大栄環境グループ

JP / EN

GX推進法とGX脱炭素電源法が成立! ~脱炭素の施策は何処へ?

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

2023年5月、脱炭素(カーボンニュートラル)に関連して2つの大きな法案が国会で成立しました。

一つは、GX推進法。正式名称は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」です。本法は、成立し、5月19日に公布されています。
もう一つは、GX脱炭素電源法。正式名称は、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」です。本法は6月1日に国会で成立しました。

いずれも、巨大な法律であり、個々の企業にどのような影響を与えるのか分かりかねている企業担当者も多いようです。今回は、この2つの法のポイントをまとめておきましょう。

まず、「GX」という用語に戸惑っている方も少なくないでしょう。

「GX」とは、「Green Transformation」の略語です。海外で使われる用語ではなく、日本政府が編み出した和製英語のようです。化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換することを指しています。

2023年2月10日に、「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、脱炭素のための省エネ徹底や再生可能エネルギーの主力電源化、原子力や水素・アンモニアの活用とともに、「成長志向型カーボンプライシング構想」などが打ち出されました。
この基本方針を踏まえた施策を具体化するため、今回の2法がまとめられたわけです。

これら2法の概要は、次の図表の通りです。

GX推進法とGX脱炭素電源法のポイント

法令名 概要
GX推進法 ■正式名称:「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」
  • 政府は、GXを総合的かつ計画的に推進するための戦略を策定・実行する。
  • 政府は、GX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するため、2023年度から10年間、GX経済移行債を発行する。
  • 成長志向型カーボンプライシングの導入し、炭素排出に値付けをすることで、GX関連製品・事業の付加価値の向上を図る。
  • 経済産業大臣の認可により、GX推進機構を設立し、民間企業のGX投資の支援等を行う。
  • 化石燃料賦課金や排出量取引制度を検討し、法律施行後2年以内に、必要な法制上の措置を行う。
GX脱炭素電源法 ■正式名称:「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」
※次の法律を改正する。
 ○電気事業法
 ○再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)
 ○原子力基本法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)
 ○原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)

①再生可能エネルギーを最大限導入する。
 ・再エネ導入に資する系統整備のための環境整備(電気事業法・再エネ特措法)
 ・既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進(再エネ特措法)
 ・地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化(再エネ特措法)

②安全確保を大前提に、原子力を活用し、廃炉を推進する。
 ・原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
 ・高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(炉規法)
 ・原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
 ・円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理法)

まず、これら2法については、個々の企業の事業活動を直ちに規制するものではありません。ただし、今後のわが国における脱炭素施策の方向性に大きなインパクトを与えるものであることは、知っておいたほうがよいでしょう。

GX推進法のポイントは、「成長志向型カーボンプライシングの導入」です。
これは、事業者が排出する二酸化炭素に値付けをすることにより、GX関連製品や事業の付加価値の向上を図ろうというものです。

具体的には、2つの措置からなります。
一つは、化石燃料賦課金の導入です。2028年度から、化石燃料の輸入事業者等に対して、輸入等する化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じて、化石燃料賦課金を徴収する予定になっています。「賦課金」とは、事実上の税金です。
もう一つは、排出量取引制度の導入です。2033年度から、発電事業者に対して、一部有償で二酸化炭素の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた特定事業者負担金を徴収する予定になっています。

いずれも、二酸化炭素に価格が付けられることにより、その排出抑制にインセンティブを与え、その抑制を促すことを狙っています。
ただし、これに実効性を持たせられるかどうかについては、制度の詳細次第です。本法では、今後、化石燃料賦課金や排出量取引制度を検討し、法律施行後2年以内に、必要な法制上の措置を行うことになっています。

ちなみに、排出量取引制度については、既に東京都と埼玉県が導入しています。
都の場合、都内の個々の大規模排出事業所に対して二酸化炭素排出量の上限を定め、それを超える場合は他の事業所の削減分を購入することを求めており、違反した場合は措置命令等の厳しい措置が定められています。
本法における排出量取引制度は、事業者の自主性を尊重するものとされているので、その実効性が問われることになるでしょう。

もう一つの法律である脱炭素電源法とは、いわゆる「束ね法案」と言われるものであり、複数の改正法案を一つの法案にまとめたものです。
実際には、電気事業法、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(再エネ特措法)、原子力基本法、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(炉規法)、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」(再処理法)などの法改正から成ります。

改正事項も多岐にわたり、再生可能エネルギーの導入促進のために、系統整備や既存再エネの追加投資促進、再エネ違反事業者への返還命令などの措置が追加されました。

しかし、最大の改正ポイントは、原子力の利用を促進するために、原子力発電の運転期間を延長したことでしょう。
2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故により、これまで原子力発電の運転期間は、原則として40年であり、最長60年とされてきました。

今回の法改正では、安定供給の確保やGXへの貢献などの観点から経済産業大臣が認可した場合については、運転期間の延長を最長60年とする枠組みを維持しつつも、原発の運転停止期間を運転期間から除外することにしました。
例えば、運転停止期間が10年あれば、最長70年の運転期間の延長が認められることになります。

脱炭素電源法の成立により、脱炭素の実現に向けて原子力発電の役割が前面に打ち出されることになりました。
ただし、福島での原発事故から12年経ったものの、その収束と復興がいまだに見えてこない中で、原発の再稼働を含む利活用について、世論がすんなりと受け入れるとも思えません。

欧米を中心とする国際社会では、今後の脱炭素の施策の方向性としては、再生可能エネルギーの普及で大きく一致していると思います。
これに対して、わが国は、今回のGX推進法と脱炭素電源法が鮮明に示したように、実現可能性が必ずしも見通せない、それ以外の施策も打ち出しています。また再生可能エネルギー普及策についても制度の詳細によっては普及に至らない可能性もあります。

今後の「選択肢を増やす選択」をしたと言えるでしょう。
一方、予算は限られています。「選択と集中」から離れていくことになったとも言えるでしょう。
これが吉と出るか凶と出るか。しばらくは目が離せない状況が続きます。

◎「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました」(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004.html

◎「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230228005/20230228005.html

(2023年7月)

PAGE TOP