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産業廃棄物処理委託は下請法の適用対象になるのかどうか(その2)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 今回は、「下請法」における「役務提供委託」の「詳細な定義」を見て、産業廃棄物処理委託が「役務提供委託」に該当するのかどうかを明らかにします。

 まず、「役務提供委託」とは、「下請法」で次のように定義されています。

下請法第2条第4項
 この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。

 このままでは日本語として読みにくいため、建設業に関する部分を簡略化すると、次のようにシンプルになります。

下請法第2条第4項(簡略版)
 この法律で「役務提供委託」とは、①事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の②行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。

 「下請法」の「役務提供委託」の定義を理解するコツは、切れ目なく続く長文が意味するところを整理して理解することです。
 具体的には、上記の簡略版条文のうち、下線を引いた条文を2つに分け、それぞれを熟読します。

 まずは、前半の①「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供」ですが、
「事業者」は「親事業者」、
「業として行う」は「反復継続して、他者からの依頼に応じて役務を提供すること」を指します。
 以上を念頭に、①「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供」を具体的に言い換えると、「事業者や消費者から役務の提供依頼を受けた親事業者が提供する役務」という意味になります。

 次は、②「行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」ですが、こちらは①よりも意味がわかりやすいかと思いますが、「親事業者が提供すべき役務の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託すること」を意味し、文字どおりの「役務提供の下請発注」となります。

 このように見ていくと、「下請法」の対象となる「役務提供委託」とは、「業として事業者や消費者から役務の提供依頼を受けた親事業者が提供する役務の全部または一部を下請事業者に委託すること」であることがわかります。

 公正取引委員会が作成したパンフレットでは、「下請法」の対象となる「役務提供委託」の例として、
・「貨物運送事業者(親事業者)」から「トラック運送会社(下請事業者)」への、一部経路の運送業務の委託
・「ビルメンテナンス会社(親事業者)」から「清掃会社(下請事業者)」への、メンテナンス業務の一部であるビル清掃業務の委託
 等が挙げられています。
 いずれも、「発注者」「親事業者」「下請事業者」の3者の存在を具体的にイメージできると思います。

 「役務提供委託」に関する定義のポイントは、「業として」という部分です。上述したとおり、「業として」とは、親事業者が「反復継続して、他者からの依頼に応じて役務提供する」ことを指しますので、逆に、「自ら用いる役務」は、業として行わないため「役務提供委託」になりません。
 産業廃棄物処理委託が下請法の「役務提供委託」に該当するかどうかを判断するためには、「産業廃棄物処理」が、「業として行った役務提供委託かどうか」を考えれば良いということになります。言うまでもなく、「排出事業者」は、他の会社から「わが社の産業廃棄物を処理してくれ」という委託を受けたわけではありませんので、排出事業者による産業廃棄物処理は「自ら用いる役務」に該当し、「下請法」の「役務提供委託」となりません。
 処理業者へ産業廃棄物処理委託をする場合も、「自ら用いる(べき)役務」の実行を処理業者に委託するだけですので、やはり、排出事業者は「業として」「役務提供委託」をすることになりません。

 「下請法」の「役務提供委託」が成立する条件として、
・「発注者」
・「発注者」から業として役務提供の依頼を受ける「親事業者」
・「親事業者」から下請発注を受ける「下請事業者」
の3者の存在が不可欠ですが、廃棄物処理法では、ブローカー的な立場の「親事業者」の存在が認められていませんので、構造的にも「役務提供委託」が成立する余地は無いと言えます。

(2022年6月)

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