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産廃処理場の「確認」方法は最新動向を考慮する

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 あるプラスチック製品を製造する工場を訪れたときのことです。

 環境法順守に関する手順書を確認したところ、「年1回、産業廃棄物の処理委託をしている産廃処理場を実地確認する。」という手順がありました。

 「実地確認の記録はありますか?」と聞くと、次のような回答がありました。

 「新型コロナウイルス感染症の問題以来、実地確認はしていません。そろそろ再開すべきではないかという意見もあったのですが、そもそも実地確認は義務ではないのではないかという意見も出てきて、対応方法が決まっていないのが現状です。」

 筆者は、時折、産廃処理場を訪問しています。
 コロナ前は、排出事業者の企業が次から次へ実地確認に訪れていましたが、コロナ以降、その訪問数は激減しました。
 コロナが感染症法上の5類に移行し、社会生活がコロナ前に戻りつつある中、実地確認を再開する企業も増えてきました。一方、冒頭の事例のように、実地確認を再開することに躊躇している企業も少なくありません。

 実は、排出事業者が産廃処理場に対して実地確認をするということは、廃棄物処理法に具体的に書いてあるわけではありません。しかし、排出事業者は、環境省の通知行政の影響により、最近まで限りなく義務に近い対応をせざるをえなかったようです。
 また、最近、新たな通知が出され、規制が実質的に緩和される動きも出てきました。

 実地確認を巡る法令と環境省通知の概要をまとめると、次の図表の通りです。

産廃処理場への「確認」を巡る法令と環境省通知

項目規定ポイント
「確認」の根拠規定
  • ●廃棄物処理法第12条第7項
    処理委託する際には「当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行う」ことを求めている。
  • 処理状況に関する「確認」を求めているが、「実地確認」と明記していない
  • 条文の末尾が「...努めなければならない。」と、義務規定ではなく、努力義務規定の体裁となっている(注意義務規定)。
「確認」を怠った場合
  • ●廃棄物処理法第19条の6
    第12条第7項等の「趣旨」に照らし、場合によっては排出事業者等に措置命令が出される(罰則あり)。
  • ◆環境省通知(R3.4.14環循規発第 2104141号)では、「確認」を行っていない場合措置命令を受けるリスクがあると示した。
「確認」とは?①
  • ●環境省通知(平成23年2月4日環廃対発第110204005号・環廃産発第110204002号)
  • 「確認」とは、①実地確認、②優良認定業者などは公表情報による確認の2つがあるとの解釈を示した。
「確認」とは?②
  • ●環境省通知(R5.3.31環循適発第23033125号・環循規発第23033110 号)
  • 実地確認以外の方法として、「デジタル技術を活用して確認することも可能」とした(オンライン会議システム等を用いた確認など)。
  • 複数の排出事業者が共同してデジタル技術の活用により確認することも認めた。

 そもそも「確認」の根拠規定は、次の廃棄物処理法第12条第7項となります。

 「事業者は、前二項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」

 この条文では、排出事業者に対して処理状況に関する「確認」を求めてはいますが、「実地確認」と明記しているわけではありません。
また、条文の末尾が「...努めなければならない。」と、義務規定ではなく、努力義務規定の体裁となっています(本条は、「注意義務規定」とも言われます。)。
つまり、一見したところ、この条文だけから直ちに「実地確認が義務付けられている。」と言うには無理があります。

 ただし、廃棄物処理法第19条の6では、排出事業者に対して、処理業者が処理基準に適合しない処理を行い、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあるときで、排出事業者が第12条第7項等の「趣旨に照らし排出事業者等に支障の除去等の措置を採らせることが適当であるとき」などの要件に該当する場合、都道府県知事は、排出事業者に支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができると定めています。
措置命令に違反した場合、5年以下の懲役・1000万円以下の罰金等の罰則も定めています(第25条)。

 これに関連して、環境省通知「行政処分の指針について(通知)」(R3.4.14環循規発第 2104141号)の次の箇所を読むと、「確認」規定を単なる努力義務規定として軽く見てはいけないものだと考えざるをえません。

 「なお、法第 12 条第7項又は第 12 条の2第7項の規定によるその産業廃棄物の委託先での処理の状況に関する確認を行っていない排出事業者及び中間処理業者については、「排出事業者等に支障の除去等の措置を採らせることが適当であるとき」に該当する可能性があること。」

 つまり、排出事業者が「確認」をしていない場合、措置命令を受けるリスクがあるということです。
 そこで、「確認」の意味内容が問われることになります。
 この点について、平成23年の環境省通知では、次のように実地確認等を求める解釈を示しました(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」(平成23年2月4日環廃対発第110204005号・環廃産発第110204002号))。

 「事業者が委託先において産業廃棄物の処理が適正に行われていることを確認する方法としては、まず...産業廃棄物処理業者等...の事業の用に供する施設を実地に確認する方法が考えられること。
 また、...優良認定又は優良確認を受けた産業廃棄物処理業者等に産業廃棄物の処理を委託している場合など、その産業廃棄物の処理を委託した産業廃棄物処理業者等により、産業廃棄物の処理状況や、事業の用に供する産業廃棄物処理施設の維持管理の状況に関する情報が公表されている場合には、当該情報により、当該産業廃棄物の処理が適正に行われていることを間接的に確認する方法も考えられること。」

 筆者の実感としては、上記通知が発出され、また東海地方や東北地方を中心に、実地確認を義務付ける条例が相次いで制定されたことを受け、大企業を中心に実地確認を社内ルール化する企業が増えたように思えます。

 ところが、令和5年3月、環境省から次の通知が発出され、実地確認以外の方法がより具体的に示されたことにより、風向きが変わってきたように感じます(「デジタル原則を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の適用に係る解釈の明確化等について(通知)」(R5.3.31環循適発第23033125号・環循規発第23033110 号))。

 「当該確認の方法については、廃棄物の処理が適正に行われていることを実質的に確認することができると認められるのであれば、実地に赴いて確認することに限られず、デジタル技術を活用して確認することも可能である。デジタル技術を活用した確認の方法としては、例えば、電磁的記録による許可内容や帳簿等の情報の確認、オンライン会議システム等を用いた処理施設の稼働状況や周辺環境の確認、情報通信機器を使用して産業廃棄物処理業者への管理体制の聴取を行うことなどが考えられる。
 また、排出事業者責任の重要性に対する認識や排出事業者と処理業者との直接の関係性が希薄になることがないと認められる場合であって、上記のとおり廃棄物の適正な処理について実質的な確認が可能である場合は、同一の産業廃棄物処理業者に処理を委託している複数の排出事業者が共同してデジタル技術の活用により廃棄物の処理の状況を確認することは妨げられるものではない。」

 この通知では、一定の要件を定めているものの、実地確認でなくても、オンライン会議システム等を用いた確認をしてもよいということが示されました。しかも、複数の排出事業者が共同して確認することも認めています。
 従来よりも大幅に柔軟性があり、事実上、規制緩和となる通知だと思います。

 もちろん排出事業者責任がなくなるわけではなく、今後も排出事業者には最終処分までの適正処理に責任を負わせるという点について変化はありません。しかし、令和5年通知は、効率的とはとても言えなかった実地確認制度についてかなりの変化を及ぼすことになるでしょう。
 複数の事業所を各地に持つ排出事業者は、オンライン会議システム等によりシンプルな確認ができることでしょう。業界団体や地域の企業協議会などを受け皿にオンラインで確認を進めてもよいかもしれません。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2023年11月)

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