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産業廃棄物処理委託は下請法の適用対象になるのかどうか(その1)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 近年、法規制の対象を正確に把握することなく、「外形的に法律違反が無い状態にすることだけ」を目指す、本来のコンプライアンスとは少し異なる「法律順守(←遵守でないことに筆者のささやかなこだわりがあります)」が高らかに叫ばれる傾向があります。
 もちろん、企業活動においては、法律違反をしないことが重要であることは間違いありませんが、法規制の対象とされていない行為を、規制対象と誤解をして大騒ぎをしている事例を少なからず見聞きします。
 今回のメールマガジンで掘り下げるテーマは、上述した大騒ぎの発端の一つである「産業廃棄物処理委託は下請法の適用対象になるのかどうか」です。

 まず、「下請法」とは、正式には「下請代金支払遅延等防止法」という名称であり、昭和31(1956)年に制定された法律です。意外と古い時代に制定された法律だったのですね。
「下請法」は、法律の名称が示すとおり、下請となる、通常は発注者よりも力が弱い事業者に対し、代金の支払いを不当に遅延すること等を禁止する法律であり、「親事業者(発注者のこと)がやってはいけない行為(禁止行為)」や「義務」を規定しています。
このように、「下請法」では、「親事業者」の義務については規定されていますが、「下請事業者」が負うべき義務は特に規定されていません。「下請代金支払遅延等防止法」という正式名称からお分かりいただけるように、「下請法」が同法の保護対象となる「下請事業者」に義務を課していないことは当然と言えます。
 しかしながら、実際には、「下請事業者に対し、それが下請の法的義務であるかのように、書面の提出を要求する親事業者」が数多く存在します。
 もっとも、「親事業者」には、「下請事業者の給付の内容」その他を記載した書類を作成し、2年間保存する義務がありますので、正確な書類作成をするために、「下請事業者に書面で確実に情報提供をしてもらう」ことも場合によっては必要であろうと思います。しかし、「書類の作成と保存」は「親事業者」固有の義務であることを忘れてはならないと考えます。
 さて、本稿のテーマである、「産業廃棄物処理委託契約」と「下請法」の話に戻ります。「収集運搬」や「中間処理」等の「産業廃棄物処理委託契約」を締結した産業廃棄物処理業者に対し、契約内容に関する情報を書面で提供することを要求する発注者(廃棄物処理法では、排出事業者)の行動は、法的に適正と言えるのでしょうか?
 下請事業者には書類提供の義務が無いことは先述したとおりですが、そもそも、産業廃棄物処理業者が「下請法」でいうところの「下請事業者」に該当するのかどうかを判断するために、以下「下請法」の規制対象の詳細を検討していきます。

 「下請法」の規制対象となる取引は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4類型となります。産業廃棄物処理委託契約の場合、「修理委託」と「情報成果物作成委託」に当てはまらないことは明白ですので、この2つの取引類型は除外します。
 残りは「製造委託」と「役務提供委託」の2つになりますが、これらの単語を見る限りでは、
・「リサイクルの委託」は「製造委託」?
・「収集運搬の委託」は「役務提供委託」?
と考えてしまいそうです。

 ここで思考を止めてしまうと、「産業廃棄物処理業者は下請法でいうところの『下請事業者』なのだ!」と即断してしまうことになりそうです。
 法律(本稿では「下請法」を指す)用語は、それを「定義した条文」以外では、非常に抽象的な「記号」として用いられていますので、「製造委託」や「役務提供委託」という「記号」からは、その「記号」が意味するところの「詳細な定義」を読み取ることは不可能です。本質的に重要な部分は、「抽象化された後の記号」ではなく、「詳細な定義」の方となります。

 次回、「下請法」における「製造委託」と「役務提供委託」の「詳細な定義」を見て、産業廃棄物処理業者が「下請事業者」に該当するのかどうかを明らかにします。

(2022年5月)

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