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「脱炭素」へ条例制定・改正が続々! ~自治体規制強化が国の規制強化へつながる?

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

現在、「脱炭素」(カーボンニュートラル)に向けた法改正が相次ぎ、本欄でも何度かその改正動向を取り上げています。
最近も、GX推進法やGX脱炭素電源法について紹介しましたが(「GX推進法とGX脱炭素電源法が成立! ~脱炭素の施策は何処へ?」参照)、いずれの改正も個別企業に対して具体的な対応を直ちに促すような措置を定めたものではありません。

しかし、東京都が太陽光パネルの設置義務化の条例改正をしたように(「東京都など、気候変動対策強化で条例改正へ!~新築住宅に太陽光パネル義務化へ」参照)、各地の地方自治体において、新たな規制強化の動きが続々とあるので、自治体の条例動向に注意が必要です。
今号では、自治体の気候変動対策強化の動きを取り上げておきましょう。

最近の脱炭素に関する主な新条例や改正条例は、次の図表の通りです。

脱炭素に関する主な新条例や改正条例

自治体 概要
■長野県 長野県脱炭素社会づくり条例を制定(R2.10公布・施行)。2050年度までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目標に据える。
■京都市 温暖化対策条例改正(R2.12公布、R3.4施行)。1000㎡以上の事業所にエネルギー報告書の提出を義務付ける。
■岐阜県 温暖化防止・気候変動適応基本条例を改正(R3.3公布、4、R4.4施行)。提出された事業者削減計画に対して県が内容を評価する制度を新設した。
■横浜市 脱炭素社会推進条例を制定(R3.6施行)。再生可能エネルギーの地産地消など、脱炭素社会の形成の推進に関する施策の基本となる事項を定めた。
■群馬県 ぐんま5つのゼロ宣言実現条例を制定(R4.3公布、R5.4全面施行)。一定規模の新築等について再生可能エネルギーの導入を義務づける。
■滋賀県 CO2ネットゼロ社会づくり条例を制定(R4.3公布、4施行)。事業者行動計画に再生可能エネルギー導入計画を追加した。
■東京都 東京都環境確保条例を改正(R4.12公布、R6.4、R7.4施行)。大手ハウスメーカーに太陽光発電の設置義務を課す。
■北海道 北海道地球温暖化防止対策条例を改正(通称:ゼロカーボン北海道推進条例)(R5.3公布、4施行)。特定事業者に排出量や再生可能エネルギー導入量の目標等の報告も義務付ける。
■栃木県 栃木県カーボンニュートラル実現条例を制定(R5.3公布、4施行)。カーボンニュートラルを明記した。

まず、過去数年の間にこれだけの条例が制定・改正されていることに驚かされます。
全般的には、脱炭素社会を目指すという目標を提示し、関係者の責務を定めるという理念型の条例が多いと思われます。

ちなみに、「脱炭素」の用語の他にも、似たような表現として、「ゼロカーボン」や「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」などの用語があり、混乱する方もいるかもしれません。
しかし、これらはいずれも、「2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスでゼロにする」という意味で使われていると覚えておけばよいでしょう。

ただし、それだけでもありません。
条例の中には再生可能エネルギーの導入促進を目指して、事業者に具体的な取組みを求めるものもあります。

群馬県の「二千五十年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例」は、地球温暖化防止条例を廃止して、新たに制定されたものです。これまで整備されていた制度に加えて、新たに定められた制度もあります。
義務規定は多岐にわたり、排出量削減計画等提出・公表制度、自動車環境計画等提出・公表制度、自動車通勤環境配慮計画等提出・公表制度、特定建築物排出量削減計画等提出・公表制度、特定建築物再生可能エネルギー設備等導入計画等提出・公表制度などがあります。

中でも、2023年4月に施行された、特定建築物への再生可能エネルギー設備の導入義務は大きな注目を集めています。
延べ床面積で2000㎡以上の建築物を新築、増築又は改築しようとする者は「特定建築主」とされ、特定建築物排出量削減計画及び特定建築物再生可能エネルギー設備等導入計画の提出が義務付けられています。

これに加えて、2023年4月からは、特定建築主に対して、再生可能エネルギー設備の導入が義務付けられました。

再生可能エネルギー設備の種別としては、太陽光発電設備、風力発電設備、小水力発電設備、地中熱利用設備、太陽熱利用設備、バイオマス発熱設備、バイオマス発電設備などがあります。
特定建築物に導入すべき再生可能エネルギー設備から得られる熱及び電気の量については、「1年当たり 60 メガジュールに当該特定建築物の床面積(増築又は改築の場合にあっては、増築又は改築に係る部分に限る)の合計の平方メートルで表した数値を乗じて得た量以上」とされました。

なお、建築面積が 150 ㎡未満の場合など、導入義務の例外も定められています。

条例には、特定建築主が提出した計画や報告や公表され、また計画等を提出しなかった場合には勧告や公表の規定もあります。

現在、国の法令において、再生可能エネルギー設備の導入そのものを義務付けたものはありません。
こうした制度が自治体で広がっていけば、やがては国の制度に影響を及ぼすことでしょう。
気候変動対策は、国の動きだけでなく、自治体の動きにも引き続き注視すべきです。

◎「2050年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例について」(群馬県)
⇒ https://www.pref.gunma.jp/page/6605.html

(2023年10月)

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