あるプラスチック成型加工を行うメーカーの工場を訪問し、現場を巡回しているときのことです。
集塵機やコンプレッサーなど、環境法に関連しそうな設備に関する届出状況を確認したところ、いくつもの届出漏れが見つかりました。
それぞれの経緯はいろいろとあったのですが、根本的な原因を突き詰めていくと、どうやら、設備を導入する際の法適用有無のチェック手順が機能していないことにありました。
この会社では、ISO14001を認証取得しており、年1回、各部門において環境側面の見直し手順がありました。また、大きな設備変更をする場合の環境側面の臨時見直しの手順もありました。これら手順が書かれた文書を読むと、設備を導入する際の法適用の有無のチェックも手順化されていました。
しかし、届出漏れがあった設備の設置経緯を見ると、これら手順に沿ったチェックが全く行われていなかったのです。
実は、こうした失敗は少なくありません。
筆者の実感としては、ISO14001を認証している企業でも、数社に1社は、大なり小なり、こうした失敗を経験したことがあるのではないでしょうか。
おそらく、ISOを含む環境マネジメントシステム(EMS)を運用していない企業の場合、その比率は更に高まるはずです。
次の図表では、設備導入時のチェック手順を構築・運用する際のポイントをまとめてみました。いわば"チェック手順のチェックリスト"です。
設備導入時のチェック手順のチェックリスト
チェックリスト | 留意点 |
---|---|
□設備導入時に適用法令の有無をチェックする手順をつくる <例> ○ISO14001の環境側面の臨時見直し規定を活かす。 ○本業の手順として既に存在する検討組織の検討項目に環境法の項目を追加する。 |
○側面の見直し作業が終了しなければ、設備を導入できなくするなど、本業に確実に関与できる仕組みにする。 ○環境部局のメンバーが参画するなど、検討組織での検討に実効性を持たせる。 |
□対象設備の情報を把握する <例> ○決裁文書に、設備業者等からのヒアリング等の結果を添付させる。 |
○ヒアリングやカタログから、どのような法規制の適用がありうるのかを把握する |
□検討した法規制を明確にする <例> ○決裁文書に、どの法律、どの条例を検討したかどうかのリストを添付させる。 |
○すべて非該当だとしても、該当しそうな法律の項目に非該当であることの理由を書かせることにより、実効性を担保できる。 |
□責任・権限を明確にする <例> ○検討した組織への提出文書の承認者、その組織での最終承認者を明確にする。 |
○部門横断的な組織での検討は、責任・権限が不明確になりやすいので、問題が生じた際の責任の所存をあらかじめ明確にしておく。 |
□記録を保存し、活用する <例> ○電子データにて記録を保存し、数年度の再度の検討でも活用できるようにする。 |
○設備の導入は頻繁には生じにくいので、毎回ゼロからの検討とならないように工夫する。 |
まず、新たに設備を導入するときなど、これまでと異なる又は追加される事象が発生した場合、適用法令の有無をチェックする手順をつくることが肝要です。
どの企業においても、新たな設備等を購入しようとするとき、それが事業にプラスになるのか、コストは問題ないかなどを検討する手順が何らかの形であるはずです。
そこに、環境法の適用有無の手順も追加するのです。
具体的には、ISO14001の環境側面の臨時見直し規定を活かす方法もあるでしょうし、本業の手順として既に存在する検討組織の検討項目に環境法の項目を追加する方法もあるでしょう。
チェックの手順を設けることが第一歩ですが、その際にこの検討手順が形骸化しないかどうかも確認すべきです。
環境法の適用有無の検討を行わなければ設備等の購入ができないようなルールをつくったり、そうした検討ができる力量を持った人をメンバーに加えたりするなどの方策が必要でしょう。
検討を形骸化させないことと関連しますが、対象設備の情報把握や検討した法規制の明確化も必要です。
決裁文書の片隅に「□環境法の適用を確認」というチェック項目があっても、本当に確認したのかどうかはっきりしません。決裁文書にどの法律、どの条例を検討したかどうかのリストを添付するくらいの対応は必要と思われます。
さらに、設備の導入は頻繁に生じるものではありません。毎回、ゼロからの検討にならないように、過去の決裁文書を検索しやすいようにしておくことも重要です。
これは、何か特別なデータベースをつくるべきと言っているわけではありません。
各決裁文書に法律名や法令上の設備名(例えば、製品名だけでなく、「ボイラー」や「圧縮機」など法令でよく出てくる用語など)も入れておき、フォルダ内で容易に検索できるようにしておけば、私は十分だと考えます。
一つひとつの対応はとても地味なものです。
しかし、変化をしっかり把握し、検討できる場ができることで、法令違反を格段と減らすことができます。
(2022年09月)