ゴム製品を製造する工場を訪れたときのことです。
建屋の角にドラム缶が置いてあったのですが、特に表示も無く、一見したところ中身がわかりませんでした。蓋を開けると、ドロリとした液体が半分くらい入っています。
「これは何ですか?」と聞くと、「たぶん〇〇部が仮置きしているものだと思います」と回答がありました。
しかし、いつから仮置きしているのかを調べてもらうと、はっきりしません。ドラム缶が満杯になったら産業廃棄物収集運搬業者に連絡し、この場所に収集しに来てもらっているようでした。
さらに、ドラム缶が置いてある場所は、砂利の上であり、よく見ると、黒っぽい液体が砂利に染み出しているように見えました。
「ここは、産廃の保管場所に該当するでしょう。廃棄物処理法の定める掲示板がありませんし、廃液が地下浸透しているおそれもあるようなので、産業廃棄物保管基準に違反していると思いますよ」と筆者が述べると、責任者の方は次のように述べていました。
「ここは、仮置き場です。廃棄物処理法上の産廃の保管場は、工場の北側に設置しているものだから、ここは該当しません。」
以上のやり取りについて、読者のみなさんはどのように考えられますか。
実は、こうしたやり取りは、筆者の経験で申し上げると、決して珍しいものではありません。今回は、この「仮置き場」の管理方法について整理しておきましょう。
次の図表にて、廃棄物処理法の産業廃棄物保管基準(産廃保管基準)と、筆者が考える「仮置き場」の管理方法をまとめてみました。
産業廃棄物保管基準と「仮置き場」の管理方法
廃棄物処理法 産業廃棄物保管基準 |
●事業者は、運搬されるまでの間、産廃保管基準に従い、生活環境の保全上支障のないように産廃を保管しなければならない。(法第12条2項) ●産廃保管基準の概要(則第8条) ○周囲に囲いを設ける(荷重があるときは構造耐力上安全であるもの) ○見やすい箇所に60㎝以上の掲示板を設け、次に掲げる事項を表示する
・産廃の保管の場所である旨
○保管の場所から産廃が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように次に掲げる措置を講ずること。・保管する産廃の種類(その産廃に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨を含む。) ・保管の場所の管理者の氏名又は名称及び連絡先 ・屋外において容器を用いずに保管する場合、最高の高さ
・産廃の保管に伴い汚水が生ずるおそれがある場合、当該汚水による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために必要な排水溝その他の設備を設けるとともに、底面を不浸透性の材料で覆うこと。
○保管の場所には、ねずみが生息し、及び蚊、はえその他の害虫が発生しないようにすること。・屋外において産廃を容器を用いずに保管する場合、次の上限を超えないこと ○産廃が囲いに接しない場合:囲いの下端から勾配50% ○産廃が構造耐力上安全な囲いに接する場合:囲いの内側2mまで囲いの上端より50㎝、2m以上内側2m線から勾配50% ・その他必要な措置 ○石綿含有産業廃棄物:他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設ける等必要な措置を講ずること。覆いを設けること、梱包すること等石綿含有産業廃棄物の飛散の防止のために必要な措置を講ずること。 ○水銀使用製品産業廃棄物:他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設ける等必要な措置を講ずること。 ※特別管理産業廃棄物を保管する場合、上記とは別に、仕切りを設けるなどの措置が必要 |
「仮置き場」の管理方法(考え方) |
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廃棄物処理法第12条2項では、「2 事業者は、その産業廃棄物が運搬されるまでの間、環境省令で定める技術上の基準(以下「産業廃棄物保管基準」という。)に従い、生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければならない。」と定めています。
具体的には、廃棄物処理法施行規則第8条により、周囲に囲いを設けること、見やすい箇所に60㎝以上の所定事項が書かれた掲示板を設けること、産廃が飛散・流出・地下浸透・悪臭発散がされないようにすることなどをしないようにすることなどを定められています。
一方、企業実務の現場でよく使われる用語である「仮置き場」とは何でしょうか?
実は、廃棄物処理法では、「仮置き場」という用語は登場しません。細かな通知等には出てくるのかもしれませんが、筆者は見たことがありません。
一般に、工場等において短期間の間に物を置いておく行為はよく見られます。
例えば、製造ラインで発生する物をライン脇にしばらく置いておき、たまったら産廃保管場に運ぶというケースなどです。
こうしたライン脇に置かれている物は、どの時点で産廃になるのでしょうか?
筆者の考えでは、まず、少なくてもその物の置き場所に産廃処理業者が直接収集に来ている場合は、そこは産廃保管場と考えるべきだと思います。
まさに、本法12条2項の通り、「その産業廃棄物が運搬されるまでの間」、その場に保管しているのですから、これを産廃保管場ではないと言うには相当の根拠を提示する必要があるでしょう。
また、工場内に「仮置き場」を設ける場合は、「産廃保管場」との区分の基準を明確にすべきです。
例えば、製造ラインの脇などに当日のみ物を置くスペースについては「仮置き場」とし、複数日以上、物を置き、後日、産廃保管場に運ぶ場合については、その場は産廃保管場と位置付けることなどが考えられます。
企業によっては、「最終的に産廃処理業者が収集に来る場所のみを産廃保管場とすればよい」という考え方をとるところもあります。
これも一つの考え方ではありますが、だからと言って、例えば、その場所に運ぶ前に保管している場所において飛散・流出等のトラブルが生じた場合、行政当局に対してそこは産廃保管場ではないと言い切れるものでしょうか。筆者には疑問です。
さらに、「仮置き場」の概念を認める場合であっても、不適正処理とならないように、管理手順を明確に定めるべきです。
例えば、表示ルールの徹底(品名、管理者名、仮置き期間の明示等)、環境汚染防止措置の徹底(産廃並みの飛散、流出、地下浸透防止措置等)などが必要です。
ある企業では、「仮置き場」において乱雑に物を保管するトラブルを踏まえ、「仮置き場」を一切認めず、すべての不要な物(その候補を含む)を保管する場を「産廃保管場」として管理するルールを定めていることがありました。
自分たちにとって価値の低い物を保管する場合は、「仮置き場」という名の下に、管理を疎かにすることは避けるべきです。
「環境汚染の防止」という環境法の理念に立ち返り、「汚染が生じるおそれがないか」という点から対応方法を検討すべきだと筆者は思っています。
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html
(2023年08月)