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プラスチック対策、本当にやり尽くしたのか? プラスチック資源循環法への対応方法のコツ

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ある大手メーカーの工場を訪問したときのことです。その工場で生産する製品にはプラスチックが含まれており、不要となったプラスチック端材が発生していました。

 その工場に適用される法令の一覧表を確認すると、プラスチック資源循環法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)があり、工場としての取組み項目として「廃プラスチックのリサイクルの促進」とのみ掲げられていました。
抽象的な取組み項目だと思い、次のように聞いてみました。

 「プラスチック対策として具体的には何をされているのですか?」
 「現在、製造工程から排出される不要なプラスチック端材は、有価物として売却するか、リサイクルしています。」
 「プラスチック資源循環法に沿った取組みはされていますか?」
 「うーん、この法律を読んではみましたが、内容が抽象的ですよね? うちの工場では以前からISO14001で環境活動をしていますし、この法律によって新たな取組みはしていないですね。」

 その後、工場の各所をまわり、各部門の方々と議論を進めていくと、製造工程の変更による不要なプラスチック端材の減少策や、製造工程内のみで使用するプラスチック素材の使用量減少策などのアイディアが出てきました。
 また、「リサイクル」と言っても、実際は「熱回収」(いわゆる「サーマルリサイクル」。焼却に伴い発生する熱を暖房などに利用すること)であり、それよりも優先順位が高い再資源化(マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル)ではありませんでした。またまだ取組む余地はあったのです。

 プラスチック資源循環法は令和4年4月に施行されました。
 施行当初は、大企業を中心に、自社でどのようにプラスチック対策に取り組むのか悩む企業も少なくありませんでした。

 そのうち、一部の企業では先進的な取組みをスタートさせていますが、全体として見ると、その取組みの必要性についての問題意識は広く共有されたものの、いま一つ具体的な取組みにつながっていない企業が多いように感じます。
 しかし、筆者は、本法の下に定められた「排出事業者の判断基準」には、プラスチック対策を考える上で多くのヒントが隠されていると思っています。

 「排出事業者の判断基準」のポイントと企業の取組み例は、次の図表の通りです。

プラスチック資源循環法
「排出事業者の判断基準」のポイントと企業の取組み例

■排出事業者の判断基準
正式名称「排出事業者のプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等の促進に関する判断の基準となるべき事項等を定める命令」(令和4年内閣府・デジタル庁・復興庁・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省・防衛省令第1号)
◆判断基準のポイント ◆企業の取組み例
■原則
○次の優先順位に従う
  • ①排出を抑制する
  • ②再資源化を行うことができるものは再資源化を行う
  • ③再資源化ができないものでも、熱回収を行うことができるものは、熱回収を行う
  • 優先順位の高い方法に切り替える
    (熱回収から再資源化への変更等)
  • ●廃棄物だけでなく、(廉価で売却している)有価物も取組み対象に加える
■再資源化の措置
○再資源化等を著しく阻害するものの混入を防止
○熱回収は、可能な限り効率性の高いものとする
  • ●事業所ごとの分別強化へ事業所間で相互チェック
■情報の提供
○再資源化等を委託するときは受託者に廃棄物等の性状などの情報を提供する
○毎年度、排出量と取組み状況をインターネット等により公表するよう努める
  • ●プラスチックに特化した排出量と取組み状況を自社ウェブサイトで公表
■教育訓練
○従業員に排出抑制と再資源化等に関する必要な教育訓練を行うよう努める
  • ●プラスチックに特化した教育プログラムを導入
■管理
○排出量、排出の抑制及び再資源化等の実施量等の状況を記録する
○事業場ごとの責任者の選任及び管理体制の整備を行う
  • 有価物も記録
  • 事業所ごとに責任者選任
■多量排出事業者 (前年度排出量250トン/年以上)
○排出抑制と再資源化等の目標を定め、その取組みを計画化する
○毎年度、排出量と目標達成状況をインターネット等により公表するよう努める
  • ●プラスチックに特化した排出量と取組み状況を自社ウェブサイトで公表

 まず、判断基準では、対策の優先順位を定め、①排出を抑制する、②再資源化を行うことができるものは再資源化を行う、③再資源化ができないものでも、熱回収を行うことができるものは、熱回収を行うと設定しています。

 実は、この優先順位は、循環型社会形成推進基本法ができた2000年代初頭には広く知れ渡った考え方であり、特に新味があるわけではありません。
 しかし、不要になったプラスチックへの対策として、優先順位の低い熱回収を選択する企業が多いのが現状です。近年、熱回収は、焼却処分とセットになっているものであり、カーボンニュートラルの観点からも問題視する見解が増えてきました。

 ある企業では、使用済のプラスチックについて従来は熱回収による処理委託をしていましたが、これは課題であると認識し、活動テーマとして「熱回収の段階的削減と代替案の検討・試行」を目標化しました。具体的には,再資源化先を探し出し、議論を重ね、再資源化しやすいような製造工程の見直しを行い、熱回収をやめました。

 また、この法律では、排出事業者に対して「プラスチック使用製品産業廃棄物等」の排出抑制と再資源化等を求めていますが、この「プラスチック使用製品産業廃棄物等」の定義にも注目すべきです。
 本法2条9項では、これを「...産業廃棄物...又はプラスチック副産物」と定義し、対象物を広く定義しています。

 筆者が工場や事業所の現場をまわりながらしばしば気になることがあります。それは、従来、廃棄物であったものが有価物として売却できるようになった途端、その排出量の削減に取り組まない工場等があることです。
 しかし、「有価物」と言っても極めて廉価なものであり、原材料等の購入をして、残った物を売却している状況を勘案すれば、本来的には削減すべき対象物のはずです。

 ある企業の物流部門では、排出抑制等できる有価物が無いかどうか検討した結果、梱包資材のストレッチフィルムの排出削減の余地が大きいことに気づきました。
 従来,この使用済ストレッチフィルムは有価物として売却していたために、特に削減の活動をしてきませんでした。
 しかし,使用量が増えれば購入代金もかかります。かつその使用するための作業者の労働時間もかかることになります。
 そこで,使用量の削減は重要と判断し、使用量を抑えつつも荷崩れを生じさせない適正な使用量を検証し、全体として使用量の削減につなげました。

 以上、2つの取組み事例を紹介しました。
 この他にも、図表に提示したように、判断基準を読みながら、取組みに向けた様々なアイディアを思い描くことができるのではないでしょうか。

 例えば、冒頭の工場のように「すでに当社は環境活動を行っており、これ以上取組むことは無い」という発言を筆者はよく聞きます。

 しかし、そうした事業所において、プラスチックに特化した取組みを本当にしているでしょうか。図表に示したような、プラスチックに特化した教育訓練や管理体制を整備することにより、進捗管理を図ることができるとともに、従業員の中から新たな取組み案が提案され、実施している企業もあるのです。

 「もう、これ以上の対策はできない。やり切った」という「乾いた雑巾論」は、正直なところ心地よい響きがありますが、思考停止に陥るリスクもあります。

 来年には、新たなプラスチックに関する国際条約もつくられようとしています。まだまだこの対策は強化されていくことでしょう。
 いま一度、自社で更にできるプラスチック対策を検討し、実施していることが求められているのです。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2024年02月)

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