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公害規制、改正チェック漏れを想定した手順をつくる

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ある機械メーカーの工場を訪れたときのことです。
 創業50年を超える企業であり、建屋の建て替えも検討課題になっている工場でしたので、「アスベスト(石綿)が建材などに含有していないかどうか調査をしていますか?」と質問したところ、次のような回答がありました。

 「既に20年前に調査をして、見つかったアスベストはすべて撤去しています。工場にはもうアスベストはありません。」

 筆者は不安になり、「〇〇さんが言うアスベストとは、レベル2を含んでいますか?また、レベル3はおそらくあると思いますよ。」とコメントし、調査をお願いしました。

 後日、ご担当者から連絡があり、配管にレベル2のアスベストが使用されていたということでした。工場を再訪した際に、その場所を見せてもらったところ、配管を覆っていたテープが破けており、中からアスベストがむき出しになっていました。

 アスベストを吸い込むと深刻な健康被害を生じることがあり、上記のようなことは、本来的には、労働安全衛生法の石綿障害防止規則10条1項に基づき、除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じることが義務付けられているものです。
 しかし、こうした問題を時折見かけることもあります。その原因は、法改正が生じた際にしっかりと対策を講じてこなかったことにあると言えるでしょう。

 大気汚染防止法のアスベスト規制は、次の図表のように、過去に何度も改正され、その規制が強化されてきたために、その都度、法改正に伴う対応を行う必要がありました。

 「法改正に伴う対応」は、おそらく2種類に分類できます。その都度、法的な義務に対応することと、現在は法的な義務ではないが将来違反につながらないように対応することです。図表では「■:法的な義務」と「▲:リスク回避のために工事発注者として対応すべきこと」で表現してみました。

大気汚染防止法のアスベスト規制の経緯と企業の対応方法

大気汚染防止法のアスベスト(石綿)規制の経緯
(解体工事関係)
企業の対応方法
【凡例】
■:法的な義務
▲:リスク回避のために工事発注者として対応すべきこと
改正年 改正概要
1996年 吹付けアスベスト(レベル1)が使用された建築物の一定規模以上の解体等工事の届出や作業基準の遵守等を義務付け :元請業者等は、解体等工事の際に、レベル1のアスベストの有無を調査し、含有している場合は、届出(一定規模以上)と作業基準を遵守
:発注者は、自社建屋にレベル1が使用されていないかあらかじめ調査
2006年 アスベストを含有する断熱材、保温材、耐火被覆材(レベル2)の規制対象への追加
規制対象の解体等工事の規模要件を撤廃、特定建築材料が使用されている工作物の解体工事についても届出、作業基準の遵守等を義務付け
:元請業者等は、建屋や工作物の解体等工事の際、レベル1、2のアスベストの有無を調査し、含有している場合は、届出と作業基準を遵守
:発注者は、自社建屋及び工作物にレベル1、2が使用されていないかあらかじめ調査
2013年 特定粉じん排出等作業の実施の届出義務者を受注者から発注者に変更
解体工事前の調査の実施・調査結果の説明、報告及び検査の対象拡大等、規制を強化
:元請業者等は、解体等工事前にレベル1、2のアスベストの有無の調査を実施し、調査結果を説明
:発注者は、レベル1、2が含有されている場合、工事前に届出
:発注者は、届出義務が発生したことを踏まえ、解体等工事の前に、元請業者等とアスベスト対策を検討する手順を設ける
2020年 全ての石綿含有建材(レベル3)への規制対象の拡大
都道府県等への事前調査結果報告の義務付け及び作業基準遵守の徹底のための直接罰の創設
:元請業者等は、解体工事前にレベル1、2、3のアスベストの有無の調査を実施し、調査結果を説明。また、一定規模以上の工事について事前調査結果を都道府県等に報告
:発注者は、レベル3が追加されたこと等を踏まえ、解体工事の前に、元請業者等と追加規制が工事で満たされるかどうかを社内で確認する手順をつくる

 1996年に大気汚染防止法が解体等工事へのアスベスト規制をスタートさせた際、規制対象は、吹付けアスベスト(レベル1)のみでした。この段階でアスベストの調査を独自に行った企業も少なくなかったようです。冒頭の企業もそうだったのでしょう。

 しかし、その時点での調査では、規制対象がレベル1のみであったために、レベル1のみを調査対象にしていることが多かったようです。
 冒頭の事例では、それを理解しないまま、「すべてのアスベストは無かった又は除去した」と勘違いしてしまったというわけです。

 アスベストを含有する断熱材、保温材、耐火被覆材(レベル2)が規制対象に追加されたのは2006年です。
 この段階で、自社建屋及び工作物にレベル1、2が使用されていないかあらかじめ調査していれば、冒頭の事例のようなことは無かったことでしょう。

 さらに2013年の改正も重要です。レベル1、2のアスベストを含む解体等工事を行う際には、都道府県への事前届出が義務付けられていますが、その届出義務者が元請業者等から発注者に変更されたのです。一気に発注者の責任が強化されたものです。
 2020年には、全ての石綿含有建材(レベル3)へ規制対象が拡大されました。

 こうした状況を踏まえれば、発注者は、解体等工事の前に、元請業者等と追加規制が工事で満たされるかどうかをしっかりと確認する場を社内で手順化すべきでしょう。

 公害規制は、法改正を繰り返しながら今日の姿となっています。その改正の都度に対応を適切に行っていないと、法的義務の抜け漏れが残ったままとなります。
 法令遵守のしくみと運用を考える際には、こうした抜け漏れがありうることを前提にするとよいでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2023年09月)

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