択して講ずるばく露措置により、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にするという事業者による化学物質の自律的な管理体制の整備も行われます。

さらに衛生委員会の役割も大きくなります。
衛生委員会への付議事項として、労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置などの調査審議を行うことも追加されます。

リスクアセスメントの結果と健康障害を防止するための措置の内容等は、関係労働者に周知し、記録を作成し、次のリスクアセスメント実施までの期間(ただし、最低3年間)保存することも義務付けられます。

■有機則、特化則等の改正
有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則などの各種規則の改正も行われました。
その最大の改正は、化学物質管理の水準が一定以上の事業場に対する個別規制の適用除外です。

各種規則の規制が適用除外されるということなので、これは規制緩和です。
化学物質管理の水準が一定以上であると所轄都道府県労働局長が認定した事業場は、その認定に関する特別規則(特定化学物質障害予防規則等)について個別規制の適用を除外し、特別規則の適用物質の管理を、事業者による自律的な管理(リスクアセスメントに基づく管理)に委ねることができます。

一方、規制の強化もあります。
作業環境測定の評価結果が第3管理区分に区分された場合、作業環境の改善の可否と、改善できる場合の改善方策について、外部の作業環境管理専門家の意見を聴かなければなりません。
改善しない場合、呼吸用保護具によるばく露防止対策を徹底することが求められます。半年以内に1回の濃度測定などの義務もあります。

以上の内容が今回の改正のポイントです。詳細を知りたい場合は、以下の厚生労働省ウェブサイトで確認するとよいでしょう。

冒頭で述べたように、今回の改正は、改正事項が膨大にあり、かつ、多くの企業、すなわち各種規則の適用除外の認定を受ける予定のない企業にとっては、規制強化につながる改正です。
「自律的管理」だからと言って安易に規制緩和の改正と考えるべきではありません。施行までに十分な準備作業が求められています。

◎化学物質による労働災害防止のための新たな規制について ~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~(厚生労働省)
⇒  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html

(2022年10月)

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