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GX推進法案が国会提出! ~脱炭素へ移行債とカーボンプライシングを導入へ

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2023年2月10日、GX推進法案が閣議決定され、国会へ提出されました。

「GX」とは、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換することを言う「グリーン・トランスフォーメーション」の略語となります。
また、法案の正式名称は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」です。

法案は、同じ日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に掲げられた政策を実施していくうえで、法定すべき事項を定めています。
基本方針では、脱炭素とともに、ロシアによるウクライナ侵略を受けたエネルギー安定供給の確保と経済成長の同時実現のために、①徹底した省エネ、再生可能エネルギーや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などを図ることや、②「GX経済移行債」、「カーボンプライシング」などから成る「成長志向型カーボンプライシング構想」を実現することを示しています。
これらの実現のためには、今後10年間で150兆円を超える官民の投資が必要とされています。

法案は、こうした枠組みを定めるものであり、その概要は、次の図表の通りです。施行日は、公布日から3カ月以内などです。

GX推進法の概要

正式名称「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」
今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資(2022年5月総理表明)を実現するための制度の整備
GX推進戦略の策定 ○政府は、GXを総合的かつ計画的に推進するための戦略を策定
GX経済移行債の発行 ○政府は、GX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援
○2023年度から10年間、GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行
成長志向型カーボンプライシングの導入
  • 炭素排出に値付け
  • ○【化石燃料の輸入事業者等】2028年度から輸入等する化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じて、化石燃料賦課金を徴収
  • ○【発電事業者】2033年度から一部有償で二酸化炭素の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた特定事業者負担金を徴収
GX推進機構の設立
  • ○経済産業大臣の認可により、GX推進機構を設立
  • ○GX推進機構は、民間企業のGX投資の支援、化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収、排出量取引制度(特定事業者排出枠の割当て・入札等)等を実施
進捗評価と必要な見直し
  • ○必要な見直し
  • ○化石燃料賦課金や排出量取引制度に関する詳細の制度設計について、排出枠取引制度の本格的な稼働のための具体的な方策を含めて検討し、この法律の施行後2年以内に必要な法制上の措置を行う

法案では、まず政府に対して、GX推進戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)を策定することを求めています。

すでに大きく報道されているように、基本方針では、徹底した省エネの推進や再生可能エネルギーの主力電源化とともに、原子力の積極的な活用(原子力発電所の敷地内における次世代革新炉への建て替えの具体化、一定条件下における60年を超える追加運転延長など)も掲げられました。
GX推進戦略は、こうした措置を含む、総合的かつ計画的に推進するための戦略となります。

次に法案は、政府が、GX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するため、2023年度から10年間、GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行することを定めています。
今後10年間で20兆円規模が予定され、エネルギー・原材料の脱炭素化と収益性向上等に資する革新的な技術開発・設備投資等を支援するそうです。

さらに、「成長志向型カーボンプライシング」が導入されます。
これは、具体的には、次の2つの制度を導入することにより、炭素排出に値付けをします。
一つは、炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)の導入です。2028年度から、化石燃料の輸入事業者等に対して、輸入等する化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じて、化石燃料賦課金を徴収することになります。
もう一つは、排出量取引制度です。2033年度から、発電事業者に対して、一部有償で二酸化炭素の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた特定事業者負担金を徴収することになります。具体的な有償の排出枠の割当てや単価は、入札方式により決定されます。
賦課金や排出量取引制度は、過去何度も制度整備の議論が行われてきたものの、見送られてきたものです。かなり先のことになりますが、この法案によりようやく整備されることになりました。

一方、経済産業大臣の認可により、GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)が設立されます。これは、①民間企業のGX投資支援(債務保証などの金融支援など)、②化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収、③排出量取引制度の運営などを業務とする組織です。

こうしたGXに向けた脱炭素投資の動きは、日本だけではありません。すでにEU(欧州連合)は10 年間に官民協調で約140兆円程度の投資実現を目標とした支援策を定めています。米国では、超党派でのインフラ投資法に加え、2022年には 10 年間で約50兆円程度の国による対策を定めています。
今回の法案は、いわば「脱炭素」を基軸とした、エネルギーの安定供給と経済発展を巡る国際社会の動きに対して、日本も本格的に入っていくための制度整備のためのものとも言えるでしょう。

今年4月からは、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を求める改正省エネ法が施行されます。今回の法案によって、化石エネルギーからの脱却に向けた動きはますます激しくなることは必至です。
さらに、基本方針では原子力の活用が提唱されているものの、既設の原子力発電所の運転延長や敷地内での新規原子力発電所の設置には世論の厳しい目があることを踏まえれば、今まで以上に再生可能エネルギーの活用が求められることでしょう。

個々の企業には、法案と基本方針に散りばめられた様々な施策を読み解きながら、自社のGXを検討していくことが求められています。

◎「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004.html

(2023年2月)

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