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気候変動対策の法令には「先回り」の対応が必須

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 中堅の金属加工会社は、省エネ法の特定事業者です。
 社長がSDGsの推進に熱心であり、数年前には、「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、会社のウェブサイトにも掲げていました。

 その後、ISO14001の審査を受けた際、審査員から次のように言われたそうです。

 「御社は、省エネ法の特定事業者として、中長期の省エネ計画を国に提出していますね。でも、その中身を見ても、その活動を続ければ2050年にカーボンニュートラルを実現できるようなプロセスが示されていません。そうしたプロセスを社内で検討されていますか?」

 担当部長は、カーボンニュートラルを宣言したものの、その実現プロセスについて議論していなかったので、何も答えられませんでした。

 多くの大企業が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、事業活動に伴う脱炭素に向けた取組みを始めています。中には、「スコープ3」を含めたカーボンニュートラルの取組みをしている企業もあります。
 スコープ3とは、燃料の燃焼などの直接排出を指すスコープ1や供給された電気などのスコープ2を除く、それら以外の間接排出を指します。上流の原材料や輸送配送、下流の製品の使用や廃棄など幅広いものを対象としたものです。

 そうした中で、徐々に中小企業にもカーボンニュートラルの動きが広がってきているようですが、冒頭の事例のように、目標の設定と法に基づく実施事項がチグハグであることが散見されます。

 気候変動対策に関する法規制が強化されてきている中で、次の図表のように、法対応で注意すべき点がいくつもあります。

気候変動対策の法令対応のチェックポイント

チェックポイント解説
□自社の将来像を描く
<例>
  • 長期目標2050年)を設定する。
  • 中期目標2030年、2035年)を設定する。
  • ○当面の目標(2025年等)を設定する。
  • ○特に気候変動の分野では、気候変動の悪化を踏まえ、長期目標を設定し、その達成のためのプロセスを明確にし、現在の取組みを決める「バックキャスティング」の手法が一般的。
  • ○目先の目標達成活動に終始しない。
□省エネ法の中長期計画を策定する
<例>
  • ○会社の長期目標を見据えた計画を策定する。
  • ○2023年度施行の改正法に基づく、非化石エネルギーへの転換の中長期計画についても、会社の長期目標を見据えた内容とする。
  • ○省エネ法の中長期計画を策定する際は、会社が設定した長期目標に沿った内容にする。
□法改正動向を見極め、強化される規制よりも先を目指す
<例>
  • 国の法改正の動向を整理し、先を見越した投資を含め、先進的な気候変動対策を描き、実施する。
  • ○上記の動向整理の際には、自治体の条例改正の動向も加味する。
  • ○気候変動対策の法改正動向は極めて激しい。法規制ギリギリの対応をしていると、規制強化された場合に対応できなかったり、大幅な設備投資等を強いられたりするリスクがある。動向を見極めた対応が望ましい。

 まず、目先の目標設定に終始し、将来的な自社の気候変動対策を描いていなかったり、逆に、「2050年カーボンニュートラル」など、自社の将来像を公表しているもののそのためのプロセスがはっきりしていなかったりすることがありますが、これは改善が必要でしょう。

 例えば、長期目標(2050年)や中期目標(2030年、2035年)を設定し、そのためのプロセスを描くべきです。そのための当面の目標(2025年等)を設定することなどが考えられます。

 一般に、長期目標を設定し、その達成のためのプロセスを明確にし、現在の取組みを決める手法を「バックキャスティング」といいます。気候変動の分野では、気候変動の悪化を踏まえ、この手法を採用して取り組む企業が少なくありません。

 もちろん、中小企業にとって10年先、30年先の経営状況を描くのは簡単なことではありませんし、不確実性が多々あることでしょう。
 しかし、自社の将来像を設定し、そのためのプロセスを描くことは、自社の企業価値の維持・向上につながることになります。できるところから踏み込むべきです。

 これと関連し、自社が省エネ法の特定事業者であるのであれば、省エネ法の中長期計画にも自社の長期目標を反映させた内容とし、そのプロセスを明確に示すべきでしょう。

 2023年4月からは、改正省エネ法に基づき、省エネの中長期計画だけでなく、非化石エネルギーへの転換の中長期計画についても策定することが義務付けられました。この点にも留意が必要です。

 さらに、法改正動向を見極め、強化される規制よりも先を目指す姿勢も重要です。法規制ギリギリの対応をしていると、規制が強化されたときの追加投資が求められることになるからです。

 例えば、かつて省エネ法により建築物の省エネが規制された頃は、延べ床面積2000㎡以上の建築物の新築等を行う際の届出が義務付けられて、その後、対象面積が拡大されていきました。
 ところが、2017年には、建築物省エネ法が施行され、2000㎡以上の非住宅建築物の新築等には省エネ基準適合が義務付けられたのです。
 その後、段階的に規制対象が広がり、2025年にはついに全ての建築物の新築等に省エネ基準適合義務が課されることになります。
 こうした急激な変化に対して、後追いで対応すると事業リスクにつながりかねないのです。

 気候変動対策は、自治体の動きも激しいと言えます。
 最近でも、2023年4月に改正北海道地球温暖化対策条例や山形県脱炭素社会づくり条例が相次いで施行され、脱炭素の動きが強まっています。
 その意味で、国の法改正動向だけでなく、自治体の条例改正動向にも目を配るべきでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2023年06月)

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