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「変化」と環境法を結びつける

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 筆者が環境のコンサルタントや審査員として企業を訪問し、環境法に逸脱するケースに直面するとき、その多くは、「変化」を見過ごしたために生じた問題であることに気づかされます。
 試みに、過去数カ月の間に筆者が実際に見たトラブル事例を掲げてみると、次のようなものがありました。

◆ケース①
 水質汚濁防止法の有害物質貯蔵指定施設があるにもかかわらず、同法に基づく届出や構造基準の順守、定期点検を実施していなかった。

◆ケース②
 設置したコンプレッサーが法や条例の規制対象に該当する設備であったにもかかわらず、騒音規制法や県条例の適用有無の検討すら行われず、届出や規制基準の順守の取組みもしていなかった。

◆ケース③
 特別管理産業廃棄物管理責任者の資格者が別の事業所へ異動したにもかかわらず、有資格者の後任者が不在であった(その事業所は特別管理産業廃棄物を処理委託している)。

 いずれも決してレアケースではありません。しばしば散見されるものです。
 そして、これらは、対応不可能なものではありません。逸脱しやすい典型的なケースであり、あらかじめ対策(仕組み)を講じておくことで、効果的に防ぐことができるものです。

 上記①~③のケースをもう少し解説しておくと、まず①のケースは、「法の変化」、つまり、法令改正に気づかずに対応できなかったものです。
 水質汚濁防止法の有害物質を貯蔵のみする施設については、かつては同法の規制対象外でした。これが、平成24年改正水質汚濁防止法により、届出や基準順守などが義務付けられるようになったのです。

 改正から5年近く経ってはいるものの、いまだにこうしたケースが生じることがあります。24年時点でしっかりと情報を入手し、自社への規制適用の有無を検討していれば、このようなことにはならなかったことでしょう。

 次に②のケースは、「業の変化」、つまり、自らの事業や設備等の変更と変更への法規制の適用に気づかずに対応できなかったものです。

 実は、事業や設備等が変化した場合、ISO14001やエコアクション21などの環境マネジメントシステム(EMS)の仕組みには、環境影響を検討し、法規制の適用有無などをチェックできるようになっています(臨時の環境側面の見直しなど)。
 実際に、外部認証を取得している企業のほとんどの環境マニュアルなどの文書にはこうした規定が書かれています。
 ところが、これらが運用されていないのが実態なのです。

 さらに③のケースは、「人の変化」、つまり法規制の責任者や担当者が変更したにもかかわらず、法的な対処を何もしていなかったというものです。

 昨今、環境対策に詳しく、様々な資格を持つベテラン社員が次々に退職してしまい、有資格者を手配できていない事業所が少なくありません。その状況に気づいていればまだいいのですが、法知識に乏しいスタッフだけのために、それにすら気づいていない事業所もあります。

 以上のような3の変化を踏まえて、筆者は、「法・業・人」の3つの「変化」に気をつけて、それに対応する仕組みをつくり、運用していくことを呼びかけています。

図表:「法・業・人」3つの変化と対応の仕組みの例

変化するもの概要対応の仕組みの例
「法」
法令は動いている
環境法は特に新法、改正が多い分野(条例を含む)。突然規制対象となることも 〇法・条例改正情報を入手
〇入手情報の適用可否検討の場
「業種」
事業は動いている
企業の事業活動は一定ではない。事業内容、事業エリア、設備など、変更が多い 変化の都度検討する場
〇法規制適用可否検討の場
「人」
人は動いている
人事異動、退職、入社など、担当社員は一定ではない。 有資格者リスト(誰が資格者か。どこに資格者が必要か)
〇定期的な教育

 企業にとって「変化」とは一過性のものではありません。特に「法」や「人」の変化は、どのような企業であっても先々も起こりうるものです。

「変化」を見極めることとそれへの対応手順を整えることが大切なのです。そして、その仕組みが継続的に機能しているかどうかをきちんとチェックし続けることが求められます。

参考文献 安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2019年5月)

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