大栄環境グループ

JP / EN

改正化管法指針、化学物質による災害対策を新設! ~東京都指針は、水害による化学物質流出対策も

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

最近、化学物質対策の強化が続いています。
本連載の前号では、2023年4月から本格的にスタートする労働安全衛生法の化学物質規制の大幅強化について解説しました(2022年10月「労働安全衛生法、新化学物質規制が始動へ!」)。
また、やはり2023年4月からスタートする化管法における対象化学物質見直しの改正についても以前に取り上げました(2021年12月「PRTRとSDSの対象物質を大幅改訂!」)。

これらはいずれも重要な規制強化です。おそらくこれら規制を知らないまま、又は何も対応しないままでいると、2023年度を迎えた時点で法令違反に陥る事業者が少なくないと思われます。十分注意してほしいものです。

2022年11月4日、これら改正に加えて、化管法の指針が改正されました。これは、同日施行のものです。ここでは、上記改正とは別に、災害対策を化学物質全体の対策の中に組み入れた点で注目されています。

最近、大規模な地震や記録的な豪雨などが頻発し、それに伴い災害も頻発するようになりました。
筆者は、環境コンサルタントの仕事をして20年が過ぎましたが、訪問する企業の工場や事業所が災害に巻き込まれる事例が年々増えてきていることを実感しています。
そうした災害によって、工場等の施設等が破損し、化学物質が外部に流出したり、地下に浸透したりする事故も少なくありません。

こうした状況と対策の必要性については、国の審議会においても認識しており、2019年6月には、「今後の化学物質環境対策の在り方について(答申)」(中央環境審議会)にて、指定化学物質等取扱事業者と地方自治体との連携や、災害による被害防止に係る指定化学物質等取扱事業者の平時からの取組みを進める必要がある旨が取りまとめられていました。

今回の化管法の改正は、こうした動きを踏まえたものです。改正の概要は、次の図表の通りです。

改正化学物質管理指針における化学物質の災害対策

●改正指針の名称
「指定化学物質等取扱事業者が講ずべき第一種指定化学物質等及び第二種指定化学物質等の管理に係る措置に関する指針」

●施行日
 2022年11月4日
■指針の位置づけ
  • ・化管法(正式名称「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」)第3条に定める。
    ➡・主務大臣が「指定化学物質等」(PRTR+SDS対象物質等)の管理に係る措置に関する指針を定める。
  • ・本法第4条では、指定化学物質等取扱事業者(PRTR+SDS義務対象の事業者)は、化学物質管理指針に留意して、指定化学物質等の製造、使用その他の取扱い等に係る管理を行うよう努めるものとされている。
■改正指針の概要
①地方自治体との連携
  •  指定化学物質等取扱事業者は、事業所における指定化学物質等の管理の状況について、所轄の地方自治体に適切な情報の提供を行うよう努める。
②災害による被害の防止に係る平時からの取組み
  •  指定化学物質等取扱事業者は、災害発生時における指定化学物質等の漏えいを未然に防止するため、具体的な方策を検討し、平時から必要な措置を講ずる。

■国の化管法の改正指針の概要
今回改正された指針の正式名称は、「指定化学物質等取扱事業者が講ずべき第一種指定化学物質等及び第二種指定化学物質等の管理に係る措置に関する指針」(2000年3月30日環境庁、通商産業省告示第1号)というものです。

これは、化管法(正式名称「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」)第3条を根拠に定められている指針です。
本法第3条では、主務大臣が「指定化学物質等」(PRTR+SDS対象物質等)の管理に係る措置に関する指針を定めることにしています。

本法第4条では、「指定化学物質等取扱事業者」に対して、化学物質管理指針に留意して、指定化学物質等の製造、使用その他の取扱い等に係る管理を行うよう努めることを定めています。

「努める」となっているので、この条文は義務規定ではなく、努力義務規定です。違反したら直ちに罰則が適用されることもありません。とはいえ、指針の内容を理解してできる限り対応すべき要請があると考えるべきです。
また、「指定化学物質等取扱事業者」とは、PRTRと(化管法における)SDSの義務対象の事業者を指します。

こうした指針が改正されました。改正点は2つです。

一つは、地方自治体との連携が提示されたことです。
指定化学物質等取扱事業者は、事業所における指定化学物質等の管理の状況について、所轄の地方自治体に適切な情報の提供を行うよう努めることとされました。

もう一つは、災害による被害の防止に係る平時からの取組みについて規定されました。
指定化学物質等取扱事業者は、災害発生時における指定化学物質等の漏えいを未然に防止するため、具体的な方策を検討し、平時から必要な措置を講ずるものとされました。

■東京都の指針改正における水害による化学物質対策とは
化管法の改正指針の概要は上記の通り、かなり内容があいまいです。
こうした指針改正を踏まえて、事業者が何をすればよいのかわからず、判断に悩む担当者も多いことでしょう。

この点について、東京都が、国の法令改正とは別に、都の環境確保条例に基づき定めている東京都化学物質適正管理指針について、2020年11月4日に改正したものが参考になると思います(この改正指針は2021年4月1日に施行済)。

都の改正指針では、近年増加している大型台風等に伴う水害等による工場等からの化学物質の流出事故に着目しています。
こうした流出事故を防止し、周辺環境を保全するために指針を改正したのです。

都の改正指針では、具体的に、次のようなフローで対象事業者に水害時の化学物質対策を求めています。

①事業所が所在する地域のハザードマップを参照し、被害想定を確認する。
②事業所内への浸水防止や化学物質の流出防止について対策等を実施するとともに、浸水、土砂流入、強風等の負荷に耐える設備の整備に努める。
③タンク・容器に内容物である化学物質の名称及び有害性を表示する。
④平時・水害等の発災直前・直後の対応を時系列に沿って整理した防災行動計画を整備する。

このうち、例えば②の浸水時の化学物質流出対策について、皆さんの事業所ではどのように対応しているでしょうか。

改正指針を解説するパンフレットでは、取り組みやすい対策例として、容器をチェーン等で固定しておくことや高所へ移動させることを示しています。
また、設備改修による対策例として、設備をかさ上げすることを示しています。
さらに、浸水時の化学物質流出量を減らすために、容器を密閉したり、薬液層のふたを閉めたりすることを示しています。

いずれも、世間から見れば日ごろから対応しておくべき当たり前のことかもしれません。
しかし、筆者の実感からすれば、これらの対策をしていない事業所がいかに多いことか。
流出事故を起こした事業所に何度か訪問したことがあります。どの事業所でも「まさかこんな水害が起こるとは思っていなかった。」と口をそろえていました。

気候変動の影響により、こうした水害を含む災害が増えています。
今回の改正指針をきっかけに、改めて化学物質の災害対策を見直してみてはいかがでしょうか。

◎「指定化学物質等取扱事業者が講ずべき第一種指定化学物質等及び第二種指定化学物質等の管理に係る措置に関する指針の一部を改正する告示」の公布について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/press_00770.html
◎化学物質を取り扱う事業者の災害対策について(東京都)
⇒ https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/chemical/disaster.html

(2022年11月)

PAGE TOP