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気候変動適応法を改正、熱中症対策の強化へ! ~地球温暖化の現象として極端な高温に備える

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

「気候変動適応法」をご存じでしょうか?

一般に「気候変動」の対策と言うと、地球温暖化対策、つまり温室効果ガスの排出削減対策を思い浮かべる方が多いことでしょう。こうした排出削減対策は「緩和策」とも呼ばれます。
しかし、本法は「気候変動」への「適応」を目指す法律です。気候変動の影響による被害の回避や軽減を行う対策、すなわち「適応策」を講じるものです。

本法は2018年に制定されました。地球温暖化の中で、日本の気温上昇も著しく、年平均気温は、100年あたり1.19度の割合で上昇しています。
それに伴い、豪雨の増加、強力な台風の発生数の増加、サンゴの白化など、気候変動の影響が顕在化してきたために、緩和策だけではもはや不十分であり、適応策も講じなければならなくなったために、本法は制定されたと言えるでしょう。

本法に基づき、国が気候変動適応計画を策定しています。気候変動影響評価を5年ごとに行い、その結果等を勘案して計画を改定することになっています。また、気候変動適応の情報基盤の中核として国立環境研究所を位置づけ、情報基盤を整備しました。都道府県や市区町村が地域気候変動適応計画を策定するように促す努力義務規定もあります。
このように、気候変動適応に向けた対策の枠組みを定めた法律となっています。なお、本法では、事業者に何らかの規制措置を定めてはいません。後述するように、事業者の責務規定が設けられています。

2023年2月28日、本法の改正案が閣議決定され、国会へ提出されました。その概要は、次の図表の通りです。

改正気候変動適応法等の概要

今後起こり得る極端な高温も見据え、熱中症の発生の予防を強化するための仕組みを創設
①熱中症対策実行計画の策定 現状:政府の熱中症に関する計画があるものの、法律上の位置づけが無い。
➡●熱中症対策実行計画として法定の閣議決定計画に格上げする。
②熱中症特別警戒情報の発表及び周知 現状:熱中症警戒アラートがあるものの、法律上の位置づけが無い。
➡●熱中症警戒情報として法律に位置づける
 ●より深刻な健康被害が発生し得る極端な高温時に備え、新たに一段上の熱中症特別警戒情報を創設する。
③クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)の創設 公民館など、冷房設備を有する等の要件を満たす施設を「クーリングシェルター」(指定暑熱避難施設)として市町村長が新たに指定できるようにする。
熱中症特別警戒情報の発表期間中、指定暑熱避難施設が一般に開放され、暑さをしのげる場を確保する。
④熱中症対策普及団体の指定 熱中症対策の普及啓発等に取り組むNPOといった民間団体等を熱中症対策普及団体として市町村長が、新たに指定できるようにする。
⑤その他 独立行政法人環境再生保全機構の業務として、熱中症警戒情報等の発表の前提となる情報の整理・分析等の業務や、地域における熱中症対策の推進に関する情報の収集・提供等の業務を追加する。
施行日:①は公布の日から1カ月以内で政令で定める日。それ以外は1年以内で政令で定める日

改正法案の正式名称は、「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律案」です。

毎年、夏になると熱中症の話題が必ず出ます。その被害は年々深刻化していき、年間数千人を超える年も頻発するようになりました。これは驚くことに、自然災害による死亡者数をはるかに上回っているそうです。
この熱中症の増加は、まさに気候変動の影響です。このまま放っておけば、今後の地球温暖化の進行も踏まえると、極端な高温の発生リスクはますます増加するでしょうし、熱中症の被害が更に拡大することが心配されています。

そこで、改正法案では、気候変動適応法の中に、熱中症の発生の予防を強化するための仕組みを創設することを決めたのです。

まず、本法の中で、国が熱中症対策実行計画を策定することにしました。従来からこうした計画はあったものの、法令上の位置づけが曖昧であったために、実効性に欠けていたので、これを改めたのです。

同様に、これまで法令上の位置づけが無かった「熱中症警戒アラート」を「熱中症警戒情報」として本法の中に位置付けることにしました。さらに、より深刻な健康被害が発生し得る極端な高温を想定し、「熱中症警戒情報」よりも強い「熱中症特別警戒情報」を創設することになりました。

また、「クーリングシェルター」の制度も創設することになりました。これは、法的には「指定暑熱避難施設」と呼ばれ、公民館など、冷房設備を有する等の要件を満たす施設が該当することになります。市町村長が「指定暑熱避難施設」として指定すると、熱中症特別警戒情報の発表期間中はその施設は一般に開放され、暑さをしのげる場となります。

以上の通り、改正法案は、気候変動の影響が深刻化する中で、熱中症対策もいよいよ気候変動適応対策の重要なひとつになったことを示しています。

本法第5条では、「事業者は、自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応に努めるとともに、国及び地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力するよう努めるものとする。」と定められています。

全国の工場や事業所では、熱中症のリスクがある施設等が少なくありません。
熱中症対策を労働安全衛生対策として継続することはもちろんですが、気候変動対策としても位置づけ直し、対策が不足している箇所がないかどうか再点検していくとよいでしょう。

◎気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律案の閣議決定について(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/press_01231.html

(2023年3月)

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